第27話 『ホケン』
「ちょっと前にこの辺でみーたん見かけたって噂聞いたよ!」
「知ってる!駅の方だったんでしょ?!」
「天王子学園の制服着た男子と一緒だったってお母さん言ってた!」
「まさか、そんな事ある?」
「でもうちの”男子”の制服を見間違えるってあんまりないよね?」
「確かに・・・」
「みんなやっぱりみーたんの話ししてるね・・・」
シンは学校に行こうかどうか迷った。自分が学校の制服を着ている時にみーたんといるところを目撃されているからである。S N Sで検索したが、自分とみーたんが一緒にいた事を発信している人は今の所いなかった。しかし、全てのツールやアプリケーションで試したわけではない。シンは、自分は今回の事件に全くもって無関係だが、天王子学園の制服を着用している時に会っているのを見られている以上、完全に安心は出来なかった。何か外部からマスコミなどがきたら面倒だと考えていた。
「でもちょっと前なんでしょ?!だったらもうジャケットじゃなかったかもしれないよね!」
「あー!だったら勘違いかもしれないね!冬服なら絶対!確実にうちだけど!」
「そっか!じゃぁなんとも言えないー!でもこの辺で何回か見かけられたのは本当なんだよね?」
現在時刻は10:35。中休みだが、特に学校にマスコミや外部の人が来た形跡はない。シンは気になって授業中も門の方ばかり見ている。やはりバレていないか、そもそも学生は無関係だと思ってくれたかと安堵し始めた。
「シン!!」
「声でかぁっ!!」
せっかくの安堵をぶち壊すように大きな声で名前を呼ばれた。オミだ。あまりの声の大きさにキツネの方が驚いていた。オミは教室に入りシンの所まで来るとそのまま連れ出した。特別教室に行く以外は使う人の少ない階段までやってきた。キツネもついていく。
「おい!みーたんのニュース見ただろ?!見てなくてもみんな話してて聞いただろ?!お前なんか知らないのか?!」
「俺は無関係なんだ。朝テレビで見て驚いたよ」
「そうか、やっぱりシンも知らないか。いやぁ、姉貴が朝からもう発狂しちまってよ・・・」
「俺が何か知ってたとしても、彼女の容態が良くなるわけじゃない。お姉さんに伝えたって、なんの意味も無いよ」
「いや、相手が判明すれば多分始末しに行くと思うあの姉貴なら」
「だったら知ってても言わないって」
「まぁ、姉貴のことはさておき。知ってる人が刺されたなんて怖えだろうよ。まあアイドルだしこの間の握手会の襲撃もあったからそういうなんか恨みとか買いやすいのはわかるけど、それにしたってなんでかシンにべったりっぽかったからさ。そう言う人がいきなりこんな目に遭ってんだ。近くにいたシンはいい気はしねえだろうよ」
普段は仏頂面をしているオミが真剣な顔をしている。表情だけでも心配が伝わるような顔つきだ。
「オミ優しいっ!!」
「・・・ありがとうな」
・・・ーーー
「おい、キツネ。お前ちょっと都内でマスコミがウヨウヨしてる病院見つけてこいよ」
「病院見つけるだけなら甲斐くんでも出来るよねっ?!」
「ウルセェな、俺今日18時からピアノなんだよ」
「でたっ!!逃げる言い訳だっ!!」
「んだとこの裏切りギツネ!!ぶっ飛ばすぞ!!」
「アアアアアんだ!!頭鷲掴みダメっ!!ギィィイイイアアアア!!!!???」
「助かるけどこの遭遇率の高さはなんなんだろうか・・・」
学校の掃除も終わった放課後。明日は終業式だけで皆、気分はもう夏休みだ。朝からショックなニュースが流れたが、午後には学校も世の中も少し落ち着きを取り戻した。
シンは、気を紛らわす為に駅に向かった。そうしたら甲斐に遭遇した。
「シンは、自分ができることはないって言って、それで気を紛らわすために駅に遊びに来たんだよ!この件に関してシンができることはないんだって!」
駅から少し離れた場所にある小さな公園。近所には小学校などがあるわけでもない。子供もいない。
「シンに執着してたあの女・・・記憶を消されたとて一度は施錠を見た女が刺されたんだ。犯人はまだ捕まってない。どこの誰かもわからない。お前に恨みを持ったやつかもしれないだろ?それを放っておくのか?」
「え、絶対彼女のファンの仕業だと思ってた」
「まぁ週刊誌に載ったりだとかしてるからその可能性が高いっちゃ高い。でも、お前と”力”に関して接触があった人間だ。それにバチ当てにエンカウントしてすぐに起こったのも気になる」
「そんなこと言われたらシンが不安になっちゃうでしょーーがぁあ!!」
「だからお前が病院見てこいって言ってんだよ!!どうせマスコミがウヨウヨしてんだからすぐ見つかる!!犯人は現場に戻るじゃねぇけど病院の周りうろついてる可能性がある!お前力の持ち主にしか見えねぇんだから行ってこいよ!!」
「力の持ち主が犯人だったら僕が病院探してるのバレちゃうでしょ?!つまりシンが更に危なくなるでしょ!!」
「ならない」
「「えっ?」」
突然、ガミガミとキツネと言い合いをしていた甲斐が真剣に、落ち着いた表情で言った。
「なんで?!もしかしてアレ?甲斐くんが”俺が護るから!”的な意味で危なくならないって事?!」
「違う。一般人相手なら何かあってもシンは施錠が出来る。もう、お前が”人間の感情が原因で”危ない目に遭うことはないんだよ」
「確かにっ!!」
「まぁ、人間の感情による攻撃だからな。施錠のタイミング遅かったら崖から突き落とされたり拳銃で撃たれたりするからその辺は見誤らないようにな」
「じゃあ背後から襲われたらダメじゃんっ!!!」
「力の持ち主だった場合、俺の施錠は効かないんだろ?相手がバチ当て様だった場合は?」
シンがもう一つの可能性を質問した。
「・・・それならシン、本来お前に直接何かされるだろう。バチ当ては本来”不要なバチ当て”はしない。例えお前を誘い出す為だとしてもそこまではしない。とにかく今後、人に施錠を見られることにもっと注意しなければいけない。なんなら人前でしない事だ。本当に勘付かれないように」
「甲斐がバチ当てだった時に、同じようにペナルティを発生させた相手にこうやって怪我させた事あったのか?」
「ない。だからわからない。まあ、本当にファンの仕業かもしれない、ただ、気をつけろってことだ。面倒な力だからな。使い過ぎるなよ、頻度に気をつけろ」
「わかったよ・・・」
甲斐の手から漸く頭が離れたキツネは、自分の額をなでなでと撫でで労っていた。毛が逆立っている。
「あと、シン」
「なんだ?」
「夏休みの間、定期的に俺と会え」
「「は?」」
「毎週月曜日の午前10時。公園は俺たちの家の中間地点にする。いいな?」
「だって!甲斐くんシンとはあまり会わない方が良いって言ってたじゃない!」
「俺もそう思ってた。でも状況があまりよくない。瞳印や手印も変わって、周囲にいた人間が刺された、バチ当てとも遭遇してる。相手はお前の顔をしっかりと覚えてる可能性だってある。危険な可能性が高い。だから俺と定期的に会うのは保険と生存確認だ」
「”解錠”は、”施錠”を嫌いなんだろ?なんで?」
シンの言うことはもっともだ。キツネにも甲斐にも前から言われていることだ。施錠の力の持ち主は、”解錠”と”バチ当て”の両方に嫌われている。甲斐がシンを気遣う理由は本来ないのである。
「・・・わからん」
「っ!甲斐くんもしかしてシンの事好きに・・ギィイイヤァアアアごめんなさいっ!!!」
尻尾の根本を甲斐に掴まれぶん回されているキツネの悲鳴が響き渡った。




