第29話 『ジャンクフード』
「これか、庶民が食ってるっていう噂の!!」
「庶民って・・・食べた事無いのか?」
「シン!!ボクもバーガー一個食べたい!!チーズ入ってるヤツ!!」
ハンバーガーショップに来た。甲斐の希望である。
「ねぇな。家にコックがいるんだ。それに買い食いは基本禁止だ。あぁ、学校じゃなくて家の決まりでな。っしゃ、遠慮なく頂きます」
「そんな事言ったってお腹が減る時はあるだろう?どうしてるんだ?」
「食うもん決められてんだよ、飲み物は水とお茶。運動時はスポーツドリンク。学校から帰る間に腹が減ったらコンビニなら玄米や雑穀米を使った握り飯。あとサラダチキンは許可が降りてる。金無限に使える代わりにナニ食ったかのレシート提出だ。うわぁっ!!しょっペーなこのポテト!!でも美味いな。あー年寄りが食ったら血圧ヤベェなこりゃ」
甲斐は楽しそうに目の前のポテトを食べながらハンバーガーやサイドメニューを見ている。飲み物は言うまでもなく茶色の炭酸飲料だ。キツネも窓ガラスの横に置かれたシンの鞄とシンの間、そして持ち帰り用だと言って入れてもらった袋の中にキツネが入っている。キツネ自体は見えないが、椅子の上にあるバーガーとポテトが宙に浮いて徐々に消えていったらホラーだから周りから見えないようにしている。
「美味しいー!!すごい!毎日食べたいくらい美味しい!!」
「お前は何を食っても体に影響ないから良いよな。人間はこんなもの毎日食ったら体悪くなるんだよ」
「毎日食べたら良くないものを売ってるの?!」
「そもそも毎日食うもんじゃねぇんだよ」
甲斐とキツネが話ている時にシンはある事に気がついた。
「前世で食べなかったのか?ジャンクフード」
「ねぇよ」
甲斐がピシャッと言い放った。
「・・・前世もそんな食生活に厳し・・・待て、今生まれ変わって14歳だけど、15年前は前世で存命だったかは別か?すると、前世の時にはジャンクフードがなかったって事か?は?つまりもっと昔の生まれって事は・・・
・・・甲斐、前世は何年生まれだ?」
「明治3年だ。1870年」
シンは驚いた。言葉が出ない。
「ほれって!シンがこないだヴェンキョーすてたおねっ!れきしのヴェンキョー!!メイジ時代って、時代のなまーの!」
キツネがモゴモゴと食べながら話ているがシンの頭には入らない。勝手に、天寿を全うしてすぐに生まれ変わったのかと思っていた。それなら隠居時代にでも食べていたのではないかとシンは考えたが全く違った。
「俺が生きてる内には日本では食えるところ少なかっただろうよ。まぁ、海外ではこういうの食ってるとか話には聞いたけど、日本で手軽に食えるようになったのは最近の話だろ?生まれ変わってから興味はあったが家があんなもんだから機会に恵まれなくてな。裕福だけど不自由だ」
「コックに作って貰えないのか?」
「あぁ、悪い。学校で話す手前コックなんて言い方してるけど、家にいるのは板前だ。和食だよ。和食」
「甲斐くん家、偏ったお金持ちだね」
「テメェのバーガー食うぞ黙れ」
甲斐の前世が明治生まれという衝撃にシンの食べる手は止まったままだ。歴史の証人だ。多分、戦争なんかも経験してるだろう。そんな人物が自分の目の前で少女の姿でポテトとハンバーガーを食べている。なんと信じ難い現実なのだろうか。歴史の学者が知りたいことを目の前の少女は山ほど知っているのだと思うと是非とも紹介したい気持ちにかられるシンだが、信じてはもらえないどころか不審者扱いされるに決まっているという結論へと辿り着いた。
甲斐が止まっているシンに気づいて一言掛ける。
「言っとくが、歴史の生き証人だからってなんかプラスになることは一切ねぇからな。むしろ足枷ばっかだ。前に生きてきた時とまるっきり違う常識、生活環境、人間の欲求。今は義理人情なんてかけらもありゃしねぇんだな。親切は不審がられたり気持ち悪がられたりする。まぁ、気持ち悪がる奴の理由もわからなくもないがな。命の危機がねぇ世の中で幸せっちゃ幸せだけど、余計でバカなこと考える時間が増えたのも問題の原因の一つだろうな」
「やっぱり戦争も・・・!」
「だから君は何度言ったら覚えるんだ!!」
レジカウンターから男性の声が聞こえてきた。
周りのお客、そしてシンと甲斐も声のした方を向いた。
「どうして確認を怠るんだ!お客さまに迷惑が掛かると何度言ったらわかるんだっ!!」
男性店員が女性店員に怒っている。男性店員は社員・・・または店長にも見える。女性店員は社員ではなくアルバイトだと多くの人が感じる見目である。
「すっ・・すみません」
言葉尻が窄むような謝罪だった。目を見て謝罪は出来ないようで俯き加減でいる。
「どうして確認をしなかったんだと聞いているんだ!会社のルールで何度も言っているだろう?!確認をしないから間違いが起きるんだ!!なぜ何度も言っているのに確認をしなかったのか理由を聞いているんだ!!」
「すみません・・!」
「謝るんじゃない、理由を聞いてるんだ!!」
「あれ、パワハラって言うんでしょ?この間ネットの動画で見た!」
キツネの声が聞こえない店内の空気は最悪だ。一瞬にして軽やかな雰囲気が重く凍りついてしまった。
「すごくっ・・お客さまを待たせてしまったので・・・確認を省きまし・・・た」
「君が確認をしない時には必ずミスが起こる、確認で少し遅れる事と、後から間違いが発覚してやり直しをする事、どちらがお客さまに迷惑が掛かるかわかるだろう?!何度もやってるんだから!!」
「・・・あの子、何度も同じことやって怒られてるんだね。でも、こんなに大勢の前で怒られてかわいそうだね」
キツネが一旦バーガーを口から話て喋った。男性の怒りはエスカレートしていく。立ち姿からして、手が出ることはなさそうだとシンは思ったが、怒りはかなりのものだ。このまま見せ物にするのも彼女が可哀想だし男性もこの後の事を考えると立場が危うい。この場のお客さんが本社にクレームを出すかもしれない。施錠をしようと思い手を顔の前に上げた。
「・・・施錠すんのか?」
「あぁ、このままじゃ良くないだろう」
「まぁ、あの二人だけじゃないからな。この空間にいるのは。客も、俺も、お前も。でも、そのままあの彼女にわからせてやるのも彼女の為でもあるけどな」
「・・・彼女の為?この説教を続けるのが?」
「あぁ」
「え?!なんでなんで?彼女の為に施錠してお説教を止めるんじゃなくて?」
「お前ら二人はそういう意見か。はあ、まぁ仕方ねぇな。なんせ”怒鳴られてる人”っつーのはどういう理由であれ可哀想に見えるもんだからな。俺は多分可哀想なのはあの男性店員を筆頭に怒られてる彼女以外の店員全員だと思うけどな」
「なになに!!どう言うこと!!説明して!!」
店員が怒っているのが店の中に響き渡っているが、別にお客が喋ってはいけないわけではない。こう言う時は、喋らないと言う選択をする人間が多いだけの話である。男性店員の声しか聞こえないが、裏では機械音がする。全くの静かな空間でもない。空気が凍りついているだけだ。甲斐は小声で話始めた。
「そこのキツネが気づいたように、彼女は何度も同じミスを繰り返しているようだ。それも割と対処が面倒な事・・・あと彼女のせいで割と大事に発展した事もあるんだろうな。店側としては彼女を雇い止めしたいと思っても今は長期期間で雇用してしまったらむやみに雇い止め出来ない。だから彼女から”辞めます”の言葉待ちなんだろう。しかし、彼女は一向に止める気配がない。この怒鳴りも彼女を精神的に追い詰めて辞めさせる為にやってるんだろう。まぁ怒っているのは演技じゃなくて本心っぽいけどな。もう何を言われても辞めさせるつもりだろうよ」
「でも!そんなことして彼女がトラウマになって次に働くことが出来なくなったらどうするの?!社会的にやってけなくなったら!」
「なんでそんなに彼女の肩入れをする?あの男性店員が彼女の事でどれほどストレスを溜めてるかわからないのに?」
「ストレスを溜めてる?バイトのミスの対処は仕事の範疇じゃないのか?」
その言葉を聞いた甲斐は一瞬呆気に取られた顔をした。
「あぁ、お前まだ17歳だもんな。大人の考えや気持ちや社会だどうなのかなんてわからねぇよな」
ニヤニヤしながら言う甲斐に、シンは少しむすっとした顔をした。




