第21話 『ホコラ』
「で?その話はなんだったの?」
「・・・取り止めもない、身の上話だった。あと連絡先を聞かれた。断ったけど」
「そのために僕はプラス5時間も鞄生活を余儀なくされたのっ?!」
深夜1時。
大人たちも寝静まった頃、シンは部屋をナップザックと共に抜け出した。キツネを少しでも解放するためである。
「晩御飯食べたらすぐに来てくれるんだと思ってた・・!なのに!来たのはスズだった!!みんな部屋に戻ってきてもシン全然戻ってこないんだもん!!シンから奪ったチョコも暑すぎて溶けちゃったよ!!食べるっていうか全部ずっと舐めてたんだから・・!」
「じゃあ案外忙しかったんだな」
「悪魔っ?!」
ここは校舎裏。ここまで来る途中で廊下以外の電気がついた部屋はなかった。数日間とはいえ、朝から晩まで運動をするのだ。寝ないと体力が保たない。ナップザックから出て周辺を自由に軽く飛び回ったキツネはその後、その辺の柵に乗り、猫おなじみの伸びのポーズを取る。
「もう本当にこの学校の空気悪い!!かろうじてココはまだマシだけどね!」
「あれのおかげじゃないか?」
普段からあまり人が普段から近寄らなさそうな校舎裏。そこに、小さな祠があった。シンは指差してキツネに教える。御供物もあり、しかもまだ新しそうだ。つまり、最近誰かがお供えをしたと言うことだ。
「・・・僕なんでもかんでも感じる訳じゃないから何とも言えないけど・・・お稲荷様かぁ。お稲荷様は、豊作の神様だからこの不穏な空気の浄化とは関係ない気がするけど。でも神様は神様だし、神様への入り口って事には変わらないかな?じゃぁこのお祠のお陰かなぁ?あ、りんごがお供えされてる!わ!ペットボトルのお水も冷たい!気が利いてるねぇ〜!」
キツネの言葉にシンは驚いた。いくら夜は涼しいとは言え、ペットボトルの水が今冷たいとしたら1時間以内に誰かが備えたものだ。
「ーーーっ!!」
シンは祠に近づきキツネの首根っこを掴んですぐにナップザックに入れて、祠の裏の木々の奥に素早く身を隠した。
「シンッ?!どうし」
キツネの口であろう場所を袋の上から押さえて塞ぐ。どうか、どうか自分の考え過ぎであってくれと考えた。
供物をするとしたら一般的に考えて基本はココ、鷹泉館学園の者だろう。しかし、それが生徒であれば隠れてすることもなく堂々とお供えに来る。大人が来るにしたってこんな夜中に来なくても良い。つまり、この暗くみんなが寝静まった後にしか来ない・・・来ることが出来ない人間がいるのではないかという事を考えた。
それはつまり、所謂”普通”ではないと言うこと。そう、”力”を持っているものが人目を盗んできたと言うことだ。
施錠と解錠の力の持ち主は特に神社や祠について何かしなければならない事はない。
「(つまり、施錠、解錠の力以外のまだ知らない力かもしくは・・・)」
そう考えながら、涼しいはずの外でシンは自身から汗が出ているのを感じた。
ガサッーーー
ガサッーーー
足音がする。
梅雨が明けて、勢いよく育った雑草を踏む音だ。音の大きさからして動物ではなく人間であることがわかる。シンは音の主を覗きたくなったが、自身が覗くと言う事は相手からも見られる可能性がある。
じっと潜んだ。祠とその奥に人の足が見えた。街灯の光で照り返された白い靴の大きさからして男。しゃがみ込んだようだが祠でちょうど見えない。カサカサと紙の様な音が聞こえた。
その時だった。小さく、ほんのわずかな時間だったが、祠を挟んで反対側が青白く光ったのである。例えるなら暗闇でライターをつけたかの柔らかく小さな光だ。そしてそれが青色だった。
電気ではない。火・・炎だ。
青く光る炎は、かなりの高温。それでなければ、化学の実験で行うある特定の物質を燃やした時に出る青色の炎。それでもないとすると
「(超常現象・・・物理法則を無視している。つまり・・・何かしらの力の持ち主だ。そして、祠は神仏にまつわるもの・・・そうすると恐らく今俺の目の前にいる人物は・・・)」
そう考えているうちに、数回程紙が擦れる音が聞こえた後にその人物は去っていった。念の為、足音が遠のいていくのをちゃんと確認して、完全に聞こえなくなってから3分間は物音を立てずに潜んでいた。
「(”バチ当て様”と呼ばれる人物の可能性が高い)」
シンはそう思い、その後もキツネに話しかけることはなく、静かにその場所に身を潜めていた。
・・・ーーー
夏と言えど山奥の朝は涼しいと言うより少し寒い。
「・・・う・・・さむっ・・・」
シンは寒さに目を覚ました。良く寝れたが、体にまとわりつく感触は最悪である。痛い。
「?・・・なんだ?ガサゴソうるさくてなんか体に刺さ・・・?!」
外だ。外で寝ている。昨日抜け出してきてキツネと話していた祠の後ろだ。シンはあのまま、いつ校舎に戻ろうかと考えている間に力尽きて寝てしまったのだ。
「マジか・・・」
「んーーーシンーーー???・・・朝っ?!」
ナップザックの中にいても朝の明るさはわかるようでキツネが飛び起きた。ナップザックが文字通り飛んで宙に浮いている。
「それでそれで?!相手の顔とか、どこの学校のジャージかとか覗き込んで見れた?!あ、でもバレー部とは限らないんだもんね。いろんな部活の生徒が来てるんだもんねー絞るの多いなぁ・・・でも、この祠を知ってるって事はこの学校の生徒・・?でもバチ当て様だったら祠を感じ取るくらい楽勝なのかな?!良くわからないけど!」
「覗き込まなかったよ。壁や扉から覗くのと訳が違うんだ。あまり乗り出したらこっちが隠れてるのがバレる」
「あれだ!この間授業で出てたね!《深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている》だから、シンが覗くなら相手からも見られるってーーー」
「残念、それ意味違うんだよ」
「そうなの・・・!?!?」
運よく、決められた起床時間の1時間前に目が覚めた。その為、近くの水道で顔だけ洗う。水が冷たい。この時間にうろついても、朝早く起きた生徒として見れるだろう。少なくとも、まさか一晩中外にいたとは思われない。
キツネにも水を飲ませる。水道から直に飲ませても良いが、シンが両手で一度水を受け溜めて、そこからキツネが飲む。
「冷たくて美味しいー!!すごい!なんか井戸水っぽい!飲んだことないけど!」
爽やかな朝の光景だ。しかし、シンの頭の中は、昨日の祠での炎を繰り出したのが誰なのか頭がいっぱいだ。
「なぁ、バチ当て様って『青い炎』を使うのか?」
「炎を使った”術”は聞いた事ないなぁ?その代わり?バチ当て様は《バチを当てる時》その辺の道具を何でも使うよ?文房具も使うし?大掛かりな術を掛ける時は神楽鈴持ってるって!ほら!神社のあの沢山鈴がついた棒!!」
「その辺の文房具って何だよ」
「ハサミとか!画鋲とか!バチ当ての業を行う時は何だっていいの!」
「・・・前にも言ってたな」
「だから一見してバチ当て作業してるなんて思わないんだよね〜!」
その後、シンはキツネをまたナップザックにしまった。校舎に戻るからだ。
自分が使う体育館とは違う体育館の横を通り過ぎた方が早そうな気がして、何となく別の通路を進んだ。
「だから、お前の所の8番の態度が悪いって言ってんだよ。なぁ?こんだけ多くの学校が集まってんだよ。社交辞令くらい教えておけよ。人見知りなんだかどうだか知らねぇけど、マナーだろうよ?」
「コラコラ、そういうお前も口と態度と顔が悪いよ?あれ?全部だね?!まぁ、この人のことは全部おいておいて、言っている内容はコチラの学校の意見なんだ。愛想良くしてくれとまでは言わないけど、舌打ちで反応されるのはちょっとね?」
しまった。変な場面に遭遇してしまったとシンは爽やかな涼しい心地良い朝なのに、気持ちが一気に沈んだ。




