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神業代行〜カミワザダイコウ〜 一章 施錠解錠(アンロック) 一部  作者: 杉崎 朱


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第48話 『ショウテンガイ』



 

 日差しは暑いが風は涼しい。秋がゆっくりとやってきていると感じる。

 シンは先日の騒動を思い出していた。



 初めて甲斐に釘を刺されてしまった。

 施錠の力は”控えろ”とは言われたものの、使うなと言われたことはない。


「(俺自身は少し疲れた程度で問題はないんだけど。・・・ただ、使おうと思って使ったわけじゃなくて、そうなったら良いなって思ったくらいだったんだけどな)」

 教室で話し合いに参加しないで窓の外を自分の席から眺めている。教室から見える樹々の葉が枯れ始めたり黄色く染まってきている。

 今は二ヶ月経たない内に本番を迎える学園祭の出し物の話し合いをしている。シンは学園祭を楽しみにはしているが、出し物に関してはさほど興味がない。表舞台に立たなければ良いだけだからだ。

 決まった後に考えれば良いと考え、シンは別の事を考える。


「(深雪さんは、国生さんの家に何日かお世話になるという話だ。彼女が少しは心配だが、俺が行っても出来ることはない。SNSで深雪さんの件が数日間は話題になっていたがようやくそれも冷め始めたし、これはしばらく大人しくしてた方が良いんだろうな)」



「・・・ぅ・・う」



「(それにしてもなんで時間を止められたんだ?特に何も唱えたりしたわけでもないのに勝手に印が出てきた。それで勝手に時間が止まり出した。何をしたわけでもないのに)」


「ぅー・・・う・・」



「(強いて言うなら、あの時キツネが『時間とめるくらいしか』って言ったのを聞いーー)」



「ぅ!・・・じょう!!・・瀬条!!」



「え?あ、はいすみません。なんでしょうか?」


 

 黒板の前から担任の教師がシンを呼んでいた。夢中になって考えていたので気づかなかった。シンがやっと気づいて前の教師や教室を見渡した時の皆んなの顔はニヤニヤとしていた。近くの席のスズだけが渋い顔をしていた。


「何回呼んだと思ってんだ?メイドと執事喫茶にしようって話になってんだよ。で、瀬条は女子の希望もあり、執事で給仕してもらうからな!はい!決まり!」

「え?俺が執事?」

「はいっ!決まり!!じゃあ次の決める事行くぞー」


 自分が考え事をしている間にとんでもない方向へと進んでしまった。文化祭のクラスの出し物はメイド喫茶が濃厚だと小耳に挟んだ為、シンは油断をしていた。メイド服を着る男子もいるかもしれないが、自分は絶対にないだろうと。しかしシンが考え込んでいる間に、一人の生徒が男子生徒にも華をと言い始めて、シンを含む数人が執事をやるという話になっていたのだ。


「マジか・・・」

「シン、スズが声かけても全然反応してなかったよ」

「・・・俺以外に聞こえないんだからキツネがデカい声掛けてくれれば良かったんじゃないか?」

 椅子から腰を折り、机の横にかけてある鞄から顔を出しているキツネに向かって言う。キツネがその時声を掛ければまだシンは反論できる余地はあったのだ。しかし、キツネは執事をするシンを見たくなった為黙っていたのだ。

「あっ!そうか!僕の声って聞こえなかったんだっけ!」

 鞄に手を入れてキツネの耳を摘んで引っ張った。

「甲斐くんみたいな事しないでーーー!!!」




・・・ーーー




「国生が、みーたんの所属事務所やマネージャーと連絡を取ったらしい。しばらくあいつの神社で匿うってよ」

「そうか。よかった」

「一人じゃなくて良かったね!」



 学校が始まった為、月曜の朝は会えない。毎回、次の約束をして顔を合わせることにしたシンと甲斐。今日は放課後に初めて待ち合わせで使う公園で落ち合った。

 甲斐は国生と連絡をとっているらしく、甲斐経由でみーたんの現状を聞いたシン。先日ひどく不安がっていた事もあり、誰かと一緒に居れている現実に心配が和らいだ。



「この間のシンが”時間を止めた”時の記憶は消したって国生が言ってた。でも、シン自身と出会った事の記憶を消そうとしたらやっぱりダメだったと。術を跳ね返されたって言ってた。そもそも罰則だからな。それを国生(アイツ)も良く試したもんだ」

「じゃぁ、みーたんまだシンに会いたがってるの?」

「そうでもねぇらしい。国生の所で普通に落ち着いてるってよ」

「あれかなぁ?寂しかっただけかな?シンの事は罰則で覚えてるわけでしょ?その他の人に関しては記憶喪失で忘れちゃってるなら、寂しくて唯一?覚えてるシンを頼ってやってきたのかもね。一人が寂しかったのかもね」

「だったら尚更一緒に生活してくれる国生さんが居て助かったな」

「じゃ、みーたんも問題がないってことで、今日はパーっと美味いもんでも食いに行くか」

 甲斐が空気を変えるために提案をした。


「たこ焼き食べたい!たこ焼き!」

「じゃあ今日はたこ焼きな」


 話はまとまり、今日は駅ではなく商店街へと向かう。昔ながらの商店街。店の入れ替わりもたまにあり、ここには数年前からたこ焼き屋がある。駅よりは人が少ない。いつも穏やかな商店街だ。問題が起きづらいだろうとシンはわざと駅を避けた。


「結構古い建物の方が多いんだねー!」


 キツネが鞄から顔を出しながら見渡している。この商店街へは連れてきてもらったことがなくとても新鮮だ。駅に関しては何度も行っていることもあり、どこにどんな店があるかはもう覚えてしまっている程だ。


「再開発とかそう言うのもないだろう。これだけ駅から離れてればな。近くに空いたデカい土地があればマンションを建てるからとかで巻き添え食う可能性もあるが、近辺は住宅地だ。本当に昔からの建物ばっかりだな」

 ご年配の方が店先で話をしていたり、学校終わりの子供が親と一緒に買い物をしていたり、犬の散歩をしながら買い物をする人がいたりととても良い光景が流れている。

 あぁ、こういう穏やかな時間がいいんだよなとシンは最近の慌ただしさから解放された気になった。


「んーーー!!おいヒィよぉぅうううう〜〜・・・!!」

「黙って食えうるせぇなぁ」

「だって・・!最近こうやって出かけて落ち着いて楽しく食べられることなかったんだもん!」

「牛丼食われてたもんな」

「お祭り連れてってもらったけどシン何も買ってくれなくて本当に行っただけだったの!」

「騒ぎがあって忘れてたんだから仕方ないだろう・・・」


 久々の楽しみを満喫して上機嫌なキツネ。正直甲斐もまんざらではない。バーガーショップに行けば店員は刃物を構える。牛丼買えばみーたんが出てくる。全員、ここ最近はずっと心が落ち着かない状態だった。


「さぁ、食ったし変えるぞ。門限破るといつかの時に自由が効かなくなるからな。学校まで送迎付きになったらたまったもんじゃねぇ」

「うわぁ・・・甲斐くん、とんでもないお嬢様だね」


 今日は珍しく平和な日だとシンは心が清々しかった。このまま家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入り、寝ることができたらここ最近で一番幸せな日なのではないだろうかとさえ考えていた。


「ッチ、道変えるぞ。なんか騒がしい。今日くらいは問題はごめん被りたい」

 幸せな気分を味わっていた二人と一匹だったが、まず一人が先に不穏に気づいた。予想を、幸せを壊すかのような音が聞こえる。人の声だ。


「どうしていつも私にばかりいうの!!うちが大変だってわかってるんでしょ!!どうしようもないのよ!!」

「でもなぁ?ここはこうやってみんなで協力してやってきてるんだ。お宅だけってわけにはいかなんだよ。みんなやりたくなくても順番でやってんだから!!」


 今の今まで穏便だった商店街で人の怒鳴り声だ。突然の事にシンは驚く。

「さっき通った時は何もなくてすごくいい雰囲気だったのにね・・・」

 キツネの言葉に二人は反応はしなかったが気持ちは同じだ。


「もう我慢できない・・・!!」

「それはこっちだって一緒だって!やってもらえないならこの商店街から出てってもらわないとだよ!!」


 先日会った女子大生の夏子も憔悴とはレベルが違う、更に憔悴し切った女性がいた。身だしなみも整えられず、正直不潔さを少々感じる。対するは商店街で商売をしているであろう、エプロンをつけた体格の良い婦人。顔つきが少々キツイ。二人が言い争っている。


「なんで私ばっかり言われなくちゃいけないのよ・・・!!そもそも父と母ができない状態なんだから仕方ないでしょ!私はただ介護でここにいるだけなのよ!!もう商売もしてないし、でもちゃんと家賃も会費も払ってる!!この状態で自治会を手伝えっていうの?!私が若いから役員をやれって言うの?!馬鹿じゃないの?!」

「でも、ここにいる以上はここのルールーに従ってもらわないと困るよ。同じようにできない人はここから出て行ってもらってるんだ。あんたたちだけ特例ってわけにはいかないんだよ!!」


 通行人が二人を避けて通る。


「融通も利かなければ人間の心もないのね!!あんたが同じ目にあった時同じことされるわよ!!」

「ウチは娘も息子もたくさんいるからね。お宅と同じにはならないし、もし商店街のことが出来なくなったらそりゃ出てくよ!!」

「ウチは行く当ても何もないのよ!!見てわかるでしょ!!」

「でも困るんだって。決まりだからね」

「うるさいうるさいうるさい!!!」

 ヒートアップしてきた。



「・・・シン、甲斐くんが言った通り他の道を通って帰ろう?」

 珍しくキツネが施錠を奨めないで帰るように言った。

「でも、流石にこのままじゃ・・・。施錠すればすぐに気持ちが落ち着く。冷静にさえなれば」

 手を顔の前に翳したシン。


 しかし、その手は甲斐に掴まれた。

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