第22話 『マナー』
「口と態度と顔が悪いって・・・!全部だしタダの悪口じゃねーか?!」
「スタイルは良いから全部じゃないね!」
シンの行手の先に男子生徒が3人居た。2人は白地にアイスブルーが入った同じジャージを着ており、先ほどから漫才みたいな話しをしている。そして、向かいには黒地に赤色が入った対照的な色合いのジャージを着た男子生徒が1人。
「ったく!茶化すんじゃねぇよ!」
白ジャージのガタイが良過ぎる彼が少しぶっきらぼうな口調で言った。短髪の色黒で迫力もある。
「それでね、まぁ言い方はともかく、言ってる内容はそんなに見当違いなことではないと思うんだ?こんな沢山の学校が集まってるんだ。みんなが問題なく気持ちよーく、一緒に合宿したいと思うんだけど、そちらの学校はそういう事は特に思わないんでしょうか?」
さらっと文句を言いながらも本題に話を戻した優しそうな男子生徒。とてもにこやかな表情をしている。髪の毛もサラサラで第一印象はとても良く見える。そんな彼が下手に出て話しを進めた。それに対して初めて黒地のジャージを着た彼が口を開いた。
「言ってることはわかります。同じ学校だから連帯責任だとか、躾しろとか教育がとか言われるのもわかるけど、俺たちだって結局は赤の他人です。普段からちゃんと言ってます。全然やらないけど。言ってても出来てないならそちらからしたら不満だろうから『そんな奴連れてくるな』って思うでしょうけど。そんな奴だけど、ここでみんなと同じことをさせて学習してもらおうって事ですよ」
「その場にこの合宿を使われると迷惑なんだよ。他の学校の奴はみんなできてるんだよ、やりたくなくてもマナーを守ってやってるのにそこをできてない奴の練習場にされると困るって話だよ。ここは部活の練習場であって、人格形成の練習場じゃねぇの!!」
「そんな事ないですよ。昨日あなたの所の3番さんは試合に負けた後物凄く怒り散らしてましたよね?それも一緒ですよ。ああ言うの見る方の気持ちって考えた事ありますか?一人で怒ってるから良いって言うんですか?お互い様じゃないですか?」
「言われればそうかもー」
「おいっ?!んな事ねぇだろっ!全然違う話じゃねぇか?!」
シンは話しに覚えがあった。2校ともバレー部だ。昨日の最後の試合で、負けた後にとても怒り狂ってた人をみかけた。双方の言いたい事が何となくわかった。
片方は、複数の学校団体が同じ場所にいる以上、マナーを守るべきであり、守らせる義務が学校側にある。そしてもう片方は、教えてはいるができるできないは仕方ない。学校側は守らせようとしているができないものは仕方ないから実際にここで学べば良いと言う事だ。
『守れるようになってから来い』と『ここで守れるようになれば良い』の違い。人間持ちつ持たれつだから実際に来て体験して少しずつできるようになれば良いと考えるシンだが、そうすると頑張っている人たちからすると何とも浮かばれない話だ。
「(人見知りが試合以外でも顔を合わせたら挨拶をする。礼儀だ。しかし、中には本当にそういった場面が苦手で仕方ない人もいるだろう。それでも皆んな頑張っている。俺も人見知りだけどその辺は努力をしている。もし、俺以上に苦手意識があって頑張っている人からしたら、挨拶をしないで許される人を見たら不平等だと腹を立てるだろうな)」
そんな事を思いながら、もうこの光景も話題も結局他人の事だし考えるだけ労力の無駄と思い引き返そうとした。
「大体その話しをするのに二人で来ることですか?こっちは一人なのに?酷い話じゃないですか?」
一人でこの場に来た方が急に喧嘩腰になった。
「あぁ?オタクの部長も呼んで来いって言ったのに来なかったのはそっちだろ?」
「朝のこの時間ですよ?忙しいのに来るわけないじゃないですか?」
「・・・来ないって本人が言ったのか?自分で勝手にそう思って、来ないだろうって決めつけて話しをしなかったんじゃねぇのか?それでそんな事言ってんなら舐めてんのはそっちだろうがよ?」
「二人がかりで文句言って・・・こっちが一人しかいないんだから一対一にすればいいじゃないですか。卑怯にも程がある。大体こんな朝早くから呼び出しがあったなんて非常識な事わざわざ言いませんよ。馬鹿なんですか?」
ピリッとした空気が流れた。双方が癇に障った気配がした。ガタイのデカイ生徒に”馬鹿なんですか?”と言い放ったその瞬間だった。
ーーーッガ!!!!!
双方が突然掴み合った。
一人で来ていた黒ジャージの生徒と・・・
白ジャージの温厚そうに見えた方の生徒だった。
「お前っ!!辞めろって!!相変わらず手ェ早ェんだよっ?!?!」
「無理。気に入らない。辞めない」
「俺たちが問題を起こしてどうすんだよ?!それ以上やめろ!そっちも離せ!!!」
お互いのジャージの襟を掴んでいる。背丈が同じような二人がつかみ合っている為、睨み合いも始まった。この状況を目の前にしてしまい、シンは施錠を一瞬考えたが、何とか間に止めに入っている生徒が一人いる。このまま収まるかも知れない。
タッタッタ・・・ーーー
「あっ!!あの!すみません、こっちにウチのーーー」
このタイミングで掴み合いの光景が見えない方向から女子生徒が一人走ってきた。二人と同じ白地のジャージを着ている。マネージャーだ。しかし、この光景はあまり見せたくない。シンは走ってくるマネージャーの方へ音を立てずに静かに自ら向かい、彼女が角を曲がる寸前で止めた。
「しーっ!」
「えっ?」
口の前で人差し指を立てて騒がないようにジェスチャーで伝えた。そして、そっと彼女の背を押して角から光景を見せた。依然、掴み合い状態で間に入っている生徒が困りながらも止めに入っている。そして掴み合っている生徒の顔や目は鋭いままだ。先日オミと出かけた時に遭遇したヤンキーなんて比べ物にならない。意外と、規律を守ったりする人間の方が芯が強い為か揺るがない意志をシンは感じた。
「あれっ・・!ウチのっ!!」
小声でマネージャーが驚いてシンの顔を見た。そしてそのまま飛び出していきそうなマネージャーを押さえて止めた。正直他校の話しだ。止める筋合いはない。でも、掴み合いで今互角の状態で、彼女が飛び出した事により気がそれた方が制圧されてしまいそうな気がした。下手に気を逸らさない方が懸命だと思ってしまった。
「おいっ!まだ双方間に合う!話し合いで妥協点を見つければいいだろっ?!」
一見脳筋っぽく手っ取り早く手が出そうな彼がこの場で一番まともな事を言っているとシンは思った。少なくとも自身と同じ考え方だと。彼の言うことを聞かずに掴み合いの手に力が入り襟は伸び空気は悪化している。彼は止められるか、それとも二人の手がもっと出てしまうか・・・。考えていたら止めていた彼女が顔を耳に近づけて小声で言ってきた。
「ウチの学校の掴んでる方・・!すっごく短気なの!!いつも隣のアイツが止めに入ってて・・!割とすぐに収集つくんだど今日はダメそう〜!こんなに引かない相手いない!久々にそろそろ反対の手が出ちゃうかも・・!」
それは非常にまずい。本気で殴るかも知れない。シンは直感でそう思った。しかし自分の元には引き止めてしまった彼女がいる。施錠をすればみーたんの二の舞だ。もし今行かせても先ほど考えたように気が散った方が制圧される可能性が高い。仲裁の彼はこの喧嘩をまだ止められない。今この状態のまま鎮める方法を考える。
「あっ!!だめ!もう手が出る!!」
彼女の声に意識を喧嘩に集中したらずっと膠着状態だった二人の体が丁度身じろいだ。殴り掛かる体制に入った。
人がいるからずっと静かにナップザックに入っていたキツネも声は出さずともドカドカと背中を蹴ってくる。施錠をしろという意思表示だ。
「ッチ!!」
シンが一か八かで行動に出た。
「見ない方がいいっ」
殴り合いの光景なんて見ない方が良いと紳士振り、まず彼女の顔を自分の胸に押し付けた。身長が低く胸の高さで頭と顔が収まった。そして押し付けた左の手と腕で彼女の左右の耳を塞ぐ。これで見聞き出来ない。
「《表印っ!!」
瞳印と手印が現れた。しかし、施錠は一人ずつが基本だ。握手会の時にもわざわざ不審者二人に対して二回行った。しかし今回は同時でないとダメだがそれが出来ない。どちらから施錠するか、どちらが被害が少ないか。もう悩んでる時間はない。二人の手が上がった。
「(印中の全員を施錠できたら・・!!)」
そう願った瞬間、通常赤く現れる表印が”金色”に変わった。




