第43話 『デンワバンゴウ』
「ダメです」
『だよねー』
先日再会した警察官からシンに電話がかかってきた。事件のことで何か疑われて聞かれてると思っていたシンからしたら良かったのか悪かったのかわからない。内容は助けた女性がシンの電話番号を知りたいという事だった。
「俺も聴取の度に聞かれて困ってんのよ。良いでしょ?可愛らしい大学生なんだからさー」
「いや、困りますよ。というか、警察官なんですからしっかりと言って聞かせてくださいって」
「こういう事から恋愛が始まる事だってあるんだよっ?!」
「結構です。元カレがあんな感じの人、俺には荷が重いです」
「あー!そうやって人を・・・元カレで判断しちゃいけないよっ?!」
実に身のない会話だ。
「あと何回の聴取で彼女と会わなくて済むんですか?」
「あと一回・・・」
「じゃあ、聴取の度にかけられるこの電話もあと一回我慢すれば良いんですね」
「目の前の彼女に縋られる俺・・・!本当に大変なんだよ!!いいじゃん連絡先くらい!!」
「ダメですよ。俺、割と忙しい身なので彼女作ってる暇ないんです」
「握手会には行ってたのに?!」
「あ、すみません。もう授業始まるので切りますね」
「あ、ごめんね。授業なら仕方な・・・嘘つけ!!今夏休み中で」
ーーッピ
通話の終了ボタンを押した。
今日は月曜日。甲斐を目の前にして警察官と電話をしていた。
「で?あの女子大生に好かれちゃったってわけか?シンが同じ大学生に見えたんじゃねぇか?高校生だって言えばいいじゃねぇか。年下NGで冷める女もいるぞ」
「次はそれを言ってみるよ」
「それにしても、この間キツネが言った通り、お前が”強運体”だからいつも助かってるのかもな。普通だったら刺されてるかも知れない。この間だって、俺がたまたまコンビニの中に居たシンを見つけたんだ。だからあの男と遭遇した時に俺が取り押さえる事もできた。あの距離なら施錠が間に合わなかったかも知れねぇし。施錠したらしたで男も女も両方にペナルティーが発生しそうだからな。お前に悪いことだらけだ」
「・・・多分、甲斐がいなかったら刺されてたな。ありがとう」
「ありがとうっていうか、だからそれが強運体の持つ強運だからな。そもそも強運体には不幸は寄り付かないけど施錠の力を与えられたからであって・・・あれ?俺、強運体の為に上手く使われたって事か?」
・・・ーーー
「で、最後は駅ビルの8階の飲食店の店員。お客と大層揉めてたから」
「二人とも施錠したってことか・・・今週も多いなぁ。毎日施錠してる上に、一回に二人まとめて施錠できるようになったから人数増えてんじゃねぇかよ・・・多い。多すぎる。そんなに施錠するな。減らせ」
「したくてしてるわけじゃない。その場の空気も悪くてもう殴り合いが起きそうだったから仕方なくだ」
「いいんだよ、まぁ、男女の場合で女性が殴られそうになった時は男を施錠しても構わねぇ。男の力で女を殴ったら怪我するからな。よっぽどの怪力女じゃなきゃ男を殴ったり引っ叩いても赤くなるぐらいだ。放っておけ。男同士の喧嘩も丸腰同士なら放っておけ。女同士の喧嘩・・・で殴り合いはほとんどねぇか。口喧嘩とかいびり合いくらいだからそれも放っておけ。ってか基本全部放っておけって!!」
「放っておいたら俺力持ってる意味ないじゃん。前に甲斐が言ってた事もわかるけどさ」
「とりあえず年長者と力の持ち主のいう事は聞いておいて損はねぇんだって。俺年長者だし力も持ってる。現世は親父がだけど金も持ってる。俺のいう事聞いておけって」
「おはようー・・・なんか甲斐くんの横暴なセリフで起きちゃったー・・・」
「もう一回寝かせてやろうか」
カバンの中で寝ていたキツネが起きた。
「え。甲斐くん今聞いた施錠された人を全部解除する『解錠の旅』に明日出るの?」
「あぁ。明日は稽古も部活も何もねぇからな。全員見つかるかはわからねぇけど、シンの南京錠は金色に光ってるから今までよりは見つけやすい。おい、そういえばみーたんはどうなったよ?」
「え?特に?連絡も来ないけど」
「・・・病院で電話が使えない状況か、それともそれ以外で忙しいか、もしくはまさかの罰則が解けたか?だとしたらやっぱりこの間刺されたのがシンの身代わりだったって事になるな。あぁ、気にするなよ。先にみーたんが、逃げようとしたシンを引き止めたのが原因だからな」
そう言って甲斐は考えた。
「よし、今日は国生のところにこのあと行くか」
「あら。どうしたの?」
シンの家に割と近い神社。五ツ峯神社に着いた。国生は暑いのに袴姿で掃除をしている。
「あっちーのにそんなもん着てご苦労なこったー。ちょっとみーたんの事で聞きたくてよ。罰則の話だ。あと、コレ渡しておこうと思ってな」
甲斐はポケットから一枚の紙をひらひらと出した。
「「あ!!その紙!!」」
シンとキツネが同時に言った。甲斐が持っていたのは、スズの部活を手伝いに鷹泉館学園に合宿に行った時に拾った”バチ当て様の指示書”だ。
「俺は読めねぇけど、国生なら読めるだろ。受取人が誰か分かるか?あと、こういうものは読めない俺たちが持ってるより副総代の国生に届けるべきだろ。ほらよ」
「・・・これを落としたバチ当てがいるのね・・・あり得ないことだし、普通ならとんでもない仕打ちが待ってるけど、これを拾ったのが瀬条くんってところがまた何ていうか・・・」
「俺が拾わない方が良かったって事ですか?その彼、なんかされるんですか?」
「逆よ。拾ったのが瀬条くんという強運体だったから問題ないというか不問になるわ。一般人に拾われたらダメだけど」
「なんか知らないけどシン!人助けしたね!良かったね!」
「流石バチ当て助けだな・・・で、みーたんの件だが、罰則が解ける方法はあるのか?最近みーたんから音沙汰がないらしいからもしかして解けたのか?聞いたことねぇけど」
「・・・瀬条くんに関しては全部イレギュラーだからなんとも言えないわ。基本的には存在してる間はずっと身代わり的になるんだけど。瀬条くんに掛けた術が強運体によって変化しちゃう可能性だってあるし。だから、『罰則が解けた可能性も無いわけじゃない』っていうのが私の答えね」
「総代の意見は?」
「総代には会えてないわ。次の会議で会った時に言うつもりだから・・・でも、総代だから知ってそうだけどね」
「そんなに強いのかよ」
シンはわかってきた事がある。そもそもバチ当て様や施錠・解錠の力の定義自体が割と曖昧な上、自分が強運体という存在である事が現状を引っ掻き回しているのだ。
キツネが物事を忘れてしまっているのは操作されている可能性が高いが、それ以外のイレギュラーは、自分自身の存在が引き起こしている事だと理解した。つまり、強運体という自分が”施錠の力”を持った以上、もう何もかもが予測不可能なのだ。目の前のバチ当て様の副総代の国生、そして、前世バチ当て副総代にして現在解錠の力の持ち主である甲斐がわからないなどと言うのがその証拠だとたどり着いた。
何が起こるかわからない。それはつまり、決められた事だけではないと言う事だ。甲斐は力を使うことに反対をしている。しかし、シンはうまく力を使って自身の周りを穏やかにしたい。なんとかうまくできるのではないかと考えていた。
話しながら、国生が甲斐から渡されたバチ当ての指示書を開いた。
「あら、頭に籠落とされた人が居たの?」
「え?!はい、そうです」
国生には合宿の詳細は話していない。それでも、何て書いてあるか読めない指示書を見て事実を当ててきた。
「相当なヤンチャだったのね。ちょっと性格悪いくらいじゃ頭に籠落とすなんて事はしないわ。そうね・・・高校生くらいだったら精々食事中にぶつかられて箸を落とすとか、ガムを踏むとか、あっても自転車のタイヤがパンクするとかね。本人にこれだけの痛い思いをさせるって事は相当なヤンチャだったんじゃないかしら」
「・・・なんか、他の学校からクレームがくるくらいには問題児でした」
「じゃあやっぱり妥当なのね」
解読不能な紙切れ一枚を読み取って当てる彼女にシンは興味が湧いてしまった。
「他には何て書いてあるんですか?あ、話せる範囲で良いんで・・・」
「知らない方が良いこともあるわ。多分不気味になっちゃうから」
体のいい断り方をされた。
「・・・いつか話しても良いって思えたら教えてください」
「その時が来たらね」
国生は悪い笑みを浮かべた。シンはその笑顔の真意が掴めなかった。




