第18話 『ヤクソク』
「つまり!お前が合宿に参加するって事は、この間からされてるように女子たちに囲まれて質問攻めにされて過ごすって事だ!!俺は忠告してるんだ!っつってももう合宿に行くことは決まってるから仕方ないにしても、向こうでの振る舞いとかだなぁ?!」
「みんな真剣に部活やってるんだ。まさか俺に話し掛ける事に思考を割く人なんか居ないって。そんな浮ついた気持ちだったら他の部員から嫌な目で見られるから勝手に気が引き締まるんじゃない?」
「女の子って”あわよくば”があるからな!油断するなよ!?」
「でもそんなの突き放せば良いだろう?なんでそんなことオミが心配するんだ?」
「あのな・・・男子高校生は部活に熱中するが、女子の存在を意識しない訳ないだろ?それに、お前はスズと一緒の学校だ。スズは憧れの的であると同時に妬みも人の三倍だ。そんなスズと仲の良いシンが、女の子からチヤホヤされてたら、いくらスポーツマンといえど他の学校の奴も含めて嫉妬したら何するかわかんないぞっ?!」
「まさかぁー」
キツネが思考の声を隠しもせずに返答した。しかし、キツネは自分と同じように同調してくれるだろうと思っていたシンが何も言わないことを不思議に思い顔を見た。
「・・・そうだな。結局は人は全員違うもんな。確率は低いだろうけど絶対は無いよな。ありがとう」
「わかってくれれば良い。むしろ悪いな、俺の考えを押し付けちまって」
バツが悪そうにオミが目線をシンから逸らして大人しそうに言った。
「・・・ええっ?!何この男の友情的な雰囲気っ?!?!」
夕焼けが出ている。夏至を少し前に過ぎた今は、遅い時間まで空が明るい。
オミと別れたシンが家路を歩いている。側から見れば一人の男子高校生が歩いているだけだが、見える人には見えるのだろう。彼の周りをふよふよと白いキツネが浮かんでいる。
「ねぇ!!さっきの何あれ?!”嫉妬したら何するかわからないぞ!”的なあれ!!」
「そのままの意味だよ。オミは中学の時に部活で他の高校から引き抜きが掛かってたんだ。それを妬んだ奴がオミに怪我をさせてね」
「何それーーー!!!信じられない?!あっ!それでオミはグレてあの性格と金髪になっちゃったって事か!!」
「性格と金髪はもっと前から」
「グレネスト・・・」
「ハハっ。まぁ、だからこそ妬みが起きやすかったんだろうな。オミは器用だから、何でも卒なくこなす・・・風に見せるのが凄く上手くてね。ほら、一生懸命やってるのを格好悪いと思うタイプだから、一生懸命やってるのをひた隠しにするんだよ。周囲は泥に塗れた努力をしているオミをカケラも知らないわけだから、飄々とやってのけるアイツが相当気に食わなくて嫉妬の嵐だったよ」
「何かそれって辛いね」
「でも、オミが自分で努力を見せないって決めたんだ。ただ、それを周りの人間が読み違えたんだよ。キツい物言いだし、ぶっきらぼうだけど、だからこそあまり人と関わらないって言うか、人を傷つける事は避ける人だから。喧嘩だって結局自分の事を理解してるスズとばっかりだろ?」
「・・・理解してるっ?!」
空中で進行しているキツネがホバリングよろしくとばかりにピタッと止まって驚いている。
「俺たち3人は小学校から一緒だ。通ってた園は違っても幼稚園の時から知ってる。オミはあの性格だから遠慮はしない。でも言う人は選ぶ。まぁ、選ばれたのがスズって事だよ。オミのあの何か、”合宿女子に気をつけろ”ってのは本心だし、女子が俺の何を気にかけてるのか知らないけど、もし俺が面倒な思いをすると思ったらなら、その切っ掛けとなったスズに遠慮なく文句を言うわけさ」
「シンは気を遣われてるよね!」
「うーん・・・いや、どうだろう、気の遣い方が俺に合わせてなだけだと思う。スズと喧嘩をしたら、止めに入るのは結局俺だから、その辺は俺に対して遠慮がないと思う。俺がいない日に学校で喧嘩したことないからね、あの二人。そもそもオミがあんなに熱くならなきゃ良いんだけど、まぁそう言う過去があるからさ」
「というか、オミに対して怪我させた方が悪いよ!!その時に既にシンが施錠の力を持ってたら、オミは今、他の学校で活躍してたかも知れないのにね」
「まぁ、どの学校を・・・人生を選ぶかはオミが決めることだし、それに関しては相談された事もないから口出しはしてないよ。でも、きっと今が良いんだよ」
「なんで?」
「喧嘩友達なんて作ろうと思ったって作れないだろ?」
「喧嘩友達ってそもそも必要なの?あっ!シン!コンビニ寄ろうよ!今日新しいお菓子発売ってテレビで言ってた!!」
「どこにも寄らない。最近施錠が続いてるから今日は大人しく家に帰る」
「職務放棄っ?!」
合宿初日
「力を授かったんだからさ!ちゃんと存分に使わないと!それに最近は力が増幅してるらしいから、それを継続すればなんかもっと・・・何かがあるかも知れないじゃん!!」
「まぁ、さっさと施錠してその場を収めれば良いんだろうけど、前にもあっただろ?怒りがそこまでじゃなかった時。施錠できなかった。その後もっと感情が荒ぶれてヒートアップするまで待ってなくちゃいけなかっただろ?人の怒りを見てるだけでも結構疲れるんだよなぁ。どっちが正しいとか間違ってるとかそう言う前にさ、怒鳴り声って聞いてるだけでうんざりだから、できれば遭遇したくないって言うか」
「本末転倒っ!!」
早朝5時。
本日から合宿の手伝いが始まる。
いつもよりかなり早い時間に目覚まし時計をセットしたシン。前日は21時には寝た。朝食は前の晩に適当に自身で用意したものを胃に入れてきた。5時45分に学校に集合して、そこから2台のバスで合宿先へと行く。スズとは途中の待ち合わせはしておらず、学校で会う予定となっている。
「あ〜!もうコンビニやってる!」
「ここのコンビニは24時間営業だからずっとやってるよ」
「ええっ?!そうなの?!山手線の中と周辺のコンビニだけだと思ってた!24時間やってるの!!」
「お前のその知識はどこから入れてくるんだ?」
「じゃぁ!今日発売のホットスナック買えるかもね!!あのホットドックみたいな感じで凸凹の中に伸びるチーズが入った・・・!!」
「はいはい」
キツネの希望でコンビニに寄り、買い物をしてすぐにガラスの自動ドアを出た。両開きのドアのど真ん中に人が立っている。シンは、目の前の自分が見えてないんだろうかと思った。フードを深めに被っている、時間も早いことから人がいるとは思わず前を見ていないのかも知れないと平和な思考をしていた。その時だった。
「シンくん・・・!!」
「みみみみみみーたんっ!!!」
まずキツネが驚いた。シンも心臓が跳ねた感覚がした。まさかこの日、この時間に、この場所でみーたんと会うとは夢にも思っていない。
「・・・っ!!深雪さんっ」
「わぁっ!シンくん驚いてくれた!!よかったぁ!あっ!!」
「驚いてるのは恐怖からだよっ!!!」
キツネがもっともなことを言うが、残念ながらみーたんには聞こえない。
「この間、シンくんが友達といる時に声かけたでしょ?あの一緒にいた長身の男の子!シンくんの学校の【天王子学園】の有名な男子バレーの《鈴 護人》でしょ?!知ってるんだから!!で!あの後に近くにいた女子高生達に話し聞いたら、シンくんも一緒に合宿に行くって言うじゃないっ?!集合時間も聞いて、この時間かなっ!?って思って来たのー!」
「来たのー!じゃないでしょ!!ストーカーだよそれ!!」
みーたんの周りを高速でグルグル飛び回り怒りを露わにしている。
「深雪さん、いくらアイドルのあなたでもこれは容認できません」
「どれの事?」
「待ち伏せは辞めてください。そもそも…」
と、シンは言いかけて辞めた。自分が術を掛けたところを見た為のペナルティーで彼女は自分に執着している事を思い出したからだ。
そもそも、本来彼女とて自分に付き纏いたい訳がない。
「5日。5日したら帰ってくるので連絡します。だからついてきたり待ち伏せは辞めてください」
「シンっ?!」
「本当っ!?嬉しい!!やっと私の思いが通じたのね!!約束だよ!!待ってる!!」
今までにないくらいみーたんは喜んだ。
「あーあ、シン。そんな約束しちゃってぇ…」
狐は耳と尻尾をだらんと下げて言った。




