第25話 『シジショ』
スローモーションの様に落ちてくる枝。枝と言っても太い。頭上は枝の先で軽そうとは言え危険だと瞬時に思い、隣でまだ喋り続けている彼女の二の腕を掴んで自身の方に引っ張った。
「お肉って言っても鈴くんは何肉ぅえええっ?!」
突然の事にマネージャーは驚いた。枝は落ちた後も素直に止まるとは限らない、離れた方が安全だと頭をよぎったシンは、マネージャーの腕を引っ張った勢いのままに膝裏に腕を回してそのまま抱き上げて退いた。
「おいっ!!!木が落ちてくるぞ!!」
「ヤバいヤバい!!ヤバいって!!」
「おいっ!戻れ!!」
バスケ部も気づいて騒ぎ始める。しかし、一名がちょうどジャンプしようと踏み切ってしまっていた。木の枝に向かって跳ぶ生徒、生徒に近づく木の枝。幹との境目が完全に離れた。太い根本は重力に従い、重力に反して上に跳んでいたいた生徒を押さえつける様に落下した。
ズザァアアアアアンッ!!!
生徒の一人が完全に潰された。
「・・・!!枝を退けるんだ!!」
シンはそう言って、抱えていた彼女を安全な場所に下ろして一目散に落ちた枝と押しつぶされた生徒に駆け寄った。そして枝を持つ。近くの生徒が数名よってきて同じように持ち上げて誰もいないところへと投げた。
「大丈夫ですか?!」
体には触れずに意識の確認をする。仰向けで倒れており、後頭部を打っている可能性がある。下手に動かさない方が良いと判断してまずは声かけをした。
「・・っつ!!・・・っくっ・・!!」
体を打つと一時的に声が出ない事もある。
「誰か先生をっ!」
シンの声に、返事もせず、焦って誰かが走って向かっていった。大人を呼びにいったのだろう。そのまま、シンは生徒の顔に耳を近づけて呼吸の確認をした。息はしている。
体育館からすぐに教員たちがやってきた。あとは任せよう。そう思って状況だけ伝えてシンはその騒動の中心からすぐに退いた。
「ありがとうっ!また助けてもらっちゃったね!」
抱えて下ろした後、確認もせずに放置してしまっていた白羽高校のマネージャーが駆け寄ってきた。
「いえ、どこもぶつけたり、痛かったりしないですか?急に引っ張ってすみませんでした」
「全然大丈夫!急にじゃなかったら間に合わなかったもん!」
そう言った彼女は目線を水道に向けた。取り残されたジャグは、水が出っ放しの蛇口の近くで倒れていた。枝の先がぶつかったのである。
「それにしても人だかりが凄いね、色んな部活が集まってきちゃった。早く戻ろうっ!」
ジャグに向かう彼女。周囲と違う動きをする彼女。そんな彼女以外にも一人、騒動を見る訳でもなくこの場をただ横切るだけで顔も向けない人が居た。人の間を面倒そうに縫って歩く。非常に気になってその人物に近寄ってみようと思った。
「ちょっと・・・!すみませんっ!」
そう言って、遠ざかる人に近づこうと試みる。しかし、この場にいる生徒は背の高い男子生徒が圧倒的に多い。シンでも埋もれてしまいそうだ。人の足を踏まないように、足元とその人物を見ながら追う。
そして、追いついた。その足は白い靴を履いていた。そう、バチ当て様と思わしき人物と同じ靴を履いていた。先日のその光景がフラッシュバックした時、先を歩き見えなくなった靴の代わりに紙が落ちて来た。
その紙をシンが拾った時、声をかけられた。
「・・・!その紙!!」
目の前を見ると同じ背丈の男子生徒が立っていた。ネイビー色の生地に黄色とオレンジ色の差し色の入ったジャージ、その顔をまじまじと見ようと瞳が勝手にフォーカスしようとした時だった
「シン!!大丈夫か?!」
呼ばれた声がした体育館の方へ瞬時に反応してしまった。見るとスズが入り口からこっちを見ている。
「水道まで折れた枝がきてた!!怪我してないか?!」
「スズっ・・・!!俺は大丈夫だよ」
返事をしてすぐに、人を追っていた事を思い出して男子生徒の方をすぐに向いたがそこにはもういなかった。シンは拾った紙を手に持ったまま立ち尽くす。落とし主は自分が拾った事を見てたはずなのに何故?と考えながら。
「どうした?その紙?」
「いや、拾ったんだ。返そうと思ったんだけど、わからなくなっちゃって」
「そうか、そこ掲示板にでも貼らして貰えば良いんじゃないか?大体なんだそれ。なんて書いてあるのかわからんな」
「・・・うん」
祠の裏で寝てしまったあの日。人がいた時に聞いたカサカサという音と同じ音を立てた紙。
そこに記されていたのは全く読めない何かだった。しかし、シンには似たような字と言っても良いのかわからないものを見た記憶がある。
それは、金色の表印で施錠した二人の南京錠マークの周りを今も回っている輪の字によく似た文字だった。
(俺が原因か?
白羽高校の彼女が疫病神か?
バスケ部にバチが当たったのか?
たまたま折れた・・・はない。と思いたいが不自然に一本だけ長かった枝が気になる。やはりバチ当てで意図的なのだろうか・・・)
あり得る原因を考えたシンだが、キツネが言った一言が浮かんだ。
『負の感情が勝手に悪さをし出す可能性高いよ!!』
まさかとは思ったが捨てきれない原因に顔を顰めた。
・・・ーーー
「これはバチ当てへの指示書だ」
「指示書?」
合宿から帰ってきた翌日。
偶然にしてはタイミングが良すぎるが、シンとしては会うつもりだった甲斐 操との邂逅が出来て一安心をした。合宿での出来事を一通り話、拾って結局返さなかった紙を手渡した。
「バチ当ては、神社や祠などで指示をもらう。供えた紙に神が指示を書くんだ。誰にどのくらいのバチを当てれば良いかっつー指示。見覚えがあるが、俺はもうバチ当ての体じゃないから読み取れない。バチ当てはバチ当ての術を覚えている”脳・記憶・魂”と、『バチ当て専用機』と言われてる”体”の二つ揃って初めて使い物になるからな。バチ当ての指示書ってことしかわからない。解読は不可だ。・・・くそ!!妻や娘がちゃんと俺の術具を言った通りにしてりゃあ今の俺の手元に戻って、チートで無双できたのにぃぃいぐぎぎっ!!」
「術具があればそんな事できるのか?」
「生まれ変わっても無双できるように前世で仕込みをしておいたんだ。一般人になっても、またバチ当てに生まれ変わってもな・・・解錠の力持ちになるとはあまり思ってなかったけどな。無双するための道具をわざわざ高っけー金払って作ってもらったのによー、約束の指定した格納場所に無かったんだわー」
「・・・自分で格納すれば良かったんじゃ?」
「その当時はその場所自体が無かったんだよ。くそっ!」
「じゃあ、ただの解錠の力だけしかないんだな」
「クソガキぶっ飛ばすぞ。そもそもなんで合宿に行った先でバチ当てと会うかね?なんでそんな金の瞳印・手印が出るようなパワーアップ事案が起こるかね?最近施錠の回数が多かったもんなぁ?施錠し過ぎるなって言ってんだろ?」
「悪かったよ、甲斐の仕事を増やして」
「そういうこと言ってんじゃねぇんだよタコが。とりあえずシン。お前が見たその男子生徒がバチ当てで間違いない。ただ、木が落ちてきたのは、バチ当ての術なのか、本当にたまたまなのかはわからない。この指示書だって、その木の事が書いてあるのか、はたまた別件の指示書なのか解読できない以上はわからない。でも、バチ当てに会って何もされなくて良かったな。人が多かったらしいからそれが救いだったんだろうな・・・そういえば、あの裏切り狐はどうした?」
いつも何かを喋るごとにツッコミを入れてくるキツネがいない事に今更甲斐が気づいた。
「あぁ、合宿の時から念の為に鞄にしまってる」
会話は聞こえている為、シンの鞄を蹴っ飛ばして存在をアピールする。
「人形じゃねぇけど・・・生き物とも違うから構わねぇか。普段からふよふよ堂々と飛んでたからな。まぁこの近辺じゃ力の持ち主は多分いないけど、何かの拍子に街中で会う可能性もあるからな。社会人しながら解錠してたりバチ当てしてるやつもいるからな。で、あとはなんだ?他にもなんか話したいことがあるんだろ?」
言い当てられてドキッとした。合宿前から甲斐と接触したいと考えていたシン。合宿での出来事はイレギュラーだった。本来の目的はこちらである。
「・・・あの、アイドルの深雪さんの件。なんとかならないかって思って」
「ならん」
ピシャッと言われた。
「そうだよなぁ・・・解錠以外出来ないって今言ってたよな・・・もしその術具があればなんとかなるのか?だったら一緒に探す」
「術具があればな。実質バチ当てみたいなもんだから強制的にみーたんの執着心の解除ができる。しかもシンの施錠の場面の記憶を消したままな。ただ、術具を一緒に探すのはやめた方がいい。前にも言ったけど、本来施錠と解錠の力は一緒にいない方がいいからな。俺はお前にそこまで敵意もないからまだいいけどよ」
そう言って、甲斐は渡したバチ当ての指示書をそのまま鞄に入れた。
「じゃあこれから探そう!」
「ただ・・・元々指定した場所に無かったんだ。その他の場所に置かれてるとして、皆目見当がつかない。ずっとお手上げ状態だ。おそらく、”誰かが今も持っている”んだ。小さいもんだからな」
まさかの状態にシンは落胆した。みーたんに連絡しなければならない日まであと二日。




