第39話 『アトノマツリ』
シンは神社の娘に施錠が効かなかった事に最初驚いた。そう、施錠の力が効かない人間は、『解錠の力を持つもの』または『バチ当て様』だからだ。しかし、説明してくれたおじさんの話を聞くに、この様な状況に慣れていると言った。つまり、彼女は大声をあげてはいたが、感情まで昂っていたり怒りに飲まれている訳ではなかったということになる。
以前、騒動になりそうで施錠を試みたが発動しなかった事があった。結局怒りの感情が昂るまで待った件である。今、大声を張り上げた彼女は、冷静に、怒りもせずにそれを行っていたと言うこと。神社がどのような教えなのかはシンにはわからないが、こういう人もいるのかと思った。
二人分の施錠を覚悟していたシンだ。一人でもどうせ甲斐に怒られるのだろうが、二人よりか一人で良かったと謎の安堵をした。
「まぁ、結局丸く?収まったからいいか・・・」
「そうそう!こうやって何かあってはあの三姉妹が対応してくれるから助かるんだわ!ちなみにあとの二人もすげえからな!」
「怖え一家だな・・・」
オミと仲良くなったおじさんとも別れ、再び祭りを堪能したシンとオミは帰路についた。
「はー!!いっぱい食ったなぁ!今日はいきなり呼んだのにきてくれてサンキューな。楽しかったぜ」
「いや、お祭りがやってるの忘れてたから良かったよ。週末までやってるならまた来ようかな」
「俺は明日から出かけちまうから今日しか来れなかったんだよ。行き先は田舎のばあちゃんちだからお土産もなんもねぇ所なんだけどさ」
「そっか。気をつけてな」
「帰ってきたらまた連絡するからよ!じゃあな!」
そう言ってオミと別れたシン。歩きながら、鞄に違和感を感じた。キツネに何かあったかと思い、周囲に人がいない時に鞄を開けた。
「どうした?なんかあったか?」
「・・・なんも貰えてない」
「あ」
施錠の後はキツネの食べ物をすっかり忘れていた。
・・・ーーー
「祭りかぁ。俺ん所は規模が小さいからな。デカイ祭りにも連れてってもらった事ねぇし。そもそも屋台の飯を食わせてもらえない。よし、今日連れてけ」
遭遇率が高いシンと甲斐。会う予定でない日曜日に何故か遭遇した。今日は先日オミと言った祭りの最終日である。街中を歩きながら甲斐がシンに祭りに連れて行くように言う。
「・・・断る」
「なんでだよ?!」
「近所の人が多いんだ。この間も何人もの知り合いがいたんだ。小学校の同級生も沢山いる。甲斐と一緒にいるところを見られるわけにはいかないんだよ」
「こんなに可愛い顔してる女を連れて歩きたくないだと?お前の女の趣味どうなってんだよ!」
「シンは顔で女の子を選ぶ人じゃないよ!!多分!知らないけど!」
「知らねぇんだろうが?!口も顔も出すな!!」
キツネが鞄から顔を出して甲斐に話しかけた。人の通りは少なくない。警戒している甲斐はキツネを叱る。
「そんなこと言ったって、この辺結局バチ当て様もいないし、解錠の力の持ち主だって甲斐くんだけだよ〜!大丈夫だって大丈夫!」
「キツネ、念の為だから。入っておいて」
「そうだ入れキツネ!バチ当てがいないっていうのも、”並のバチ当て”はいないって意味だ!もしっーーー」
キツネをぎゅうぎゅうに鞄に押し込む甲斐。キツネが反発して鞄から出る方へ力を入れる。
ーーっぽん!
「甲斐くん痛いよっ!もー!」
鞄から飛び出たキツネ。甲斐に押さえつけられた頭を自分で撫でていた。その時、耳の付け根を物凄い勢いで握られた。
「イダダダダダ!!甲斐くん!!耳千切れるからぁっ!!!」
突然握られた耳。驚いて甲斐に抗議しようと見たが、甲斐は目を見開いてキツネを見ているだけだった。手は自身の学生鞄を掴み、もう片方は宙に浮いている。
「あれ?じゃぁシン?シン、そんなに強く掴んだら痛いんだけ」
「貴方は何度か見かけたことがある解錠の力の持ち主だな。
で?こっちは強運体と精霊だと?ーーー君たち、どういう事だい?」
甲斐とシンの前に現れたのは、キツネの耳を掴んだ、先日お祭りで威勢の良かった神社の娘の一人だった。
・・・ーーー
「国生 杏。五ツ峯神社の生まれで”並じゃない方のバチ当て”をしてます」
国生 杏から話しを始めた。
重苦しいというより、警戒心をむき出しにしたシンと甲斐とキツネ。近くの大きいファストフード店に入り、一対三で向かい合っている。無論、キツネは周囲からは見えないので、一見したら一対二の構図だ。
甲斐とは対照的で長い髪の毛だ。後ろで一つに綺麗に結っている。綺麗な顔立ちだ。目は猫目である。学校の制服を着ていることで高校生だとわかる。年が近いだろうにシンは全く安心ができない。隣に座っている甲斐ですら緊張の面持ちをしている為シンは尚更気が抜けない。
国生の自己紹介の後、少し空いた間。先に話し出したのは甲斐だった。
「今は甲斐 操という。見てわかった通りで解錠の力を持ってる。前世は男でバチ当て。生まれは明治、東京、副総代だ」
「あら、じゃあ私の先輩ですね。まぁ私は生まれ変わりじゃないから記憶はないんですけどね。貴方の身元はまた後で質問して前世どなたかだったか特定します。
で、そちらは?」
にっこり笑いながら国生がシンを見た。その後視線をずらして更に隣にいるキツネを見た。が、キツネを見る視線が一瞬恐ろしく冷たかった。シンと甲斐の間にいるキツネがビクッと震えた。
「俺は、瀬条 心です。施錠の力を隣のキツネから貰いました」
「ふーん。隣のキツネね。キツネ、お前さん、神の使いだろう?」
「そ!そうだよ・・・!僕は神の使いなんだから!!!」
「神の使いは使いでも、お前さんは多分捨て駒ね。捨て駒だって事ちゃんと覚えておきなね」
「シン!!この人怖い!!」
「お前ちょっと黙れ」
シンに助けを求めたが反対に座る甲斐に頭を押さえつけられる。抗議しようとした甲斐がすぐに国生に話しかけた事により、とりあえず自分から関心がそれたことにキツネはそのまま黙る。
「さっき、シンに対して”強運体”って言ったな?」
「あぁ、そうね。貴方はその姿で初めて彼と会ったのよね。じゃあわからないわね。彼、強運体よ」
「本当にシンは強運体なんだな・・・」
変わらずキツネを押さえつけながらも甲斐が驚いていた。今日は普段見ない甲斐の顔をよく見る日だと、この場にそぐわない事を考えたシン。そして我に返る。
「あの・・!俺が”強運体”って・・・。強運体ってなんですか?」
「強運の体って事。書いて字の如く。ものすごく強運の持ち主。だけどおかしいのはね、強運体っていうのは強運な
だけあってすごく幸せな人生を送るの。つまり、バチ当てとか施錠とか解錠とか、他にも不運からは全然程遠い人生のはずなの。なのに施錠の力を持ってはいるわ、変な精霊連れてるわだからびっくりしたのよ。ねえキツネちゃん。貴方は、瀬条くんが強運体と知ってて力を渡したの?」
国生がキツネに問いかけた。仕方なく甲斐がキツネから手を避けた。
「僕は、”シンに力を渡すように”って僕を作った神様から言われて渡しただけ。それで、ずっとシンと一緒にいるようにって・・・」
「そう」
「なぁ、なんか知ってるか?わかるか?」
甲斐がバチ当て様である国生に聞くが、彼女は首を横に振った。
「何も知らない。知ってたら見て見ぬフリをするわ。何も聞いてないから驚いて耳掴んで声かけたの。この分だと、施錠の力を生成する神・・・通称『悪神』様の新しい思いつきね」
「副総代が知らないならそういうことか・・・」
「一般の強運体に手を出すなんてあまりにも卑劣だわ」
「”悪”が付くだけあるな」
「あの・・・ちょっと、さっきからなんの事言ってるのか俺さっぱりなんですけど・・・」
この場の人間で唯一事態がわかっていないシンが、申し訳なさを感じながら質問をした。
「そうよねー・・・強運体で力を受け取っちゃったんだもんね。受け取っちゃったものは仕方ないわよね・・・。そうね・・・わかった。長いけど全部は話せないの。でも、話せる部分だけ話すわ」
「・・・今更話した所で後の祭りだけどな」
細かい氷が沢山入った紙コップのジュース。席についてから口をつけたものは今のところ誰もいない。




