第37話 『スカート』
※《言い訳》これは小説です。フィクションです。価値観は人それぞれです。作り話です。例えです。考え方は自由です。気分を害される必要はありません。
「あ、ごめん。俺なんかの時は”女子はスカート”っていうのが頭にあったからさ、もう先入観なんだよ。悪く思わないで欲しい。お嬢ちゃんの言いたいこともわかったから!」
甲斐を相手に謝る大人。そして、スラックスの女子学生にまた向かって言った。
「俺たちは生まれてから、制服は『男はズボン、女はスカート』っていう価値観だったから、変わった今に中々馴染めないだけで、古い情報を元に勝手に判断しただけなんだ!今の時代にそぐわないのは俺の方だから、気にしないで・・・」
「違います。あなたに言ってるんじゃないです」
甲斐は男性に言った。男性に言ってるのではないとすると。
「・・・私に向かって言ってるの?」
スラックスの女子学生・・・今の甲斐より年上の女子高校生が次は反応した。
「そうです。貴方に言ったんです。男性と間違われても仕方ない格好を自分で選んで着ているのに間違えた人を攻撃する。そういうの、良くないです」
「「「(地雷踏みつけに行ったーーーーーー!!!)」」」
シン、鞄の中のキツネ、そしてその場にいた男性の三者が同じ事を思った瞬間だ。
「男性に間違われても仕方ない格好だと・・・?」
女子学生が明らかに不機嫌になった。シンは慌てて甲斐の腕を掴んだ。
「おい!!何言ってんだ!帰るぞ!!」
「甲斐くん!今のは言い逃れできないよ!!もう無理だよ!?牛丼は良いからシンと逃げて!?」
鞄の中からキツネが叫ぶ。
「あの、お嬢ちゃん・・!今のは俺よりマズイって・・・!!」
なぜか男性も心配している。
「(いくら今の時代に生まれ変わったからといって、甲斐は根っからの昭和・・・じゃない明治生まれでおそらく長命だったとしても昭和初期までしか生きてない!やっぱり人生一回分の固定観念は強くて今に順応してない!!価値観があまりにも違い過ぎる!!)」
「あのね、貴方にはわからないでしょうけど私は女だって自覚もあって、それでいて好きでこの髪型にしてスラックスを履いてる。好きでこのファッションをしてるの。それでなんで男に見られた事を怒って悪いわけ?」
「制服って、そういうものじゃ無いからです。スカートが嫌いなのかどうかは知りません。でも、好きじゃなくてもスカート履いてる子なんて沢山います。特に、自分の性を好きでも嫌いでも関係なくです」
「もういい!黙れ!帰るぞ!」
シンが腕を引っ張っても中々に動かない甲斐。伊達に人生一回分多くやってるわけじゃない。体の使い方、重心の置き方がちゃんとできているからだ。シンより体が小さく軽いはずなのに動かない。
「シン!!甲斐くん連れて逃げなって!!背中の僕に構わず!!」
「やってる!!甲斐が動かないんだ!!」
「誰と話してんの・・・?」
「もう担いじゃえーーー!!!」
「・・・ッ!!」
キツネの言葉通りにシンは甲斐を持ち上げた。肩に担いだ。
「テメェっ?!何しやがる?!」
シン相手に本性が出た甲斐。いきなりの暴言に女子高生と男性が驚いた。
「こいつの言った事、気にしないで下さい!じゃ、失礼します!!」
周囲の歩いている人が、少しばかり『なんだ?』と視線を向けるが、学生二人が戯れているだけだろうとその場はすぐに収まっていった。
・・・ーーー
「脅かすなよ・・・何言い出すんだよ本当に」
裏通りを甲斐を担いだまま全力疾走したシン。とりあえず入った喫茶店で出された水を一気飲みしてから甲斐に文句を言った。
「はー!むかつく!制服くらい大人しくスカート履いてろってんだよ?!男だった記憶があるわけでもねぇで女として生まれたのによ?!男だった記憶があるやつが言うなら理解してやるさ!女として生まれて育った記憶しかないやつが何言ってんだ?!馬鹿なのか?!あー生きづらい以外の何ものでもない!!ただ腹たつ!!」
「お待たせしました。コーヒーフロートとアイスココア、アイスコーヒーでございます」
店員が注文した飲み物を持ってきた。不思議そうな顔をしている。そうだ、二人しかいないのに三つ頼んだからだ。おかわりの時間をも惜しいのかと思われても仕方ない。受け取った飲み物は、店員が去った後に椅子に置く。キツネが鞄から出てきて飲み始めた。シンも甲斐もとりあえず一口つけて気を落ち着かせる。はずだった。
「ふざけやがって、制服すらこんなことにしやがって」
「人にはそれぞれ事情があるんだよ。昔とは違うんだって」
「いいか、シン。これが今の世の中が生きづらいの代表的象徴の一つだ。俺は『体は女』だが『意識は男』だ。意識が男というのは前世の記憶がそのまま残ってるからな。しかし、脳の作りはあくまでも女なんだ。あと、前世で成人を経験してる。だから、受け入れなければならないこと、受け入れておいた方が良い事がわかる。まぁ”空気が読める”っていうのに近いな。今の子供は・・・というか、そもそも前世の記憶持ちの人間なんてほとんどいないだろ。いたら何かの力を持ってる者。俺は今世の性を受け入れてる。まぁ女子校に入れたのは今の親だが、こうやって黙って女子の制服を着ている」
「・・・」
シンは何も言わずに話の続きを待った。キツネは甲斐の話を聞かずにシンの腰の横、鞄の間に隠れて夢中でココアの上の生クリームとバニラアイスを食べている。
「今、男子は女子の制服を着れるのか?女子だけが選択制になって男子と同じズボンを履ける。まあスカートにしたい男子がいないだけだろうがな。そもそも何で女子の制服を選択制にした?男って見られたいのか?確かに髪の毛が短くてズボンを選択してる女子もいる。しかし、髪の毛がすごく長くてズボンを選択している。それはどういうことだ?女子だけどスカートは履きたくないです?何でそんな心理になった?子供の頃のちょっとした出来事で心に深傷を負った?だから履きたくない?だとしたらそんなのは今までだって何人もの女児が負っただろう。いつ誰がそのそんなものを提案して誰が承認したんだって話しだ。」
「ズボンっていうかスラックス」
「そういう訂正もうるさい。わかるだろう」
「足に見せたくない傷があるかもしれないだろ?」
「スカートは標準で膝丈だ。それより短い膝丈20センチなんて長さを標準にしてる学校なんてねぇだろうが。膝までのスカートと膝上の靴下で足の傷なんて隠れるだろ?なのに何でズボンなんだよ?寒いならタイツの着用を許可すれば良いだろ?スカートの強制は持って生まれた性を他人が見てわかりやすくする為だろ?そして、本人が自分の性を自覚する為だろ?」
「それは自由じゃないか」
「お前は男で男だと思ってるからいい。だが、成長段階で、特に昔と違って今は情報が出回ってすぐに変な他人の思考、思想に触れやすい。自分の性を当たり前にわかっていたはずなのに、そのままで良いのに、確かだと思っていた自分の性に対して誰かの発信した想像が誰かの当たり前を壊すんだ。変な憧れを持ってしてとかな。
刈り上げみたいに短い髪で制服もズボンにして、それでいて痩せてて胸も大きくない女の子を見たら”男”だと思うだろ?それで、『男の子』として扱ったら『私は女です』なんて言われたって困るんだよ。わかんねぇんだって。どうせさっきみたいな事がその辺で頻発してるんだろ?それで、見た目で判断するなんてとかいうんだろ?見た目以外でどこで判断するんだよ。見えないもので判断できねぇだろうが。引っかけ問題しながら生きるのか?それが楽しいのか?私は髪の毛短くして、ズボンが大好きで、それで女なのに!って事か?だったら男と言われても気にするな、他人の言う事に左右されるな、自分でそれを選んでそれを”自分”だと思ったからやってるんだろ?人と違うことを自ら選んでおいて、それを多様性だの個性だのって認めろって他人に強要するのか?
好きでしたいならいいが、その格好が原因でどちらの性に見られても文句は言えないんだよ。ましてそれを自分が見て欲しいように見てもらえなかったからって他人を責めるなんてちゃんちゃらおかしい話だ。『男はズボンを履け』『女はスカートを履け』の強制が悪い事の様に思われてるが、それは被害妄想や一部の奴の勝手な思想だ。全体的な調和を考えてない。一部の自分勝手な思想を取り込んで世の中全体がおかしくなる。くだらねぇ、だったらそもそも制服なんて廃止すれば良いだろ?その代わり、手持ちの服の数が少なくてすぐに同じ服を着るのはみっともなくて出来ない、でも家にお金がない、どうするんだとか下らない話しになるだろ。」
「下らなくはないだろ!現実問題物価は上がり続けてるんだ。制服を廃止した事で困る家庭が出たって不思議じゃない!」
「だったら制服の強制は良い事だろう。ズボンとスカートの強制も、お前たちが考えも及ばない先の先や、これで助かってる人だっているんだ。秩序だって守られてる。強制というのは、ある意味責任を負わなくて良いんだ。自由ほど、自己責任だ。そもそもそんな事が簡単に出回る情報社会を一度ぶっ壊した方が良い」
「話しがずれすぎてる」
「うるさい、お前は聞いておけ。強制をされてるというのは本人は責任がないんだよ。例えば、制服が強制で何が良いかって?市立の私服の小学校に通ってた女の子がいたとしよう。子供社会だって色々ある。ちょっと気の強い女の子が男扱いされてたとしよう。
でもその女の子は、本当は女の子らしくしたい。でも、周りのイメージでは男っぽい。だからずっとズボンを履いていた。さて、中学校に上がる時に、ズボンとスカートが選択制だった。周りの野次や茶々が飛び交う”お前はズボンだろ!ズボンが選べてよかったな!”と。自由なのだが、スカートの強制が無い。周りのそういったイメージや、本当の自分を出せない事で彼女はスカートを履きたいのにズボンを選ばざるを得ないと思ってしまって、ズボンを選択してしまった。しかし、選択できるのにズボンを選んだのは”自分”なのである。スカートを履きたかったのに。完全に自己責任だ。これが原因でプライペートでもずっとスカートを履くことが出来ない女子の出来上がりだ。これが、一昔前の”強制”だったらどうだろうか?”強制だから”を言い訳に自分の願いが叶えられたんだ。スカートを履くという」
「でも、本当にズボンじゃなくちゃいけない理由がある人だって」
「そんなにズボンにこだわる理由が中学生にあるか?特別な状態でない限り。今まで他の生徒と同じように生活ができる状態の者が?それは生まれ育った周りの環境や家庭環境、つまり人間関係の問題があるだけだろう?怪我ならある程度隠せるものが多い。高校はそこまで固執するなら私服の学校を選べばいい。なぁ、俺が納得できるように説明してくれよ。個人の心が大事なのはわかるが、子供が受ける情報は今は精査もされなければ変な情報が圧倒的に多い。そんな変な情報を基に作り出された価値観を、一時の限られた情報だけで構成されたものを、貴重な青春の大事な思い出となるはずなのに、子供にそんな責任を負わすのか?強制した方が”強制だから”を言い訳が出来るんだ。後からだって心の逃げ道になる。”強制だったから”って。自由は自己責任だ、一番重い。なぁ、教えてくれよ。たったこれっぽっちの質問だ。
何がいいんだ?制服を選択制にして?」
「・・・一応言っておくと、全部の学校じゃないけど男子のスカート選択が可能な学校は存在するし、実際着用しているらしいという数字の発表もされてる」
「嘘だろ?!」
「その驚くこと自体が失礼なんだって」
「あー終わった!もうだめだな!この国は!」
甲斐は姿勢を崩した座り方をして、肘をテーブルに立ててコーヒーフロートのアイスを食べ始めた。
「自分だって髪の毛短いじゃないか」
「これくらいなら沢山いるだろ?!俺の学校に居ないだけで!長いの邪魔なんだよ!あと顔可愛いから女だって分かるだろ?!」
「「凄い自信」」




