第42話 『ナゾイベント』
コンビニで出会った、憔悴に近い状態の女性。シンの少しの優しさに声をかけてきた。そして、お礼がしたいからと待ってて欲しいという。そして、道を一緒に歩く。
「あの、どっち方面に向かわれますか?この近くなんですか?」
「いや、頼まれたデザートが近くのコンビニにないからこっちまできたんです。俺は駅からだいぶ北に行きます」
「じゃあ、あのパンダの公園のところ通ります?歩きです?」
「はい、まぁ」
「じゃあ、一緒にいいですか?!」
「大丈夫ですけど」
本当は大丈夫ではなく疑心だらけだが、切羽詰まった様子も有り断る理由が見つからない。
「私、坂の上の大学に通ってるんですけど・・・」
彼女は一人で話し始めた。しかし、あまりにもぎこちない。会ったばかりだという事もあるが、初対面の男相手にそこまで頑張って話す必要があるのかとシンは考える。
「(憔悴してそうな人間が、初対面の人間に好意を抱いてアプローチするなんて事滅多にないだろう。そんな精神状態あるか?いや、人それぞれとは言え無い。これは何か別の事が原因だ)」
考えている間も彼女は喋る。シンは適当に相槌を打ちながら考える。しばらく歩いた頃だった。
「ねぇ、シン・・・」
鞄から顔を出していたキツネが喋りかけた。その時だった。
「あ!お兄ちゃーん!!」
聞きなれない元気な声がした。ちらほらと人は歩いているが、すれ違うのはさっきから大人ばかりだった。お兄ちゃん?自分の後ろに人がいるのだろうかそう思って振り向いた。そこには元気に手を振りながら制服を着て走ってくる
甲斐 操がいた。
「ぎゃぁーーーーー!?!?謎イベントっ?!?!?!」
満遍の笑みを浮かべて聞いたことの無い声で走ってくる甲斐にキツネが驚いた。そして、シンにたどり着いた甲斐は、キツネの入ってる鞄を潰した。
「ふべらっ!!」
「お兄ちゃん何してんの?!あ!もしかしてお兄ちゃんの彼女さん?!」
「・・・いや、友達だよ」
「こんばんはー!」
陽が落ちたがまだまだ明るいこの時間。こんにちはなのか、こんばんはなのかどちらを使おうかと人が迷う時間帯だ。そんな時、キツネの言った通りの謎イベントが開始された。
「こんばんは。可愛い妹さんですね」
甲斐を見て少しだけ嬉しそうに笑った。その後も甲斐は妹を装い一緒に歩く。そして、シンと女性の行き先が分かれるところまできた。
「じゃあ、俺たちこっちなんで・・・」
「・・・うん。もう大丈夫だと思う。あの・・・!連絡先教えて下さい。あなたみたいな優しい人と出会えたのが本当に嬉しくて・・・っ!」
よくわからない言葉に一同が疑問を抱える。よほど人に優しくされないで生きてきたのだろうかと思うシン。また、シンが施錠以外で人に優しく関わることがあるのか?と思う甲斐。そして
「何この執着心!シンこの人に施錠でも見られたの?!」
鞄の中からキツネが声を上げた。
「世の中は優しい人いっぱいいますよ。今まで貴方が会わなかっただけかもしれません。だとしたら、これからは沢山会えると思います」
「でも・・・!」
「大丈夫だよお姉さん!それに、お兄ちゃんは女の人より男の人の方が好きだから」
「お前何っ・・」
「夏子!!!」
見知らぬ男性が後ろにいた。
「夏子!!誰だその男!!駅のコンビニまで迎えにきてもらって!!すぐに新しい男か?!そうじゃないならなんだよ!お前だって・・・!浮気してたのはお前もじゃねぇかっ!!」
「・・・!!やだっ!!岡下くんっ・・!!」
見知らぬ男に声を掛けられたが、一緒に居た女性は反応した。名前も口にした。知り合いらしい。
「随分早く声かけたな」
甲斐がボソッと呟いた。
「どう言うことだよ」
小声でシンが訪ねた。
男は一方的に女性に強く当たっている。
「さっきコンビニでシンを見かけたから何か買わせようと思ったんだよ。でも、お前この女の人といたから店の前で様子見てたんだ。したら俺と同じ様に店の前でその女の人を見てるあの男がいたんだ。シンと話してる女の人をずっと外から見てるってなんかおかしいだろ?店から出てきても男と話すわけでもなくシンと二人で歩いてるしよ。男も男で声かけねーで距離空けて跡着けてるしよ」
「ストーカーってことか?」
「みーたんと一緒じゃん!」
「いや、ストーカー・・っちゃそうかも知れねぇな。さっきの男の話だと付き合ってたんだろ?自分の浮気がバレて捨てられたのにずっと付き纏っててシンと一緒にいるところを見て女側も実は前から浮気してたっていちゃもんつけて両成敗にしようって所じゃねぇか?」
「岡下くんもう本当に付き纏わないで!!それ以上は警察に相談するから!!」
「お前だって浮気してたんじゃねぇかよ!!じゃぁいいだろ!!またやり直してやるからさ!!」
「なにその上から目線!!馬鹿にするのもいい加減にして!!もう付き纏わないで!!」
「付き纏ってはねぇだろ!!話し合いに来てるだけだろ!!」
「やだ!!気持ち悪い!!近寄らないで!!」
一歩ずつ迫る男性に一歩ずつ距離をとる女性。言い合いの最後に女性に気持ち悪いと言われた。
「んだと!!なんでお前にそんなこと言われないといけねぇんだよっ!!」
男性が女性を掴みにかかった。
しかしその手は女性に届かなかった。シンが直前その腕を掴んだ。
「辞めましょう。通行人もいます。このままだと通報されて貴方が捕まる可能性があります」
「なんだテメェ?!人の女に手ェ出しておいて!!夏子を返せよ!!」
とんだ言い掛かりだ。男は目を見開いている。開き過ぎている。顔だけ見てもかなり危険な精神状態なのがわかる。
「返せってなんだよ。あわよくば刺殺しちまおうとか思ってる癖によ」
突然のその言葉を聞いた全員が驚いた。そう言って甲斐は男の鞄の中にある刃物を取り出した。
「コイツは言い逃れ出来ねぇなぁ・・・」
男性・・・大学生らしき男が刃物を持ち歩いている。買ったばかりのケースに入っているものではなくすぐに使えるようにしている為か、刃渡をスポーツタオルにくるんでいるだけだった。
「テメッ!!クソガキッ!!!!!」
男が刃物を取り返そうと甲斐を掴みにかかった。しかし甲斐は男の手首を掴み、捻り上げた。甲斐を向いていた男は反転し、そして伏せた。技が決まったのだ。
「ハァッ?!なんでびくともしねぇんだよこのガキッ?!」
中学生の体の甲斐が腕を掴んで上に乗っているだけなのに男は動けない。
「すみませんー!誰か警察呼んでくださいー!この人刃物持って女の人刺そうとしましたー!」
子供の助けとなると大人は動きが早い。流石は女子中学生。特に一目見て取り押さえられてるのがわかる為、周りも安心している。通行人の男性数名が一緒に取り押さえるのを手伝いにきた。
「なっ?!ガキの言う事聞いてんじゃねぇ?!俺は嵌められたんだ!!この刃物はあっちの男が持ってて俺のことを…!!」
「うるせぇ」
周りに聞こえないように、見えないように甲斐が相手にトドメを刺した。
・・・ーーー
「あれ?また君?」
その場にきた警察官は見覚えのある人だった。そう、みーたんの握手会に来た時にいた警察官だ。
「その節は・・・どうも」
「君って巻き込まれ体質なの?不運だね?!」
「違うよ!!逆だよ!シンは”強運体”っていうのらしいから、逆にシンじゃなかったら刺されてたかも知れないんだよ?!」
シンの目の前にきて男性警察官が呆れたような顔で言った。この短期間で二度も事件に巻き込まれる人はいないという事だろう。そのまじまじと見てあっけらかんという警察官にカバンの中からキツネが抗議をした。聞こえないのに。
「そうかもな」
甲斐が言った。
「ね?お嬢ちゃんもそう思うって!」
警察官は、甲斐の返事を自分の言葉に納得したと思っている。実際はキツネの言葉に納得した。そう、シンでなければとっくに刺されているという言葉に納得したのだ。
「男女の問題に巻き込まれる事が多いのね、兄ちゃん。この間もアイドルと見境?分別?がつかなくなったファンとはいえ、男女の問題でしょ?今回のも兄ちゃんがたまたまその場にいた無関係の人だってのはわかるけど、こう続くとねー、不憫だわ。
・・・それにしてもお嬢ちゃん凄いなぁ?!男をねじ伏せちゃうなんておじさんもびっくりだってば!なに?一姫女学院でしょ?!学校で護身術とか教えてんの?!流石だねー」
「漫画の真似しただけでーす。じゃぁ、私たち帰りますね」
「漫画の真似?!それ一番危ないヤツだから!!まぁ無事だったしいいか。あっ!なんかあったら兄ちゃんの携帯番号は知ってるからそっちにかけるよ。じゃあ、送ってはあげられないから二人とも気をつけて帰んなね!」
「はーい、ありがとうございまーす!」
「失礼します。被害者の女性の事、よろしくお願いします。さぁ、帰ろうか」
「はーい」
「あの、刑事さん」
「はいはい?」
「さっきの男性の携帯電話の番号知ってるんすか?私、お礼したくて・・・教えてもらえませんか?」
「じゃあ、教えて良いかどうか、今度聞いてみますね」




