第24話 『ジャンプ』
アイドルのみーたんから逃げる為に参加したバレー部の合宿が思わぬ方向へと転んだ。まさかの事態だ。ここに”バチ当て様”が居る。そう思うと、他の競技男子とすれ違うたびにシンに緊張が走る。誰だ。誰がバチ当て様だ。やはり夜中に祠の前で会ったのがバチ当て様の可能性が高い。
・・・ーーー
「バチ当て様の可能性が高いね!!バチ当て様からすると僕がいなければシンが施錠の力の持ち主ってわからないと・・・思う!!多分!!見つからないように注意しないとね!!」
「施錠、解錠、バチ当て様の関係性がわからないから、甲斐以外とは会いたくないんだけどなぁ。あぁ、できれば特定して距離をとって接触しないようにしたい。ここで何かされても嫌だし」
深夜1時。昨晩と同じ時間だ。しかし場所は変えている。祠の近くではまたバチ当て様がいる可能性が高いからだ。
「それにしても、まさかのまさかだよね!まさかたまたま参加した合宿で、たまたまバチ当て様がいるなんてさ!」
「あ、それと、今朝の喧嘩を止めに施錠した時、瞳印と手印が赤から金色に変わったし二人同時に施錠出来たんだけどあれ何でだ?」
「今日の施錠すっごい大きい音だったよね!え?金色?何それ?パワーアップって事?」
「知らないのか?」
「うん、知らない!」
またもキツネの記憶が操作されているのか、それとも本当に元から知らないのか。あまり頼りにならない相棒だ。
「それにしても、もしバチ当て様が同じ高校生で、他の学校で、バレー部でもないとしたらどうやってあの8番の素行を知ったんだ?それに、女子マネージャーにビブスをキャットウォークに干すようとか、籠を過度に置くように言ったり・・・しかもそれで8番の頭に籠が落ちるかどうかだって定かじゃない。それこそ俺に落ちる可能性だって十分にあったんだ。何がどうなってんだか」
「だからバチ当て様ってすごいんだよ!ちゃんと目的の人間に見合っただけのバチを当てるから!」
「すごいのはわかったけど・・・」
結局、部活の休憩時間にバチ当て様に接触・・・というか指示された女子マネージャーに再度質問をしたが、シンも知っている”白い靴”の事しかハッキリと覚えていなかった。白いジャージではなかったと言われたが、むしろ白いジャージの学校の方が圧倒的に少ない。
『男の人で、運動部にしては髪が長いなってちょっと思った気がするんだけど・・・』
情報はそれだけだった。バレー部はさておき、他の部活ではそれなりに長髪はいる。襟足が長い事も含めるなら割といる。シンはバチ当て様の特定は諦めて、キツネをしっかりと隠して自身が施錠の力の持ち主”だと知られないようにする事に目的を絞った。もうそれ以外にやりようがないからである。逆にこれ以上の詮索は相手に勘づかれる可能性があるからである。
「残念だけど、大人しくしておこう」
「それが一番良いと思うよ。それに、バチ当て様の数って少ないから、きっと近所の学校じゃないよ。遠くから合宿に来てる学校もいっぱいあるんでしょ?」
「あぁ、遠くから来てるバチ当て様である事を祈ろう」
その日はちゃんと見つからないように就寝する部屋まで戻った。前日の野宿とは比べ物にならない程の寝心地の良さと疲れも相まって直ぐに眠りについた。
合宿三日目の最終日。
今日の夕方には練習も全て終了して帰る日だ。それまでバチ当て様と接触をしなければ良い。そして、昨日もそうだったが、大半は体育館にいる。向こうが出向いて来ない限りは接触することは兄だろう。そして、昨日の籠が頭に落ちるというバチが当たった8番の彼はあれ以降今の所素行の悪さの指摘をされている所を見ない。つまり、他の学校も8番の彼が原因で嫌な思いをしている事はないのだ。
8番の彼が周りに対してした攻撃、それを受けた者からの負の感情が、バチ当て様によって8番の彼に戻ったのである。
晴天をあまり感じることが出来ない黒いカーテンで窓を遮られた体育館の中でシンは今日も真面目にマネージャー業務を行う。話しかけたそうな女子を感じ取っては避け、基本は自校の先輩マネージャーとしか話しをしないうようにしていた。それに正直なところ、例の8番が注目を攫ってくれたおかげで、シンへの視線が減っていたのも事実だ。正直恩に着る。
そんな事を考えながら、再度ジャグにドリンクを作りに外の水道までやってきた所だった。
辺りにはチラホラと人がいる。合宿に参加している生徒ではなさそうな、制服を着た生徒だ。この学園、鷹泉館学園の生徒だろう。掲示板に張り紙をしている。夏休み期間の図書室の利用案内だ。他にも目線の先の体育館の水道で同じようにドリンクを作っている女子マネージャー。そして、この連休中に学校の植木を剪定している用務員。洗濯物をしに行こうとしているマネージャー。重い武具を持って移動している男子マネージャー、プリントを見ながら歩いている男子生徒などを見かける。もちろん中には一見して何をしているのかわからない者もいる。
「この辺で良くね?ジャンプ力競おうぜ!あの木にジャンプしてどの辺触れるかやろうぜ!」
バスケット部であろう男子が数名やってきた。早くも休憩なのだろうか。用務員が剪定している植木からは離れた場所でジャンプ力を競うらしい。目で見ても確かに遊ぶには邪魔にはならない距離ではある。その光景を横目でシンが見ていたら話しかけられた。先日の喧嘩で施錠をした学校の女子マネージャーだ。
「あ!昨日の天王子学園の人男子マネだ!他にいないからわかりやすいよね!私、白羽高校のマネージャー!宜しくね!あとさ、あそこで遊んでるバスケ部の男子には気をつけたほうが良いよ。よく他の部活に絡んでるんだって。先生たちには知られてないけど、なんか一昨日の夜に喧嘩とかもしてたらしいし?近寄らない方が良いよ!とばっちり受けちゃうかも!」
そう言って、彼女は隣でジャグに水を入れ始めた。
「まぁ、確かに態度も見た目もちょっとヤンチャそうですよね」
シンは少しだけ顔をむけて例のバスケ部を見た。順番にジャンプをして木の枝を触ろうとしている。その木はとても大きく、枝も長い。髪の毛の色が明るい事だけで全てを決めつける気はないが、そう言ったイメージを持ってしまうのは仕方ないだろう。実際、ほとんどの部活の生徒の髪色が暗い色や黒髪に対して、そのバスケ部の一連の髪色の明るい人数の多い事。
「昨日の洗濯籠落下事件から黒宮高校の8番の刺々しさが減って良かったよねー!体育館全体の空気が良くなったって感じ!」
「黒宮・・・あぁ、あの学校は黒宮高校って言うんですね」
「そう!学校の名前の色のジャージだからわかりやすいでしょ!うちも白羽の白で白ジャージだし!」
蛇口を回して水をジャグに入れ始める彼女。待ってる時間は暇だからか話し出した。
「加賀美高校はやっぱり強いねー!あそこのエースはさ、一年の時からレギュラー入りしてるからもう慣れたもんであの落ち着きようだよ!」
少し離れた所で変わらずバスケ部が木の枝を触ろうと順番にジャンプを繰り返す。
「同い年なのに年上かと思っちゃうくらいの落ち着きようなんだよー!」
大きな幹からの枝木、それも、対して太くもない部分に触れている。
「でも、それでも天王子の鈴くんには敵わないよね!ねぇ、鈴くんと仲良いの?普段どんな感じ?!すごく興味ある!何食べたらあんな強烈なスパイク打てるの?!」
シンは嫌な予感がした。隣で喋る彼女の質問に適当に答えながら、意識は自分の周囲へと向けた。何か嫌な予感がする。自身の頭上まで伸びているバスケ部が触れている枝。他の枝はほとんど切り揃えられているのにシンと彼女の上にまで遠くから伸びている枝。これだけ長い。いや、不自然に長すぎる。
「スズは、肉が大好きですね・・・」
「やっぱりお肉かぁ〜!!うちの子達にも今日からお肉を食べるようにまた口煩く・・・言わなくてもお肉はみんな好きで食べてるか・・・」
シンは何故か思い出した。以前学校から帰る時に自身に向かって落ちてきた大きな木の枝を。
パキッ!!!
ミシ・・・ッ
ミシミシ・・・・
乾いた音がした。
シンは振り返って枝と幹の繋がっている部分を見た。そしてそれはスローモーションのように動いて見える。そう
枝が折れた。




