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神業代行〜カミワザダイコウ〜 一章 施錠解錠(アンロック) 一部  作者: 杉崎 朱


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第33話 『デンパ』


「おいっ!!じーさん倒れたぞ!?」

 数人分距離を取った先にいるオミが声を大きくして言った。おじいさんが立っていた周りの大人は、驚いて離れる者が大多数。席を譲った女性を含み3名程がしゃがみ込み心配している様子が電車の外から見えた。シンは電車へと駆け出したが人が多過ぎて向かえない。


 プシュー・・・


 電車の扉が閉まった。

 おじいさんが倒れたものの、周りは心配して近づくだけで誰も電車を止める声を上げたわけではない。異常がわからない運転手はそのまま電車を発車させた。


「嘘だろっ?!止めた方が良いんだよな?!非常ボタンか?!こういう時どうすんだよっ?!」

 オミの言っていることもわかるが、シンもこういう場合は自分がどのような行動を取れば良いのかわからない。いや、大人だってわからないだろう。なんせ『正解』というものはないのだから。

「途中で電車を停めても降りれない・・・!急病人が出ても非常ボタンで止めるより次の停車駅で駅員に知らせて急病人を下ろすのが一番良いって聞いた事がある!」

「でも俺たち乗ってないんだぜ?!」

「おじいさんの周りの人に任せるしかないだろう・・・」

「・・・マジかよ」

「そうだ、こっちの駅員に伝えておけば・・・!!」



 電車が行き、模型ほど小さく感じるようになってやっとホームの混雑が解消された。そもそもこの駅でシンとオミが降りた理由は、シンが人混みに紛れて施錠をしたいがためだ。二人は乗り換えをするわけでもなくホームで次の電話を待つ。あの状況で周りの大人で対応していたのは足を怪我した女性と後2名だけだ。シンもオミも心配である。

降車駅の駅員に伝えておき、次の駅で確認してもらうように願った。




『《お客様にお知らせいたします。只今、○○駅にて急病人の対応を行なっておりました為、後続の電車の到着を遅らせております。お急ぎの所、大変ご迷惑を・・・》』

「・・!!じいさんの事か」

「あぁ、大丈夫だと良いな」

 言いながらもシンの顔は暗い。シンは悔やんでいた。あと少しでも早く自分が施錠していたらあのおじいさんは倒れなくて済んだのではないだろうか?施錠ではないにしても、自分がもっと早くに声をかけていたらもしかしたら・・・

「・・・ぃっ!・・・・よ!!・・・・おい!!シンッ!!!」

「あ、ごめん。聞いてなかった」

「お前!自分があのじいさんと男の間に入ってたらとか、もっと早くに声かけてたらとか思ってんじゃねぇだろうな?!」

「・・・大体そんなようなとこかな?」

 そう返事をしたシンにオミは盛大なため息を吐いた。


「あのな?!確かにじいさんに声をかけたのはあの女の人とシンだけだった!だけどな!声をかけるなんて他の人にだって出来るだろ?!それをしたのがたまたまシンだったってだけだ!だからってお前しか出来ない事じゃねぇ!!

つまりあれだ!じいさんを救えなかったのはシンだとか思ってんだったら違うからな?!あの場にいた全員声をかける権利もあれば、助けられるわけで?えっと?だからたまたま声をかけたシンに対して”お前がもうちょっと早く声をかけて宥めてれば!”とか思うやつがいるならそいつはとんだ勘違いで?えっとつまりだから・・・!!」

「シンが責任を感じることは何一つないってことでしょーが!!フォロー下手くそかっ!!」

 オミが全然まとまらない言葉をキツネが鞄の中から代弁した。もちろんオミには聞こえていない。しかし、キツネにフォローされるオミが面白くてシンは笑ってしまった。


「んなっ?!俺が誠心誠意込めて励ましてるのにっ!!?」

「っく・・・!!伝わった、伝わったよ。ありがとう」





ーーー・・・



「おい、シン。テメェ・・・」


 月曜日の定例会。公園に来た甲斐の顔は怒っていた。

「待って!来るなり怒りがMAXだよ!!」

「わかってんだろ?」

「・・・仕方ないだろう」


 シンは甲斐が怒る心当たりがあった。そう、あの電車のおじいさんの件から毎日施錠をしていたのである。それもこの近辺で。

「し過ぎるなって言ってんだろうが!!」

「悪かったって!でもこの辺なら施錠された人はすぐに目に付くだろうから甲斐も見つけやすい、俺が施錠した人は施錠の印も金色だから特に目立ってわかりやすいだろ?」

「一回ぶん殴らなくちゃいけねぇみてーだな」

「暴力ダメ!!シン甲斐くんを施錠・・・出来ないんだった?!」


 最初こそ本当に怒っていたものの、甲斐はすぐに機嫌を直して話を始めた。


「あのなぁ、俺が解錠するのが大変だから施錠するなってことじゃねぇんだよ」

「仕方ないじゃないか、毎日毎日身の回りで喧嘩が起きるんだ。それに、この間施錠のタイミングが遅れたら、怒りが原因でおじいさんが一人倒れちゃって。だから、迷わずに施錠しようって思ったんだ」

「それはそれでその人の運命だ。お前が気に病む必要はない!」

「俺は二度とあんな事を起こしたくない!」

「事を起こしたのは別にシン、お前じゃないんだ!お前が施錠しなかった事を悔やむ必要はないんだって言ってんだなんでワカンねぇかな?!」

「二人とも落ち着いて!!これじゃあせっかく夏休みにデートで遊んでる学生カップルが喧嘩しちゃってる感じだよ?!」

「お前ぇはお前ぇで毛を全部むしり取られねぇとわかんねぇみてぇだなぁっ?!」

 顔だけ出していたキツネはすぐさま鞄の中に全身潜り込んだ。








「あー!二人が落ち着いて良かった!アイス美味しいっ!」

 クールダウンするために近くのコンビニでアイスを買った。二人しかいないのにアイスを三つ買った事に店員が疑問を隠さず顔に出していた。


「で?そのじいさん大丈夫だったんかよ?」

「次の停車駅で急病人対応してるってアナウンスが流れたけど・・・」

「どうなったかはわかんねぇって事だな。仕方ねぇよ、じいさんが自分で怒り狂っちまったんだからよ」

「でも、確かに優先席で携帯電話を触ってたんだよね?それじゃあ注意されても仕方ないよね?」

「本当に電波を発してる状態だったらな」

「「え?」」


「電波を発してない状態だったら問題ないんだろ?」

「そうだけど・・・」

「なになに?!甲斐くんどういう意味?!?」

 シンとキツネは思いもしないことを言われて一瞬理解ができなかった。アイスを食べる手を止めて甲斐を見た。甲斐は暑さを全面に出しながらも変わらずアイスを食べ続けている。


「一見して通信ができる状態かどうかはわからないだろう。機内モードだとかデータの通信を切った状態でオフラインでゲームをしているかもしれない。何歳のどんな奴か男か女かもしらねぇけど、大学生だったらなんかレポートをメモに残すために打ってる事だってあんだろ。周囲から見たらメッセージのやり取りしてるように見られるかもしれねぇけどよ」

「だったら、おじいさんに一言返せば良いじゃないか」

「言っちゃ悪りぃが優先席で携帯いじってるやつなんて山ほどいる。そいつが律儀に毎回電波を遮断してるかどうかはしらねぇけど、もしそうだとしたらだ。他の奴はメッセージやオンラインでゲームをやってるのに、毎回律儀に遮断してる自分が文句言われたらムカついて相手したくなくなったって仕方なくないか?コミュ障なら尚更だ。だってちゃんと守ってんだぜ?確認したのかよ?ちゃんと画面見たか?」

「それは人の電話だから見ないよっ!ねっシン?」

「見てねぇんだろ?」

「見てはない・・・こんな大事になるくらいだったら言ってくれれば」

「大事にしたのはじいさんの方だろ?そいつが本当にデンパが出ない状態にしてたかどうかはしらねぇけど、出てるっていう確証もねぇんだよ。じいさんの思い込みだけで怒った自業自得の案件かもしれねぇだろ?」

 自分とは全くものの見方が違う甲斐にシンは衝撃を受けた。あの場で、誰もが『おじいさんを無視する大学生くらいの男性が悪い』と思っていた。そもそも誰もが思っていたという考えすらシンがそう思い込んでいるだけかもしれない。その事実に今驚いている。


 「怒ってる奴が、大きな声を出した奴の言ってることが、正当な事だと理解すると言われた側が悪だと感じやすいのはわかる。けどな?もしそいつが持ってた携帯電話が、古い携帯電話で通信も出来なくてただ音楽を聴くのとメモ代わりに持ってるとしたら?なんも悪くねぇじゃねぇか?むしろそのじいさんにとっては理想の人間だろ?」

 見た目ではわからないが、どちらかといえば褒められる行いをしていたのは男性の方だとシンは思った。


「その場合、本当の被害者はどっちだよ?」


 そう、怒られた男性の方である。

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