第23話 『キンイロ』
金色に変わった瞳印と手印。
常時と違う事に一瞬気を取られたが、今はもう時間がない。シンは、黒地のジャージの生徒を施錠する事にした。もう片方の生徒は仲間が止めてくれると信じた。
「《強制制御》・・・!!」
例に漏れず辺りは真っ暗になり、蒼白い雷が落ちた。
二本落ちた。
【ガシャンッ!!!!!】
そう、一度に二人同時に施錠をしたのだ。いつもよりも大きい音を立てた。施錠の印も赤ではなく金色だ。そして、いつもの南京錠の印の他に、どこの国のものかもわからないような文字が一緒に浮いている。南京錠を囲うよう輪になってぐるぐると時計廻りに廻っている。黒い靄が二人から出た。割と黒い。そして宙に浮かんで消えていった。
すぐに周囲は明るくなり、自身から瞳印も手印も消え、視線の先の掴み合いをしていた二人の手がそれ以上前に動くことはなかった。
「はぁー・・!殴らなくて良かったわ・・・マジで」
止めに入っていた生徒が二人が手を下ろした事に安堵して肩の力を抜いた。二人はと言うと、不思議そうな顔をしている。今にも殴りたくて仕方ない状態だったのにその感情が落ち着いたのだ。
「・・・とりあえず、もうみんな起きる時間だ。変わらずそっちのヤンチャには指導しておくようにして下さい。この合宿に来ている全員の為にも」
「・・・今までと同じように言っておきます」
そう言って二手に別れた。シンは、大事にならずに良かったと心が落ち着いた。と、途端に自身の胸が気持ち悪い。何か動いている。
「あの・・・どうなりました?」
胸に抱えたマネージャーを忘れていた。
「あぁっすみません。殴らずにそのまま止まりましたよ。一旦解散したみたいです」
「本当ですか!良かった!ではこれで!!」
そういうと彼女は元気よく飛び出して自分の仲間の所へ向かった。
「もーー!!!馬鹿者!!心配したしびっくりしたんだから馬鹿者ー!!」
「あ!マネージャーおはよう!あーあ、馬鹿者って二回も言われちゃってるよー?」
「オメェの事だよっ?!?!」
・・・ーーー
印が赤色から金色に変わった。そして、一人ずつしか出来なかった施錠が二人同時に出来た。そして施錠の証の南京錠の変化。【施錠の音は遠くに居ても俺には聞こえる】そう甲斐 操が前に言った事を思い出していた。今日はかなり離れた場所だが、この音も彼に届いたのだろうか。朝早くだ。聞こえていたら今度会った時に文句でも言われそうだ。
そんな事を考えながら迎えた合宿二日目の朝。気になることは沢山あるがキツネを出すわけにも、話すわけにもいかずにまたカバンの中へ押し込んで来た。夜中にまた抜け出すまでお預けだ。ちゃんとマネージャー業をしながらも深夜に見た祠での人物や印の意図の変化を考えたいのだが、シンの視界には同じ体育館で神々しく金色に輝く二つの南京錠が煩わしかった。
それに、外の変なところで寝てしまった為に体も少し痛い。しかし、それなりの寒さの中でも風邪を引かなかっただけかなり幸運だ。
「昼めしの後の休憩で一回ミーティング入れようか」
「やばい、朝飯食い過ぎた・・」
「なんか朝変な音しなかった?」
「俺、家以外だと全然寝れないんだよな。修学旅行とかいつも寝不足」
周りの学生の声が聞こえる。シンは寝不足ではないが寝不足に匹敵するほどの怠さを感じていた。気持ちはよくわかる。
女子マネージャーも選手と同じ時間から稼働する。
自分も同じように選手のドリンクを作りに行った。戻ってきたら先ほど喧嘩をしていた学校のマネージャーに再び会った。彼女は軽く会釈をしてニコッと笑った。今朝以外接点がない為、周りに不審に思われないように手は振らない。そして彼女はビブスを自分の学校に配り始めた。
テーピングを施すマネージャー、タオルを数える者、スコアを取る準備をする者。前日の洗濯物を持ち出す者。洗濯物をキャットウォークの手すりに干そうとする者。多くのマネージャーがそれぞれ動いている。やることは山積みだ。
考える事が多いシンは朝食も落ち着いて食べる事が出来てない。普段なら冷静に色々分析を始めるが今日は体調も相まって思考が混濁としている。心が落ち着かないことに無意識にストレスを受けている。故に判断も鈍い。
「シンッ!!!」
気を張っていたはずが、目の前を横切る高速のボールに対してかけられた声にも気づけなかった。
ガチャンッーーー!!!
ボールは窓についているボールガードに勢いよくぶつかった。
「おい!!そんなところから入ってきて無理やり打つから変な方向に飛ぶんだろ!!」
ボールを飛ばした学校のコーチが怒声を上げた。
「すみません!大丈夫でしたか?!ほら!!お前のせいだろ!謝れ!!」
選手が二人シンの元へ来た。一人がもう一人を無理やり引っ張ってきている感じだ。無理やり連れてこられた側の選手がボールを打ったのだろう。しかし態度が非常に太々(ふてぶて)しい。
「あ、いえ、別にぶつかりませんでしたから」
見れば今朝喧嘩をしていた生徒が着ていた黒地に赤が入ったジャージだ。ビブスの番号は8番。大方、他の学校がクレームを出したのは彼の事だろうとシンは思った。
「ほら!!当たらなかったから良かったものの!お前は日頃から危ないんだよ!!」
「・・・当たってないなら何もないし良いじゃないっすか。どのマネージャーも流れ弾は承知の上だろうし」
「あのなぁ?!そういうこと言ってんじゃーーー」
上で何か動いた気配がした。
ドゴンーーー
「ーーーっ!!」
目の前で鈍い音がした。太々しい態度をとっていた8番の彼の頭に、上から籠が降ってきたのだ。
洗濯物の入った籠である。中身はビブスと軽いがそれでも籠自体がそもそも重く硬い。
「ーーーってぇなっ?!」
籠の降ってきたであろう場所を見るとどこかの学校の女子マネージャーが酷く狼狽えていた。
「ごめんなさいっ!!」
「テメェふざけん」
「大丈夫!!コイツ頭の硬さだけが取り柄だから!!」
「はっ?!何言って・・・」
「事故だ、仕方ないだろう!そもそもこの場に来る原因を作ったのはお前自身だ。お前のボールじゃないものを無理やり打ったから人に当たりそうになってこうやって謝る流れになったんだ。もう良い、戻るぞ!!」
じゃぁ、すみませんでした。と、やはり片方だけが再度シンに詫びを入れて戻って行った。入れ替わりで朝に話した女子マネージャーがやってきた。
「ぶつからなくて良かったねー!それにしても、こう言っちゃ悪いけどナイス直撃だったね!!君にぶつからなくて良かった!」
そうちょっと悪びれながら言った彼女に続いて例の男子生徒も二人揃ってやって来た。
「ボールガードに当たったからって・・・その振動で上に置いておいた籠が落ちるかね?」
「バチが当たったんだろ!!」
バチが当たったんだろ・・・?
「(バチ当て様だ)」
ハッとしてシンはすぐさまキャットウォークを見た。上にはまださっきの女子マネージャーだけが居た。そしてこちらを見ている。いてもたってもいられなくなってその場から大きな声を掛けた。多少大きい声を出したところで周りはボールの音や掛け声で大して目立たない。
「なんで今のこの時間にキャットウォークに干そうと思ったんですか?!」
まだ朝だ。これから太陽は更に上に登る。外に干した方が良いだろう。
「えっ!!紫外線の劣化防止にもなるし、ボールもキャットウォークに登らないでビブスにぶつかって下に落ちるだろ?って・・・言われて・・・」
「誰にっ?!」
「えっと・・・」
彼女はそう言って上から見渡す。誰に言われたか、当人を探している。
「・・・今ここにはいないです。あれ?同じジャージの人もいない・・・。他の部活の人だったのかな?ちょっと前に洗濯機の所で会ったんだけど・・・」
「男子ですか?!女子ですか?!何色のジャージでしたっ?!」
「えぇっ?!えっと、男子で・・・ジャージの色は上は白いTシャツだったんだけど下は・・・えーっと・・?」
「靴は!?靴の色は」
「シンっ!どうした?落ち着け」
スズが焦っているシンを見かけて心配して寄ってきた。
「あ、いや。大丈夫。ちょっと人探しっていうか・・・」
「今探した方が良いか?」
言われて気が付いた。みんな練習中だ。特段シンの質問攻めを不思議に思っている人は誰一人いないが、質問された女子マネージャーだけが少し怯えていた。
「いや、すまない。後にする・・・あなたも、すみませんでした。後で少し時間貰えたら」
そう言ってマネージャーの仕事に戻る。今の事の起こりを見てシンは確信した。
今のは、『バチ当て様が起こした”バチ”が当たった瞬間』だと。




