第44話 『ミズ』
「妹さんが言ってた『男性が好き』っていう話しなら私気にしません!それでも良いので私を彼女にして下さい!」
「えっ?!そうなの?!もしかして俺とかも守備範囲内だったりする?」
「あははははははっ!!!あーあーーー!!!プククククッ!!」
シンは警察署に呼び出された。
警察署内で呆れた顔をしている。カバンの中ではキツネが大爆笑をしている。
「とりあえず先に聴取を行いましょう・・・」
「あぁ!そうだね!つっても大したことないのに本当悪いね。じゃ、実際にやってもらっても?」
「はい、こんな感じでした」
そう言って、警察官の男性の手首辺りをぐっと握った。
先日捕まった男性がシンに”掴まれた腕が痛い、骨折した”と騒ぎ始めたらしい。過剰防衛だと言い張り、シンが呼ばれてどの程度の力だったのかを確認するためである。ちなみに甲斐に捻られた事は特に何も言われない。女子中学生に負けたとは言えなかったのだろう。流石に自尊心が許さなかったらしい。シンに対しては腹を立てて仕返しだ。
「殴ってきた男の腕を掴んで止めたんだからそりゃそれなりに力も入るわな。折れてもいねぇし、腫れてもない、ちょっと赤くなったくらいでギャーギャー騒いで。自分も被害者だって主張が激しいのなんの」
「もし、もう少し強く握ったとしてもこれくらいです」
「オッケー。ご協力ありがとうございました。お疲れ様です」
「じゃあ、帰ります。忙しいんで」
シンは今日スズが部活が休みで久々に出かけるところに電話がかかってきて呼び出された。外にスズを待たせている。それに早く女性から逃げないととずっと気にしている。
「待って下さい!お願いします!連絡先どうしてもダメですか?!」
「・・・俺、高校生です。高校二年。あなたからしたら子供でしょう」
「そんな事ないです・・・」
甲斐の言った通りにしたがそれもダメだった。
「君、大人っぽいもんね。その辺にいる大学生より落ち着いてるし。なんなら捕まった彼よりも年上っぽく見えるからね」
「俺はまだ親の保護の元生きてる唯の子供です。バイトだってろくにしたこともない、世の中の事を知らないんです。なんでそう見えるかは知りませんが、中身は大した事」
「いやいや!そんな言葉高校生から出てこないって!」
「刑事さんどっちの味方なの?!」
キツネが突っ込む。警察官が女性の味方になっている気がして更に面倒に感じてきたシン。ハッキリと、迷惑だと伝えようと意を決した。
「申し訳ないですが、俺」
「シン、どうした?まだ終わらないのか?」
外で待っていたスズが署内に入ってきた。
「スズっ?!なんで・・?!」
「あまりに長いから受付に訪ねたら通してもらった」
「あぁ、ごめん。もう終わった。行こう」
3分で終わるとスズに話していたのに、無駄話が多くもう10分は経ってしまった。シンはスズの背中を押して玄関へと向かおうとした。
「デカっ・・・!?こういうガタイの良いのが好みなのか」
「・・・私、私も鍛えますからっ!!」
「シン、なんか言ってるが」
「気にしなくて良い」
「ギャハハハハハハーーーーー!!!!!」
・・・ーーー
「っていう事がこの間あってねー!!」
「くははははは!!あの女子大生本当に信じたのかよ!!シンも否定すりゃ良いのに!!」
珍しくキツネと甲斐が楽しそうに話をしている。
「はい、どうぞ。麦茶よ」
「サンキュー」
「ありがとうございます」
「頂きまーす!」
8月も終盤。変わらず日差しは強くまだまだ蝉も鳴いている。
「この間言った人達は全員解錠したのか?」
話をしているこの場所は国生の実家の神社の五ツ峯神社だ。本殿の階段に腰掛けている。暑いには暑いが屋根や周りには木陰が多い為体感的には大分マシだ。国生が麦茶を持って来て全員に配った。
「全員は出来なかった。一人見つけられてねぇ。でもそれ以外はキンキラした施錠が前からも後ろからも見えるからすぐに見つかったぞ。お、副総代、本殿の中入っていいか?」
「ダメです。我が神社の本殿には信じられないほどの貴重品が沢山あるので」
「その貴重品の神具や術具が見たんじゃねぇか」
「断ります。で?涼みにきたりお参りしにきたわけじゃないんでしょ?」
国生がシンと甲斐に理由を聞いた。
「シンがこの間女子大生を助けたんだ。元カレがストーカー野郎でな。施錠は使ってないのに女子大生はシンに執着してる。シンが男を好きだって言ってもそれでもって食い下がる。強運体って、人たらしなのか?」
「俺は男を好きだなんて一言も言ってない。甲斐が勝手に言ったんだろう」
「強運体が理由で執着される事はないわ。施錠の力を受け取ったとして理の何かがおかしくなったとて身代わり以外の執着は不要でしょ。むしろ邪魔だわ」
「じゃあなんだってんだよ・・・」
「そんなの簡単よ。助けてくれた瀬条くんに純粋に惚れちゃったんでしょ」
「「「えっ・・・」」」
「何よ、逆に何があると思ったわけ?」
「今はそういうの困るんだよ・・・」
「あー!シン!!それモテ男の発言だー!!」
「ガキのくせにっ!!」
「あなた達仲悪いの?」
・・・ーーー
助けた女子大生『夏子』が施錠の瞬間を見たわけでもないのにシンに執着している事を不審に思った甲斐。自分は前世で会議に出なかった事もあり少々知識がない部分もあるから国生に聞こうと思いシンを連れて行った。しかし国生の答えは唯の『恋愛』だった。
強運体も施錠の力も何も関係のない答えに甲斐は気分が落ちた。
午後からは用事があると国生に神社を追い出され、シンと甲斐は駅へ向かう。その間に路上駐車で民間人が揉めていた。かなり白熱した状態で出くわしたシンがすぐ様揉めていた二人を施錠した。
「ったく、俺の目の前で勝手に速やかに施錠しやがって!あれくらいの喧嘩は放っておけば良いだろう?!」
「人の目も子供の目もあったんだ。あのままにしておいて周囲を巻き込んだらどうする」
「また明日ここまできて解錠しねぇといけねぇじゃねえかっ!」
颯爽と施錠をしてそのまま駅へ再び向かう。ぐちぐちと文句を言う甲斐を少し後ろに置きながらシンは進む。
暑いが日除けやクリアシート、冷房を完備してオープンテラスでお茶をしている人たちの横を通る。今日は駅に寄って、またキツネの食べたいものを買う予定だ。もちろん甲斐分も含めてだ。
「もう、ウチの主人に会わないでもらえますか?そうしたら不問にします。今回だけは・・・でも」
「でもも何も、私も被害者なんだけど?独身だって言われたのよ?私の方が被害被ってんのよ!!なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないのよ!!」
真夏に更に暑くなるようなドロドロとしたセリフが耳に飛んできた。
「あ?なんだドラマの撮影か?」
「撮影!?ドラマ?!カメラみたい!!女優さん誰?!」
「・・・いや、照明とかないから撮影じゃない」
「・・・じゃあ本物ってことか?」
通り過ぎようとしたテラスを見ると、テラス席の人全員がある1テーブルを見ていた。女性が二人。どちらもタイプは違うが綺麗な女性だった。
「理由はともかく私は浮気をされた側です。本来なら慰謝料を頂くんです。しかし、主人も反省していると言ってます。相手の貴女の誘いに乗ってしまった自分が悪いと。貴女を庇ってるんです。腹立ちますが、主人がそう言ったので初めての事ですし、今回ばかりは許す事にしました。ですから、今後は関わらないでください。職場も変えて下さい」
「貴方たちの夫婦仲に問題があるから旦那がフラフラ他の女のところに行くんでしょ?!既婚者だって知ってたら近づきもしないわよ!!馬鹿にしないで頂戴!!私と同じ職場が許せないならそっちが辞めれば良いでしょ?!」
「うちは子供もいます。お腹にも子供が居ます。これからって時に仕事辞められても困るんです。会社には知られてないようですし、貴女が辞めれば穏便でしょう?それが一番丸く収まるんですよ」
「私が今の職場を辞めたくない時点で丸く収まってないのよ、大体ね・・・」
「マジか、昼ドラじゃんねぇか。つかその旦那はいねぇのか」
「大人の話に首を突っ込むのは辞めよう」
シンは言って甲斐の腕を掴んで先を急ごうとした。
「待て、俺は大人だ」
「確かにーー!!一番の大人だー!」
「・・・他人の話に首を突っ込むのは辞めよう」
「シンの社会勉強になる」
「ならない、俺はそういうことしない」
「みーたんと女子大生の夏子がこういうことになるかも知れないぞ」
「冗談にならないから辞めろって」
そんな事を話していたら、二人に水が飛んできた。
「こっちは家庭があるのよ!!独身のアンタが辞めて当然でしょ!!」
お腹の大きい女性・・・妊婦がピッチャーの水を思いっきり向かいの女性にかけた。その水がシンと甲斐にも飛んできた。
「冷たっ?!・・・よし、俺の出番だ」
「違う、絶対違う。ただの水だ、気にするな、年長者は器が大きいものだろ?!」
「通りすがりの子供に水ぶっかけておいてただで済むと思うなよって言ってやらねぇと」
「本当都合の良い奴・・・?!」
シンが次に見た光景は、妊婦が水が入っていたピッチャー本体を持って大きく振りかぶった光景だった。




