第17話 『ニシモン』
試験明け
試験最終日の合宿の説明会も終わった。今日の打ち合わせは前回のおさらいが殆どである。最終確認だ。今日も女子達に囲まれながら一旦昇降口まで向かうシンとスズ。そんな時にオミの姿を見かけた。一瞬、空気がピリッと凍りついた。女子生徒はスズとオミがよく喧嘩をしている事を知っているからだ。その空気に気づいたシンが女子生徒たちに声を掛けた。
「大丈夫。顔を合わせただけで喧嘩する事はないから。・・・オミが溜め込んでない限り」
「シン、それフォローになってないと思う」
周りの女子生徒には聞こえないツッコミをキツネがした。
「シンッ!!」
シンに気づいたオミが近寄ってきた。女子生徒はシンから離れてスズの後方へ移動する。複数人なので隠れられるわけではない。しかし気持ちの問題だ。
「今日も説明会だったのかよ・・・!なぁいつから行くんだ?!」
「明後日だよ」
「何日間?!どこの学校だ?!」
「西多摩の学校だから近いよ。まずは3日間だからすぐに帰ってくるよ」
「なんだよ!あの中高一貫のドデカ私立校かよ!まずは3日間ってまさか・・・っ!!」
オミはそう言いスズを見た。
「夏休みの本番の合宿の臨時マネージャーはシンには一言も言ってない。シンが希望するならお願いするが」
「お前っ!!そうやってシンの大事な夏休みをっ・・!」
「シンが希望するならって言った」
「やるかもしれないしやらないかもしれないし、まだわからないからスズの事怒るな。大体、スズは全く悪くないんだ。俺の意志だから。じゃぁ、俺もう帰るから」
そう言って一緒に説明会に出た生徒にも別れを告げて一人西門に向かった。
「シン!今日はどこか寄ってくの?!」
「・・・遠回りだけど正門側の公園に行く」
裏門も正門ほどではないがしっかりとした造りの門である。しかし、西門は本当に仕方なく作られた程度の造り。使っている生徒は少ない。使うのは徒歩で通学する数少ない生徒だ。大半の生徒は電車やバス通学の為、駅やバスターミナルがある正門からの登下校だ。
みーたんが現れるまで使うことのなかった西門からの道は、自然に溢れ鳥の囀りが聞こえる。遠回りにはなるがなかなか良くてシンの最近のお気に入りの場所の一つとなっていた。
「じゃぁ正門から行けばいいじゃん?あっ!みーたん避けね!!」
「あぁ。・・・公園には、甲斐がいる気がして」
「・・・なんで?」
「残念だが、公園じゃねぇんだな」
一本道の緩やかなカーブの先に甲斐が居た。キツネは辛辣な言葉をいつも浴びせられる事を忘れているのか甲斐の登場を喜ぶ。
「一昨日のモールの男。翌日には俺が解除をすると思ったんだろ?だからその解除をする日である昨日は俺とは会えない。それに、そうやって解除をしてることを知った今回、無事解除が出来たのか、また解除した後の男の感情はどうだったのか、また怒り始めてないかとお前が気にすることに俺が気づくと予測。だから今日公園あたりに行けば俺がいるかもしれないと思った。だろ?」
「あぁ」
「よくわかんない、まどろっこしい、携帯の連絡先交換すればいいじゃん!!」
キツネが最もな事を言った。
「おい、バカギツネ」
「相変わらず酷い!!」
「”施錠”と”解除”は相反する力だが元は1つの力だ。同じ力は惹かれ合うとかそう言う事や今は漫画やアニメが多いいがそれはそれ、これはこれだ。本来ならこういった接触だって控えた方がいい。連絡のやり取りもそうだ。磁石のS極同士を無理やり力ずくでくっ付けてみろ。押し合う力を緩めたら飛ぶように反発するだろう?それと変わらない。混ぜるな危険ってヤツだ」
「なるほど・・・!!」
「おい、瀬条」
キツネへの説明を聞いて、シンもそうなのか・・・と施錠と解錠の力の持ち主の接触は少ない方が良いという事実を頭に入れていた。それに関して疑問が浮かぶが甲斐が話しを続けた。
「先日の男は街中で昨日解除した。その後買い物をして家に帰った。マッサージ店に行く様子は無かった。昨日はな。今日はわからないからこれから監視に行く。といっても、今日は夕方6時からピアノの稽古があるからそれまでだがな」
また稽古だ。この女子中学生はもしかしたら社会人同様に忙しいのではないだろうかとキツネが言葉には出さずとも表情から漏れ出ている。
「だったら俺も・・・」
「シンっ!!!」
後ろから呼ばれた。オミだ。なんてタイミングが悪い。
「おいシン!!一緒に帰ろう!!合宿の件で言いたい事がっ・・・?!その子!!!」
ここでシンは思い出した。オミの施錠を甲斐が解いた日だ。オミは女学院の生徒を見てから気分が晴れたと言っていた。甲斐の通う女学院でショートカットの生徒はほとんど見ない。シン自身はほとんどと言うより見たことが無かった。それほど見かけないのか居ないのか。そう、印象に残るのだ。それはまたオミも同様である。
「この間!俺が気分良くなった日に会った子!!!」
「・・・こんにちは」
甲斐が、信じられないほどニッコリ笑って高く可愛らしい声でオミに挨拶したのだ。
「「?!?!?!」」
シンとキツネは驚いた。こんな笑顔を見たことない。こんな声をこの個体から聞いた事がない。こんなお嬢様らしい甲斐を見たことがないからだ。実は甲斐は今の今までバチ当ての霊に乗っ取られていただけなのでは?今は霊が意識を乗っ取るのを辞めて本来の”甲斐 操”にバトンタッチしたのでは?と思うほどだ。シンとキツネは知らない。こんな年相応の若々しくて弾ける爽やかな笑顔の女子中学生の甲斐を。
「シン!!僕今寝てるのかも!!夢見てるのかも!!悪い夢をーー」
キツネの声が聞こえている甲斐は、オミの一瞬の隙を見てキツネを睨んだ。殺しそうな程鋭い目つきだ。
「見てない、大丈夫、現実だった。起きてる」
キツネが震え上がった。
「シンお前よぉ、俺があの子のこと可愛いって言ったのわかっててコソコソ逢ってたのか?!それは宣戦布告と捉えるぞ?」
「馬鹿なこと言うな。オミこそ何言ってんだ。相手は中学生だ」
「でもなんかちゃんと年相応の可愛さがあるけど大人っぽい感じもするだろ?なんでだぁ?見慣れないショートカットだからか?」
「甲斐くんが一周まわったおじさんだからだよ。ある意味正しい」
「ただの好みだろう。俺は関係ないから好きにしてくれ」
「それにしても行くところがあるからって走って行っちまったなぁ・・どこ行くんだろ。やっぱりお嬢様だからこれから習い事なんだろうな」
「変に察しがいいよね!でも習い事の前に犯罪おじさんの監視に行くんだけどねっ!」
「そうなんじゃないか?」
聞こえないのにキツネが入り込みながら進んでいく会話。
もうこの流れにはシンも慣れたものである。と、ここでオミが本来の目的を思い出した。
「そうだシン!なんでスズの合宿の手伝いなんて行くんだ!!お前自分が何したかわかってんのか?!」
「・・・?慈善活動?」
「半ば自殺行為だぞ!」
「「なんで?」」
「・・・お前っ!本ッッ当に自分の事無頓着なんだな?!あのな、スズが部活で有名なのは知ってるだろ?!高校生の中では注目選手だ!取材とかそういうの一切受けてないのに、っつーかそれがまた注目とか人気に拍車をかけてるとか意味わかんねぇ原因らしいけど!そんなスズと一緒にいるシンも校内じゃもう有名人同然なんだよ特に女子にな!!女・子・にっ!!」
「ごめん、ちょっと何言ってるか」
「わからねぇわけねぇだろっ!!本当にわかんねぇのか?!お前、学園内で密かに大人気なんだよ?!」
「シン、密かに大人気って何?僕ちょっと掴めない。みんな騒がないけどシンの事注目してるって事?」
「人気の理由は、スズとオミの喧嘩のストッパーとしてだろ?オミの勘違いは酷いな」
「テメェその天然のモテ男がいかにも言いそうなそのセリフ、次何か言ったらラーメン奢らすからな・・・っ!!」
そう言われたシンは何も喋らずに門から続く道を歩き始めた。
「シン、ドライ過ぎる・・・」
シンを追いかけるオミを見ながらキツネがぼやいた。




