第38話 『ナツマツリ』
「甲斐のおかげで余計疲れたな」
「流石の僕もびっくりしたよ!!」
シンは甲斐と別れて帰路に着いた。人のいない道路で鞄の中のキツネと話す。甲斐意見は昔の人間の意見だ。女は女らしく、男は男らしく。今はそういった時代ではないとシンは改めて思った。
牛丼も買い直して家へと急ぐ。最近は何かと身の回りでことが起こる。また何か巻き込まれる前に早く帰ってしまおうと自然と急いでいることにシン自身に自覚はない。
「夏休みも気付けば後三週間か。なんか夏らしいことしてないな・・・」
「海行ったりとか?!」
「・・・でも行ったら行ったでなんか事件が起こりそうだな」
「そんなにしょっちゅう起こらないよ!」
「いや、実際起こってるだろ」
「でも、なんか夏っぽいことしてみたいよね!僕もしたい!」
「気が乗らないなぁ」
そんな話しをしていたらシンの携帯電話が鳴った。着信だ、電話である。
「どうしたオミ?」
「シン!今日の夜、祭りに行くぞ!!」
「「お祭り?」」
・・・ーーー
「夏っぽいことしたいって言ってたらオミにお祭り誘われたね!!僕も楽しみ!」
「鞄から出れないし、甲斐とじゃないからどこかで休んで屋台の食べ物食べることも見ることもできないぞ」
「じゃあ拷問じゃん?!」
西陽が暑い夕方。シンは一度家で休んでから再び外出をした。鞄にキツネを入れている。シンの住む町内会のお祭りは毎年行われているが、今年は周囲で起きる出来事の規模が多くてすっかり忘れていた。数日間かけて行われる大規模なお祭りの準備をされていることにも気づかなかった。とは言っても、シンが通学や出掛ける際に通る場所ではないので寄り道をしないとわからない。
「チョコバナナー・・・ベビーカステラ・・・」
「それくらいならオミに気づかれないように買って鞄に入れてやるから。あればな」
「やったー!」
「よお!シン!こっちだ!!」
通りの反対側からオミが現れた。
「今年はさ!3丁目の神社の三姉妹が出店手伝うんだってよ!準備覗いたら居たんだよ!だから行こうぜ?!」
「神社って何売るの?」
「ほら、なんか御守りみたいな雑貨だろ?三姉妹は可愛いとか美人だって話だから良い機会だしちゃんと顔見てえなって思ってさ!」
「そういうことか・・・俺はてっきり夏祭りという風情を楽しむ為に呼ばれたのかと」
「それだってあるぜ!屋台の焼きそばってなんか美味いんだよなぁー!」
18時を過ぎて段々と薄暗くなり、赤提灯の存在が目立ってきた頃。人も多くすれ違う時にぶつかることも増えてきた。時折カバンを潰されるような感じがするシン。カステラは良いがチョコバナナは潰れる可能性があるから入れられないなと考えながらオミと練り歩く。
「おっ!ちょっと遠いけど見えるか?!あの3人が神社の三姉妹だ!袴着てるからわかりやすいだろ!」
オミの指差した先には女性が三人居た。ぱっと見だが、年齢はシンと同じか年上に見える。
「噂には聞いてたけど初めて見たわ。二人は美人で一人は可愛い感じだな!」
「そう?」
「お前女に興味ないんか?」
キツネは鞄の中にいるから良いものの、人手が多い所は最近苦手なシン。力の持ち主がいるかもしれないからだ。普段はこの辺には居ないが、今は夏休みで、それなりに規模の大きいこの祭りには遠方から来る人もいる。里帰りできている人もいる。普段この辺で会う人とは違う事に少し緊張感が走る。
「お!あっちに太麺の焼きそばだ!シン!食おうぜ!」
「本当に麺が好きだな」
「焼きそばも美味かったし、たこ焼きもうまかったなぁ!牛串は高いだけあってうまかったわ!ちょっと戻るけど射的やろーぜ!」
楽しそうにはしゃぐオミに付き合い、射的をやる。大物の方が取りやすいかと思いきや重過ぎて中々取れず、オミがイラつき始めた時だった。
「良い加減にして頂戴!!」
近くから女性の大きな声が聞こえてきた。
「あ?嬢ちゃんイキが良いなぁ?でも噛み付く相手を間違えちゃいけねぇよ?」
「迷惑行為をしてる人が何を偉そうに。祭りの会場から出てって頂戴」
何も獲れなかったオミとシンが声の方を向いた。そこには、神社の三姉妹で一番身長の低い女性と見るからにガラの悪そうな男性が言い合いをしていた。
「おい!こいつの親はどこだ!子供の躾がなっちゃいねぇ!!出てこいよ!!」
祭り会場の空気が一変してしまった。シンは落胆する。やはり事が起きてしまったと。
男性は、三姉妹の親を出せとずっと騒ぎ、女性は男性の素行の悪さや迷惑行為を指摘している。指摘された男性は更に激怒した。周りからは人が引いて二人だけの空間が出来上がってしまった。まるで以前の電車の中の騒動のようだった。
「周りの大人もこんな状況で何眺めてるんだよ・・!手助けくらい」
「何が起こったのか大半の人は見てないんだよ。助けようにも何が起こったのかわからないなら仲介しても返り討ちにされるって」
「それにしたってあの三姉妹の末っ子っぽい人は俺たちと同じくらいの歳だろ?!なんで誰も助けに入らねぇんだよ!?」
オミが言った事にシンも考える。三姉妹の他の姉妹は怯える事もなくただただその光景を二人揃って眺めているだけだ。心配している素振りもない。
「神社の手伝いで、ああ言った輩には慣れてる・・・とか?」
「神社に来てあんなに怒る奴いるか?!罰当たりだろう?!」
ご尤もな意見だ。
「調子乗ってんじゃねぇぞガキがっ!!二度と外歩けねぇ顔にしてやろうか?!」
男性が脅す。しかし女性は一切怯まない。怯まないどころか
「やってみろ!!!そっちもタダじゃ済まないぞ!!!」
「・・・ッ!!」
男性より凄んでいた。倍ほどの怒声が返ってきた。思わず男性の方が怯んだ。
「・・・ッんだとテメェ!!」
男性が一歩踏み出して手を上に持ち上げた。距離を詰めて殴る動作だ。
女性が殴られると思い、シンは咄嗟に反応した。
「《表印》」
周囲は暗い。暗くて人が多い。音楽も掛かっている。そして、子供を除く全員が騒動を見ている。気づかれもしないだろうし、何より女性が手を挙げられる場面を止めない理由は無いとシンは施錠を決めた。
「(この間の電車の件・・・どっちが本当の被害者だとか甲斐に言われたが、これは暴力沙汰だ。放っておいたら怪我人が出る・・・っ)」
頭で一応自分を納得させる言い訳を作る。しかし、結局は咄嗟に行ってしまった。瞳印と手印を合わせた。今日も今日とて金色の印だ。男性と女性の両者を捉えた。
「《強制制御》」
【ガシャンッ!!!!!】
辺りは既に暗いため、ただただ蒼白い雷が一本落ちた。
一本だ。
「あれっ?」
「どうした?シン?」
施錠は一人にしかされなかった。もちろん、女性を殴ろうとしていた男性だった。
「・・・ッチ!クソッ!しらけたわ。おい!お前ら帰るぞ!!!」
「う・・うっす!」
「へいっ!」
近くにいた連れに声をかけて数人がゾロゾロと祭り会場から出て行った。
そして、祭りは安堵の空気に包まれた。どころか、もっと賑わう様子を見せた。
「流石、杏ちゃんね!!やっぱり凄いわー!」
「杏ちゃんつよーい!!格好いいー!」
「嬢ちゃん、いつもながらやるねぇ!!」
女性を褒め称える歓声が止まらない。拍手まで起きる始末だ。
「・・・どういうことだ?!なんだこれっ?!」
声には出さないがシンも驚いている。これはどういう状況だ。
「おお!にいちゃん知らないんか?神社の三姉妹ったら、威勢が良い事で有名よっ!あんなチンピラの一人や二人楽勝なんだって!変に俺たちが行くより任せちまったほうが丸く収まるんだってよ!」
オミの隣のおじさんが説明をしてくれた。
「いや、突っかかってきたのは一人だけど二人どころか後ろにゾロゾロいたぞ・・・」
「大したことねぇんだって!な!実際全然びくともしてねぇんだ!見てみろ!まだ高校生なのにあんなに威勢よく出てケロッとしてる!大物だよなぁ!」
「・・高校生?!」
「慣れてるから!」
「だからこんな状況どこで慣れるってんだよ?!」
本日、二回目のオミのご尤もなツッコミが出た。




