第26話 『デンワ』
「シン、どうするの?明日にはみーたんに連絡しなくちゃいけないんだよ?!」
部屋の中では喋りが止まらないキツネ。
「約束の日に連絡しなかったら絶対にこの辺うろうろするよ!まぁ、シンのお家はバレてないからいいっちゃいいけどさ!」
「連絡はするさ。そのあとどうするかは・・・どうするかな、面倒になってきたな。やっぱりあの時施錠しなければ・・・そしたら俺が刺されてたか。やっぱりこの執着の犠牲は仕方ないか」
夏休みまであと数日。その前にはみーたんと一度会わなければならない。シンは気が重いし打開策が全く浮かばない。とりあえず今日も制服を着て学校へ行く準備をする。今まで学校をうろついてもキツネの姿が見える人間、つまり特別な力の持ち主はいない。学校ではキツネは外に出るが、通学途中は念の為に袋の中に仕舞われる。通学鞄には教材やお弁当が入る為サブバックを持つ。これが結構邪魔でシンはあまりよく思っていない。朝食も食べ終わって出発の時間になり、キツネを袋に入れる。入れながら思った。
「・・・別に学校に来なくても良いんじゃないか?家でお菓子食べてた方が楽だろ?」
「でも、ずっと一緒にいろって言われてる」
「そうか」
若干腑に落ちないながらも連れて行く。キツネがいないと施錠ができないのかどうかはわからない。今度試してみても良いがキツネが離れようとしない。合宿では本当に致し方なく体育館から離れた教室にずっとキツネをしまっておいたが、距離としたらそこまで離れているわけではない。今度、どのようにしてキツネを距離をとって試そうかと考えながらシンは家の玄関を出た。
・・・ーーー
「随分とモテたそうじゃねえか」
教室に着くとシンの席にオミがいた。そして、むすっとした顔でシンに言った。
「オミ、おはよう。朝から感情ジェットコースターで大変そうだな」
「誰のせいだよっ!」
「わざわざ誰かに聞いたのか?」
「登校中にまたまた合宿に参加した臨時マネージャーの女子が喋ってたんだよ!他の学校のマネージャーに気に入られて一緒に飯食ってたとか!知らない学校のマネージャー助けたとか!全部女子関係!!」
「太い木が落ちてきたんだ。その場にいて気づいたんだから助けて当然だろ?」
「目立つことをするなっ!!妬まれたらどうする!」
オミとそんな話しをしていたら、キツネが袋から出てきた。
「シン!!僕を鞄に押し込んでる最中にそんなに女子にモテモテだったの?!」
シンの耳だけ五月蝿さが増した。
「大丈夫だって、問題ない。ちょっと遠目からやっかまれただけだよ。それに他に問題があったからみんなそっちに注目してたし」
「なんだよ他の問題って」
「素行の悪い生徒が他の学校にいてね。そっちの注目度の方が高かった」
「・・・じゃぁ良いわ。シンが目立たないならそれに越したことない。寧ろそいつに感謝してえくらいだ」
シンが無事だったとわかるとオミはすぐさま自分の教室に帰っていった。
「・・・オミ、あんなに怒ってるけど、シンのこと心配してたってことで良いんだよね?わかりずらいね?!」
「おはよう。あいつ感情表現が下手すぎだろ」
朝練を終えたスズが教室に入ってきた。
「あ、スズおはよう」
「合宿は助かった。ありがとうな。評判も良かった。先生からも、マネージャーからも・・・臨時マネージャーからは特にな」
「足引っ張らなかったなら良かった」
高校生とは思えない落ち着きで二人が話している。学生というより、会社で成人男性が雑談をしているような爽やかさと落ち着きだ。窓から入る陽の光も相まってとても清涼感のある光景になっていることを当人達は知らない。
「・・・オミとスズは小さい頃から一緒だって聞いたけど、感情表現にこんなに差が出るのはなんで??」
周りの生徒が口を閉ざしたり会話が途切れて二人に注目をしているそんな神聖な空気の中、キツネだけが最もな事を考えていた。
・・・ーーー
「さぁ!!シン!!時はきた!!今こそ!!むしろ今を逃したらまずいよっ?!」
みーたんに連絡すると言った日。その日の午後20時。これ以上遅い時間にするのはよくないと思いながらも気が進まないシン。電話を持っていはいるがかけてはいない。
「もうかけちゃった方が良いって!絶対!嫌なことはサクッと先にやっちゃった方が良いって!」
「嫌なことはやらないで放っておくと良いとも聞いた事あるな」
「自分から連絡するって言ったのに?!」
自室のベッドに腰掛けているが、葛藤する事早30分。考えるのも面倒になってきた頃である。キツネの騒ぎが余計に思考を邪魔する。
「ええい!押してやる!!」
我慢出来なくなった突然キツネが電話を取り上げて発信ボタンを押した。そして、呼び出しのコールが鳴るが切れないように電話を持ったまま天井近くまで飛んだ。
「みーたんが電話に出たらシンに渡すからね!」
「そういう・・・人の嫌がることをするんじゃない」
「手伝ってるんだよ!」
「そういうやつは嫌われるぞ」
しかし中々通話にならない。シンからの連絡を朝から待ってそうだと考えてすぐに電話に出そうだと思っていたキツネは拍子抜けした。
「えっ!絶対に3コール以内に出ると思ってたのに?!」
「寝たんじゃないか?」
「あんなに執着して学校の近くまで来ちゃうような人が『連絡する』って言ってた日に寝ちゃうとかある?!」
「まぁ、なさそうだよ。でも出ないなら仕方ない。もしかしたらこの時間に出ないなら急に事務所に呼び出されてるとかかもしれないだろう?アイドルなんだから」
「あ!もしかして活動再開するとかかもね!じゃあそうしたらシンにそこまで執着しなくなるかも!」
「なら万々歳だな。”療養期間だから療養されにきたんです”なんて言ってたからな。活動も再開したら罪悪感・・・は元々なかった感じだけどもっと気が楽になるなら俺への執着心も減るだろう」
「やったねシン!じゃあこれで夏休みは本当に自由じゃん!」
そう言い、執着心が薄れたかもしれない事に喜びを感じたシンは、翌日の支度を行い普段通りの夜を過ごした。
・・・ーーー
本日は終業式の前日。通常授業を午前中に受けた後は学校の大掃除が待っている。期末試験も終わり、夏休みを目前とした今は生徒の雰囲気も明るく浮き足立っているようにも見える。授業は今日で最終。昨日の放課後辺りからいつもと違う空気をシンは感じ取っていた。最も、シンはアイドルに連絡をしなければならない使命があったため、一緒に軽やかな気持ちにはなれなかったのだが。
しかし、昨晩あれほど熱中してた彼女が電話に出なかったのである。もしかしたら時間と共に執着心が薄れる仕組みなのかもしれない。甲斐も知らない何かがあるのかもしれないと少し嬉しくも思った。もしくはバチ当て様に接触した事が何か影響したのだとしたら合宿に行った事は物凄くプラスだとも考えていた。
「さっき台所覗いたら今日の朝ごはんオムレツだったよー!すっごく美味しそうだった!シンのお母さん料理上手だよねー!あ!あとお父さんはもうすぐ出張から帰ってくるんだよね!お土産にお菓子とかないかなー?!」
彼女からあれから折り返しの連絡もない。その事実はシンの心をやっと軽くさせた。他の同級生と同じように夏休みへの楽しみが心の底から湧き出てくる。夏休みの課題は7月中に全部やってしまおう。そして、部活はあるがスズとも遊ぶ。オミは向こうから声かけてくるだろう。そんな事を考えていた。
窓から入る日差しが強く、もう部屋の温度も上がってきている。夏だ。もう夏である。高校二年生の夏と言うワードを昔からよく聞いた。一生に一度しかない。最近は特にクラスの女子の方が楽しそうにしてたなと思い出しながら、部屋を出た。
シンの母と年子の高校三年生の姉が既に食卓に掛けて食べている。いつもと変わらない光景、いつもと変わらない空気だった。
『《繰り返します。所属事務所より発表がありました。本日未明、人気男女アイドルグループ ”アプリコット・ダイヤモンド”の女性メンバーのみーたんの愛称で親しまれている深雪 紗衣さんが東京都新宿区で何者かに刃物で刺されて意識不明の重体です。繰り返します・・・》』
シンとキツネの耳に入ってきた情報は信じ難い内容だった。




