第47話 『タイマー』
「なんでよ・・・なんで私が自由にするだけでそんな事されなくちゃいけないのよ!!刺された傷だってやっと落ち着いたのに!落ち着いただけよ?!でもこれ以上病院にいるともしかしたらまた狙われるかもって言われて病院を出されたし・・・なんか病院に問い合わせとか変な人が沢山きて困るって言われたから・・・」
記憶がなく状況が把握しきれない時に殺人予告があると言われ、流石のみーたんも落ち込んだ様子を見せた。
「だから早く帰ったほうが良いって言ってるんです。ほら、タクシーなら今捕まえますから」
「やだ!!こんなの・・!!こんなの怖いに決まってるじゃない・・・!!一人で居たくないの!!」
「・・・深雪さん、家族に迎えにきてもらいましょう」
「家族は遠いの!!すぐになんて来れないから!!なんでアイドルになんてなったのかわかんない!!一人でいられない!怖い!!また刺されるかも知れないんでしょ!?刺された時の記憶はないけど、目が覚めた時からずっとお腹痛いの!!怖いの!!一人にしないで!!」
途中から涙を流しながらシンと国生に訴えるように喚いたみーたん。二人は顔を見合わせた。目の前で年上の女性に泣かれてはどしようもない。
「シン・・・どうにかならないの?」
キツネがみーたんに同情した。しかし、シンは言葉が出ない。できる事がないからだ。経済的にもただの学生であり、特別な力はこういった時には何も役に立たない。怒った人の感情を抑えるだけであって、悲しんだり恐怖を感じている人になす術はないのだ。シンは国生を見た。こちらは自分の力の素を持っている現役のバチ当て様だ。今度はシンが国生にすがる思いで顔を見た。
「・・・わかったわ」
その言葉にシンは安堵した。
「とりあえずここにいても仕方ないわ。SNSを辿ればこの辺にいるのがバレるのも時間の問題だから一度ウチに」
「居たぞーー!!!」
「短いけどあの髪色!!間違いない!!」
「みーたんだー!!みーたんー!!」
「待てこのアマがぁあああーーー!!!」
SNSを見て追ってきた者達だ。興味本位、ファン、にわかファン、そして怒気を孕んだもの。後にも数名が追ってきた。
「国生さん・・!どうにか?!」
「この人数はマズイわ。不特定多数すぎる。ちょっと今日は相手できないわ。謂わば私丸腰だし」
「じゃあどうするの?!走って逃げる?!」
「深雪さんを走らせるわけには・・!何か・・・!」
シンは考えた。
「ダメだ、何も浮かばない・・・俺に、施錠以外に何かできる力があれば・・!!」
「シン何それ?!無理だよ?!そんなのどんな術!?大体今は時間止めるくらいしか切り抜ける方法ないからー!」
「俺は施錠以外の方法を知らない・・!!」
「馬鹿者っ!時間止めなんて今できるのは総代だけよ!私だってまだ使えな」
国生が言い終わる前に見たことのないものが出現した。
【キィイイイイーーーーー・・・】
聞きなれない大きい音と共にシンの目の前に青白く光り輝く逆五芒星が出現した。
それは大きくシンの身長を同じ高さだ。
国生が目を見張る。
「・・・?!総代が使った時と同じの・・・?!」
目の前の五芒星の線が動く。その瞬間、目の前で走ってこちらに向かってきていた人たちが全員止まった。足を止めたのではない。時間が止まったのだ。走った勢いで浮いている者もいる。通常ならあり得ないバランスのまま止まっている者もいる。
「今のうちに神社に・・・!!その前に瀬条くん動ける?!」
「はい!俺は大丈夫です!」
「みーたんは・・・」
「えっ・・・何これ?!みんな止まってる?!なんで?!」
「良いから走って!!」
「走れない!!傷口開いちゃう!!」
「あぁもう!!こんな時筋肉ムキムキの男手があれば・・・!」
「俺、抱えます」
そういって、シンは鞄からキツネを出してみーたんを軽々と抱き上げた。
「シンかっこいいー!!」
「・・・かっこいい・・・」
「嘘でしょ・・・この術使ってそんな体力がどこにあるの?!・・ッハ!とりあえず急ぎましょう!!」
国生の言葉にシンは走り出した。
シンの目の前の五芒星。星の線が形を変えて動き出した。タイマーの様な働きだ。
「流石にそんなに時間は保たないから、時間が止まってる間にあの人たちから少しでも距離が取れれば良いわ!!ってかなんで人抱えて走ってそんなに早いわけ?!強運体って不公平なんだけどっ?!」
そのまま五ツ峰神社まで走り続けた。
・・・ーーー
「とんだ災難だったわ・・・!この子、瀬条くんの邪魔して罰則を負ってるにしても不幸がちょっと過ぎるわ・・・元々が不幸体質なんじゃない?!」
「それって、シンと正反対って事?!強運体の反対だから強不運体?!」
「”不幸体質”のほうが聞き馴染みがあるわ」
神社の参拝客用の休憩室にみーたんを寝かせた。
そして、休憩室から出てきた国生がやっと一息吐いた。
「国生さん、巻き込んでしまってすみません」
「違うわ。そもそも瀬条くんが私たちバチ当てのために巻き込まれてるの。むしろこちらがごめんなさいだわ。さっき駅でたまたま彼女を見かけてね。その先に瀬条くんがいたから、あぁ、これが例の罰則ねって思って彼女を止めにかかったんだけど、思いの外強情だったから手こずっちゃったわ。今みたいに眠らせてもよかったんだけど、街中で眠らせたら私じゃ運べないから」
助かったわとお礼をいう彼女はどこまでも大人だとシンは思った。
「この後の事どうしましょう」
「とりあえず野次馬やファン達は帰ったでしょう。ネットに上がったものは仕方ないわね。彼女単品ならいいけど、瀬条くんや私の写真が載ってなければ良いわ」
「見たけど今の所載ってないよ!!」
キツネがシンの端末で見ている。
「なら良いわ。彼女の記憶を消しましょう」
「「え?」」
「ん?彼女の記憶を消しましょうって言ったの」
「記憶・・・消せるんですか?」
「消せるわよ?あくまで、今日彼女は瀬条くんと会ったところからだけよ?ほら、時間が止まった所を見ちゃってるから。殺人予告の件も消しても良いけどネットに残ってるならどうせまた目に入っちゃうだろうし」
記憶を消せることをあっけらかんと言われた事にシンは驚いた。
「じゃぁ!今日追ってきた人たちの記憶を全部消しちゃえば良いじゃん!!」
「そんな人数とネットに掲載した本人達の記憶を消せば生合成が取れないわ。違う記憶を植え付けるくらいできれば良いけど、私は消すことしか出来ない」
「総代にやってもらおうよ!!」
「この悪神の手先キツネ、毛を毟ってやろうかしら?」
「なんで甲斐くんみたいな事言うのーー?!?!」
「おい、呼んだか馬鹿キツネ」
神社の入り口から甲斐の声が聞こえた。
「ぎゃあああああーーー!!!今日僕が名前呼ぶと皆んな来るーーー!!」
「なるほどな。退院したからってまたみーたんがここまでやってきたと。で、最近はみーたんに怒りを募らせる他メンバーのファンが黙っちゃいないと?殺人予告まで出してなぁ・・・こういうのネットに書くと、今はもう捕まるんだろ?何人か今までだって捕まってるのにな。気持ちを抑えられないんだろうな」
甲斐が呆れた顔で言った。
「なんで甲斐くんここにきたの?」
「駅の近くにいたんじゃないかしら?それで騒動を聞きつけて来て、ここにいると予測したんじゃないかしら?」
「・・・それもそうだが、変な音が聞こえたんだよ。デカい音。国生、お前もしかして時間止めた?」
変な音、デカい音。国生の顔が変わった。
「そう!!そうなの!!忘れてたわ!!瀬条くんが時間を止めたの!!!!!」
「はぁっ!!お前何言ってんの?!馬鹿だろ?!」
「馬鹿じゃないわ!!本当よ!!」
「シンは施錠の力しか持ってないんだ!!時間を止められるわけっ・・・!!」
言って甲斐はシンを見た。
「・・・なんか、目の前に瞳印と同じ逆の星の形に光った青白い円が出てきて・・・」
ちょっと困った風にシンが甲斐に告げた。
「マジかよ、お前時間止める術を使った挙句、そんなに普通なのかよ・・・?!」
「流石にちょっとは疲れてるって・・・」
「時間止めてみーたん抱えて走ったんですからね、そりゃ疲れて当然よ」
「みーたん抱えて走ったダァ?!お前馬鹿じゃねぇの?!」
「なんでそんなに驚くんだよ?」
目の前の甲斐と国生がなんとも言えない表情でシンを見ている。そして、口を開いたのは甲斐だった。
「・・・国生はどうだかしらねぇけど」
「私はまだ使えないわ。体が保たないから」
「・・・成人した俺ですら時間を止めるのは苦労した。良くて数十秒。止めた後は歩くのも大変なくらいの疲労だ。走るなんて夢みたいな話だ。人を抱えてなんて信じられねぇ。
・・・シン、もう二度と時間を止める術は使わないでくれ」
苦しそうに言う甲斐をシンは疑問に思った。




