第19話 『ガッシュク』
「よし、全員揃ってるな。じゃあバスに乗れー」
おじいちゃん先生がその場の全員に声を掛けた。
合宿先の学校は同じ都内にあるため、長距離移動ではない。
「みーたんにあんなこと言っちゃってぇ!!しかも合宿から帰ってくるのに5日もかからないでしょ。どう言うつもりっ?!」
バスに乗り込んでいるシンの前を飛ぶようにして当たり前にバスに乗ったキツネ。怒っている。シンがみーたんにはっきりと5日後に連絡すると言ってしまったからである。
部員とバスに乗り込む。座席は決まっている。そして、シンは窓際へ座った。まだ隣の席に座るはずの人物は乗っていない。
「考えてる。そもそもこのペナルティーに関しての詳細をお前は知らないのか?まだ思い出せないのか?」
シンはキツネに問う。
「施錠時の唱えを聞かれた場合!!電車の中の時と違って明らかに見られて聞いた相手が”その場にそぐわない行為”と思った場合に発動するんだよ!だから、いくら同じ状況で他人の目の前でシンが施錠をしようが、その人がシンのことを気に留めてなかったり唱えを聞かれなければ隣にいたってペナルティーは発生しないよ!でも、みーたんの場合は恐怖で混乱してたとは言え、シンが手印と瞳印を合わせるところも唱えるところも両方見て疑問を持ったからなんだよ!で、その疑問に思ったこと自体を消す代わりに執着しちゃうわけ!でも甲斐くんが言ってたみたいに執着するにしてもちょっと異常な気がするなぁ?多分、元から全然関わりがなかったとしたって、オミがシンを気にかけるのと同じくらいのモンだと思ったんだけどなぁ?あ!!もしかしたら!ペナルティーを無しにしてもシンが物凄くみーたんの好みだったとかじゃないの?!」
「長くはないが、隣よろしくな」
キツネが復習を含めた説明をつらつらと話している最中に隣の席の者がやってきた。スズである。
「あぁ、合宿の間も宜しく」
「シンの人気があんなにあるなんて知らないで誘ってすまなかった」
「あんなの嘘だよ、それか一時的。大丈夫だって」
「だと良いけど」
隣にスズが座ってきた為、キツネとの会話は終了だ。
「・・・僕、せっかくすごく長く話したのに・・・!!」
シンとスズの前で涙目で震えながらキツネは愚痴を零した。キツネに返事こそしなかったものの、シンはちゃんと聞いていた。”執着するにしてもちょっと異常な気がするなぁ?”といったキツネの言葉。あの言葉はキツネの記憶が操作されていない状態のものなのかどうなのか。もし操作されている記憶ならば当てにならないが、もし操作されていない本当の情報だとしたら、彼女の異常なまでの執着心はなぜ起こったのだろう。甲斐も言っていた。そう考えながらスズと世間話をしていた。
・・・ーーー
夏も本番に向かい、日に日に暑さを増している。小学校の時、夏休み入る直前、分けて持って帰ってはいるが、それでも学期末に道具箱や教材を持って帰るのは骨が折れる。重さと暑さに耐えて帰った記憶は僅かながらどんな人にも記憶の片隅に残っているだろう。
合宿先は山奥の学校というだけあって少し涼しいのが救いだ。むしろ、涼しいからこそ合宿の場所に選ばれたのだろう。シンの学校や家も割と自然が多いが、今回のこの学校はもっと自然の範囲が広い。部活動も盛んで学校の敷地自体がとんでもなくだだっ広いのである。たいていの学校は街中にあり、グラウンドは他の部活動と併用や時間をズラしてなどが一般的だが、この学校においてはそうしている部活動は少ない。特に強豪と呼ばれる部に関しては専用体育館、専用グラウンドだ。つまり規格外なのだ。
そんな学園、【鷹泉館学園】に到着した。
「・・・うちの学校より広い」
「それに涼しいから毎年この学校で合宿だ。バレー部だけじゃない、他の体育館でバスケ部、バド部も合宿をやってる。夏休み前のこの連休の合宿は他の競技の学生、他の学校の生徒だらけだ」
「そんなこと事前の説明会で話してたっけ?」
「話してない」
「つまり、バレー部だけだと思ってみーたんから逃げたシンは、別の大変さを味わうと言う事・・・!」
ふむふむとバスから降りながらうなづくキツネ。キツネは気にもせずにふよふよ飛んでいるが、突然ハッとした様に顔をあげた。バスから完全に降りた所で何かに気づいた。しかしそこで突然首根っこを掴まれた。そして、この合宿で何か使えるかと思って購入された100円ショップのナップザックに突っ込まれたのである。
「ふぐぅおえっ!!!!!シン!!なにする・・!?」
袋の口をシンを見るようにして見上げると、シンが口元に人差し指を当てていた。”喋るな”の合図だ。
キツネより先にバスから降りたシンが目にした光景は、学校の駐車場にある沢山のバスと大勢の生徒だ。それも、バレー部だけでない。スズが言った通り、様々な、それぞれの部活の道具を持った生徒が溢れかえっている。
「(万が一、この中に”施錠”と”解錠”の力も持ち主が居たとしたら、関係を持ちたくない・・・)」
そう思い、甲斐がキツネを視認できる事を踏まえて、同じの力の持ち主や解錠の力の持ち主がいた場合、キツネの存在で自身が”力の持ち主”だと晒しているようなものだ。
シンはナップザックの口紐を閉め、一応優しく自身の背中に背負った。そして、視界を閉ざされたキツネは
「え?僕、ずっとこのまま・・・?!」
・・・ーーー
「で、あるからして、他の部活動の生徒も多く居る。同じ競技の他校とは大いに交流して構わない。ぜひ、お互い高め合うように。そして、試合で是非ともここに居る学校と対戦が出来るように勝ち続けましょう。そして、その際は正々堂々と戦いましょう」
バレー部が集められ・・・たかと思いきや、他の競技部も一緒に体育館に集合した。まずは鷹泉館学園の学園長の話を聞く。シンが周りを見渡すと、近くにはバレー部男子が大勢。7割が180センチを超える長身だ。普段、自身の学校で行う時に生徒が集まった時とは圧迫感が段違いである事にシンは少し息苦しさを感じていた。
生徒を気遣ってか、元々言う事が決まっていたのか、割と早く終わった挨拶。それから指示を受ける。バレー部の体育館へと移動して部員は早速着替えて練習に入る。そして、マネージャー初体験のシンは3年生の先輩の女性マネージャーから教わる。
「君が珍しく男子でマネージャーを引き受けてくれた”瀬条”くんね!私は3年の佐藤です。よろしく!瀬条くんは合宿の間はウチの部員の世話をして貰うわ!私も手伝うけど、他の学校を手伝ってもらううちの臨時マネージャーのサポートもするから時々離れるけど、まぁ鈴くんと仲が良いらしいからなんかあったら彼に聞いて頂戴!」
「はい、わかりました」
「じゃぁまずは水回りの案内からね、一緒に来て!」
「凄い人気だな」
初日の合宿の終盤。選手以外が飲む用に準備していたスポーツジャグが空になったので水道でシンが洗っていた。話しかけてきたのはスズだった。
「・・・ノーコメントで」
シンは疲れを隠すつもりもないぶっきらぼうな表情で返す。それもそう、何もシンを教えた3年生の佐藤先輩とシンだけが自分達の学校・・・天王子学園のマネージャーをしていたわけではない。他にも臨時マネージャーが居た。スコアは先輩方が取る。シンや臨時マネージャーはドリンクの準備やタイムアウトの最中の床拭き、そしてこの後は片付けやボール磨きにビブス洗濯、最後に床モップだ。勿論これを1人や2人でやると考えると本当に大変だ。しかし、今回は臨時マネージャーは他校に貸し出しをしたとて十分足りる程だ。つまり・・・人が余る場面がある。
「まぁ、試合中じゃないからコーチや先生も監督もあまり注意出来なかったが、シンに話しかける女子の目の輝きようといったら・・・」
試合中は勿論全員が集中している。それほどに見応えのある、迫力のある試合だ。なんていったって、大会などを行うと最終的に決勝戦近くまで残っているのは今回この合宿に参加している学校がメインで残るほどだ。それほど強い学校が集まっているのだから。
「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
散々女子に近寄られたシンはうんざりとしていた。部活で大変なのに休憩時間もなおあれほどまでに元気で話かけてくるのだろう。それとも自分の体力が少ないのだろうかと一瞬疑問が浮かんだ。
オミの心配が的中した事と、ナップザックに詰め込んだキツネを心配しながらシンは呟いた。




