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神業代行〜カミワザダイコウ〜 一章 施錠解錠(アンロック) 一部  作者: 杉崎 朱


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第35話 『ヤキニク』


 こんな街中で人が多い中で行うのかとシンは焦った。


 道路の端に寄り、人の邪魔にならないところで甲斐は胸の前に上げた両手の親指と人差し指で輪を作った。左右の指で輪を繋げ、残りの中指、薬指、小指で三角形を作る。

 すると、甲斐の手が光った。

 周りの人間は手が光っている甲斐の事を特に見ていない。つまり、周りの人間には光が見えていない。この場でシンだけが見えている。そして、甲斐が指の輪っかを離した。途端に光が弾け飛んだ。

 すぐさま部長を見た。部長の前後でずっと光り回っていた南京錠と文字の輪がより一層強く光ってから弾け飛んだ。その光景は、イルミネーションかと思うほどに綺麗に金色が散っていった。


 「(これが、解錠・・・)」

 

 シンは初めて解錠する瞬間を見た。






「・・・そうだな。やっぱり行くか。俺たち引退したら絶対に相手にしてもらえないし」

「そうだよ!!それそれ!行こう行こう!」

「なんだよ驚かせやがって」

 少し怠そうだった部長の顔つきが変わった。


 前、オミにも似たようなことがあったとシンは思い出した。施錠をした辺りから少しだけ元気がなかったように思えたが、甲斐とすれ違ったと言ったあの日から元気になった。元気過ぎてスズと喧嘩しそうになるくらいだ。施錠は、その時の激怒に関する事柄にだけ対して施錠するはずと説明されたシン。しかし、キツネの覚えが悪い事や記憶を操作されてる事を思い出して、確信出来る事が何一つない、曖昧すぎるルールの中にいる事に改めて思い知らされた。


 シンはふと我に返り、甲斐の方を見たがもう姿はなかった。



「よーし!牛と羊の食べ放題焼肉に行こうー!で!鈴くんこの辺でおすすめの食べ放題は?!」

「人任せかいな!!」





・・・ーーー




「や”ぎに”ぐも”・・・!!食べだがっだじ・・・!!解錠も”見だがっだじ・・・!!!びどい”・・!!」




 自宅に帰った後、シンがキツネを鞄から出したら泣いていた。どうやら焼肉を食べている途中で起きたらしい。美味しそうな匂いと音だけで見ることも食べることもできない状態が辛かったと嘆いている。その状態のまま甲斐と遭遇して白羽高校の部長を解錠した事を告げたら更に泣き始めた。


「キツネ、オミの時もさっきの白羽高校の部長の時も、解錠したら憑き物が落ちたような明るい顔つきになったけどなんでだ?」

「そ”れ”っ・・・はっ・・!!感情の”っ・・!一部だげの施錠でもっ・・・他の感情もっ!!ぢょっどは引っ張られるがらっ・・!!」

「つまり、問題の事柄だけ施錠をするが、一つを施錠すると他にも多少なりとも波及するってことか・・・」

「ぞうだげどっ!!や”ぎに”ぐっ!!!」

「あれか、海に浮かんでる境界線の《ブイ》だと思えばいいか。一つが深く沈めば隣のブイも沈む。そう言うことだな・・・」

 シンは納得をした。つまり、一番怒っている事柄に関してが一番強く施錠をされるが、他の感情にも何かしら影響してしまうという事だ。

「・・・それでも、誰かが誰かを傷つけたり、ずっと怒ったままでいるよりかは心穏やかでいる方がいいと俺は思う」

 先日のおじいさんの件は、発端はおじいさんの勘違いの可能性が出てきた。しかし、それとシンの施錠が早ければおじいさんが体調を悪くしなかったかもしれない事実は別物である。そもそもおじいさんが勘違いしなければ良かったが、勘違いは仕方がない。それは一旦置いておき、起こってしまった事態に対して、早く施錠をすればおじいさんも倒れず、また、電車で説教をされた男性も嫌な思いをしなくて済んだかもしれない。


 人の思い込みや勘違いによる行動の抑制はできないし、わからない。わからないことは考えても仕方ないとスズに言われたシンは、今自分の出来ることを考えた。考えて、自分の周りで事が起きないように。また、一人でも多くの人が心穏やかでいれるように。


「節度を持って、施錠の力を使おう」


 改めて心に決めた。



「牛肉っ!!ぎゅう”っ・・!!ぎゅう”食べだいっ・・!!」

「わかったよ、焼肉じゃないけど牛丼買ってきてやるから」






・・・ーーー





「シン!!温泉たまごも!!あとネギも欲しい!!あとっあとっ!!チーズ!!」

「はいはい」

「キムチも食べてみたいー!!」

「・・・」


 相変わらず毎日燦々としている太陽の下を歩くシン。時間は11時半。もう暑さはとんでもない。特に明日から数日間は警報級の暑さらしいとニュースで報道していた。シンはならば用事は今日のうちに済ましておこうと思い外出した。実はなあなあにしたかったキツネへの牛丼を先延ばしにしようと思ったが騒がて酷暑の中買いに行かされる事になったら溜まったものではないからだ。

 キツネを力の持ち主に見つからないように鞄に入れているのに話し掛けたら結局声が聞こえて意味がない。そう思いながらもこの食い意地の張ったキツネを早くに押しつかせるには文句を一旦吐かせるのが早いと黙って聞くシン。



 家の近くには牛丼屋がないため、駅の方までやってきた。暑さの中やっとの思いで牛丼屋に着いたとシンは安堵した。

「一番有名な牛丼屋だ。いいだろ?」

「わーい!!特盛ね!一番大きいの!!」

「・・・母さんの分も買ってくかな」

 たまには買い込んだもので楽してもらおうかと考え、母の分も検討した。姉は大学受験の勉強で一日友人と勉強で図書館にいる。シンが牛丼を買って帰れば母は昼は何も作らなく、皿洗いもしなくて良くなる。

「じゃあ特盛三つだね!」

「母さんはそんなに食べない」

「大丈夫だ、特盛も食える」

「何言ってんだよ、母さんは並か小盛りで丁度い・・・甲斐?!」

「えっ?!甲斐くん?!」

「特盛一つ買え」

 制服を着ている。学校帰りだ。


「みーちゃん!どうしたのー?!」

「あ、知り合い見つけたから話して帰るね!また来週ね!」

「うん、じゃーねー!」

「またね!」

 少し遠くにいる友達にそう声をかけた甲斐。その振る舞いは女子中学生そのものだ。おじさんが微塵も感じられない。本当に役者顔負けである。

「ってわけだ。特盛山かけ生卵追加で」

 友達が去った途端にいつもの成人男性に戻った。逆に女子中学生が感じられない。

「脳がバグりそうだ・・・」

 手のひらを顔に当てながら店内に入った。






「よし、あの公園で食おう。なんかテーブルあっただろ。木陰も少しはあるだろうよ」

「母さんに買っていくつもりだったんだけどな」

「子供がいない日くらいカップ麺でも食うだろ。そういうのが楽しみだって主婦もいるらしいからな」

「でも牛丼の方がご褒美感もジャンク感もあって良くない?!」

「テメェの牛丼も食うぞ」

「特盛2個いけるの?!」


 シンと甲斐は歩いていつもの公園へ向かう。道は、社会人や部活帰りの学生。遊びに出ている学生もいる。小学生も何人かで集まって駅の近くのゲームセンターで遊んできて景品を持っている。賑やかだ。

「こんなに暑いのにみんな元気だな」

「体が違うから絶対とは言えねぇけど、昔と比べるとバカみたいに暑ぃぞ。日本のどこに行ったってこんな暑い場所なかったぞ。多分な。全国行ったわけじゃねぇけど。なんで暑いのにこんなに騒げるかね」

 車の音、店から流れる音楽、街の放送、人の話し声。いつものように聞こえる。が、少し違う雰囲気も感じた。少しだけ、不穏なような、人が戸惑っている空気が流れてきた。


「なんかおかしい」

 先に気づいたのは甲斐だった。そして、シンはその言葉を聞き辺りを見回す。確かに何かおかしい。周りの人たちが自分達の方向を見ている事に気づいた。

「俺たち・・・?いや、俺の後ろっ!!」

 シンと甲斐が振り向くと、街中で少し注目を浴びている人が一人いた。


「ねぇ、あれって」

「まさか。違うよ」

「似てる〜!」

「あれじゃない?!コスプレ?」

「ファンだよ!ほら、だって髪の毛の長さ全然違うじゃん!」

「確かにー!」


 一人、様子を伺いながらシンと甲斐に着いてきている。そして走って迫ってきた。

 その人物の顔を見た甲斐の機嫌が急転直下した。


「おい、シン!!どうなってんだよっーーー!!!」

「は?何が?」

「どしたの?!鞄から出るよ?!」



 その人物はシンと甲斐に追いつくなりシンに飛びついた。

「シーンくん!!」

「・・ッッエ?!」

「ギィイアアアアアア!!!!!出たぁあああ!!!」

 聞こえないから良いものの、キツネは化け物を見たかのように叫んだ。しかし、叫びたくなる気持ちも大いにわかる。近年の出来事は記憶喪失だと報道されたみーたんが目の前に、しかもシンの名前を呼んで現れた。

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