第15話 『ニンキモノ』
「シン!!今日駅前に新しくアイスの店がオープンするんだってよ!行こうぜ?!」
晴天。
学校の定期試験さえ乗り越えれば、大体の学生が待ち遠しい夏休みが始まる。
少しずつ、蝉の鳴き声が聞こえるようになってきた今日この頃。鮮やかな緑色の葉が風に靡き、爽やかそうに感じるがまだ梅雨の面影が残り湿度が高い。
視界から入る情報では夏の始まりを映し出して気分が良くなりそうなのに肌で感じる不快感で何とも頭がバグりそうだとシンは感じていた。
そんな朝一番にオミから話しかけられた。
「あ、悪いオミ。今日これからスズの部活の合宿の説明会に参加するんだ」
「は?」
「僕食べに行きたい!!オミ!!僕を見てっ!!僕が見えればいいのにっ!!!」
キツネがオミのまわりを飛んでいる。アイスに興味があるらしい。
そして、オミはと言うと、シンがスズの合宿の手伝いとして参加する事を初めて知って驚きを隠せないどころか怒り始めた。
「聞いてねぇっ?!!」
「言ってないから。別に何日かの合宿の手伝いで入部した訳じゃないんだ。夏休みだって潰れる訳じゃない。そもそもオミに言わなくたって問題ないだろう。オミもやりたかったのか?」
「そう言うことじゃねぇよ!!」
「オミって本当にシンのこと大好きだよね」
オミが更にシンに詳細を聞こうとしたところ、自身のクラスメイトに呼び出された。今日はオミが日直の為に日誌を取りに行けと言われていた。
登校して朝礼にもまだ時間がある今。スズも部活の朝練が終わったところだろう。まだ教室へは来ていない。シンはクラスメイトと普通に話せるが、周りはシンを一目置いている。同級生だが、同じ年に見えないと言われる。もちろん何かあればみんな遠慮なく話しかける。しかし、無駄話をする気にはなれないらしい。シン自身もクラスメイトに直接そう言われた。しかし、彼らは悪気はなく、敬遠しているわけでもない寧ろシンを尊敬している感じだ。
その理由は、オミとスズの喧嘩の仲裁をすることで周りが勝手にそう思い込んでいるだけだろうとシンは考えていた。別に疎まれている訳ではないのなら良いかと考えており、今もスズが教室へ来るまでは一人で本を読んでいる。
「あれから甲斐くんになかなか会わないね。お話途中なのにさ!あと、『お茶の稽古』ってなんか凄いこう・・・緊張する感じだね!足痺れそうだし!僕基本浮いてるから足に負担を掛ける事が未知だしわからない!」
教室で他の生徒も居るため、シンは返事を返さない。キツネは喋り続ける。
「僕は、操作されてるらしいから言えること言えないことあるらしいけど、自分の考えっていうのはちゃんとあるんだけど、甲斐くんが言ってることはあまりわからないかなぁ〜。だってさ!施錠の力でそもそもの負の感情を作らないようにすれば絶対的に人間にも地球にもいいと思うんだけどなぁ〜?それは僕が神様に作ってもらったからそう思うだけなのかなぁ?」
「・・・その方がいいと言う事実と、陰陽の法則だとかなんだとか他の”理”の話が出てくると面倒だな。そもそもの負の感情を生まれないようにする事が、理的に帳尻を合わせるのが大変なのかもしれない」
本を読みながらもキツネの言葉に耳を傾けたシンは、その言葉について考えた結果を口に出してしまった。
「何それ!帳尻があった上で施錠と解錠の力を作ったんじゃなくて?!二つで一つで陰陽のバランスがちゃんと取れてて、だからこそのぉー・・・え?なんかもう最初からわからないんだけど?!」
「そんなに難しい本を読んでるのか?」
朝練を終えたスズが教室に到着した。
「スズ、おはよう」
「おはよう。何の本だ?まぁ聞いても俺は本は読まないが」
「何となく借りた本だよ。物理学の本だけど好みに合わないから今日返す」
そう言ってシンは本を閉じて手で表紙を隠しながら机の中に仕舞う。
「そうだ、今日だろ?合宿の説明会」
「あぁ、3時半からだ。頼むな」
「こちらこそ」
二人が会話をしている最中に、シンが仕舞う本の表紙を見た。
「《スポーツ医療入門》・・・シン、面倒臭がってたのに変に真面目」
・・・ーーー
「と言うことで、都内ですけどウチと同じ様な山奥の学園に数校が集まって合宿します。1年生以外は経験があるだろうから、今回は主に1年生と、合宿の手伝いをしてくれる臨時マネージャーの方向けに話しをします。でも、上級生もおさらいとしてしてちゃんと聞いて下さい。あ、新しく追加になったルールもあるから」
視聴覚室。普段いる教室とは造りが異なる。音響設備がある部屋のため、床ではなく絨毯。そして壁一面は穴が空いている。日頃なかなか使うことのない部屋にいる事と、学年関係なく集まった生徒達に少し緊張の空気が漂う。
そんな中、説明会は休憩時間を設けながらも1時間以上掛かった。
その間キツネは楽しそうな話題の時だけ起きて、教室前方のスクリーンの前をふよふよとうろついて楽しそうにしてたり、興味のない話題の場合は窓のそばで寝ていたりしていた。
「随分と大掛かりな合宿なんだな」
「合同合宿なんだ。うちの学校だけじゃない上に、他の学校に寝泊まりするんだ。まぁ去年は特に問題なかったけどな」
「そうか、それは何より・・・それにしても・・・」
説明会が終わった直後なのでまだ部屋に多くの生徒が残っている。その生徒達を見てシンは言った。
「・・・臨時マネージャー沢山いるじゃないか」
「多ければ多い方が良い。他の学校の手伝いも山ほどあるからな」
「え?俺他の学校の手伝いするの嫌だよ?人見知りだし」
「人見知り?そんなことないだろう?ただ、男子の臨時マネージャーはシンだけだ。シンはうちの学校だけが担当だから大丈夫だ」
「なんでそんな事決まってんの?助かるけど」
「よその学校に貸し出しするなら女子の方が喜ばれるだろうって顧問が」
「・・・まぁ、男子バレー部だからな。女子が手伝った方が士気が上がるだろうな」
「あのぉー・・・」
数名近寄ってきた女子の内の一人に話しかけられた。
「あの、瀬条くんだよね・・?合宿に臨時マネージャーで参加するの?!」
シンとスズが女子の方を見た。シンに話しかけたからだろうか、スズは女子の顔を見ているだけで話しはしない。シンは、もしこの女子生徒がマネージャーならスズが話しをしてくれるのではないかと期待したが、まだ口を開こうとしないスズにしかたなく自身が答えることにした。それにしても見覚えがない女子だと思った。
「はい、合宿の間だけやります」
瀬条”くん”では、同級生か先輩かわからない。しかし、名前を知っていると言う事は接点の多い同級生なんだろうとは考えた。
「私、E組です。この子は私の幼馴染でB組。こっちはみんなC組なの。普段から中々他のクラスと交流持てないし、学校行事は人数多すぎるし、合宿で接点が持てそうで嬉しい!みんな瀬条くんと話しをしてみたいの!」
「え・・・俺と?」
「そう!瀬条くんが臨時マネージャーで参加してくれるなんて本当にツイてるって皆んな話してたの!宜しくね?」
予想もしてない事を言われてシンは驚いた。何だこの状況はと思いながらスズを見るとスズも驚いている事から、女子の思惑だか希望を聞いて自分を合宿に誘ったわけではないんだろうとシンは思った。
「何っ?!シンがモテモテっ?!こんな面倒くさがりでおやつで僕を釣るちょっとダウナー系っぽいのに?!」
キツネが驚いて女子の周りを回っている。
「ほら、いつも水屋くんと鈴くんの喧嘩止めてて凄いなって・・・ちゃんと説得できてるのが凄いし、私たちもそれ聞いて納得するの!あぁ、瀬条くんって凄いなって。でも中々話す切っ掛けないから」
「シンは部活にも入ってないもんね。ABC組と教室も離れてるZ組だもんね。オミだけY組だけど」
女子とキツネがまるで会話をしているかのように話しが流れる。
「瀬条くん、鈴くん、また明日ね!」
「合宿楽しみ!宜しくね!!」
女子達はそう言って校門で別れた。今の今までシンはスズと一緒に色々と質問をされていた。シンとスズの関係、家はどの辺なのか、得意科目、好きな食べ物、何色が好きか。ほとんど部活に関係の無い話だ。
あまり物事に動じないスズが珍しく驚いていた。
「・・・スズの顔見て、女子に頼まれて俺に声をかけたんじゃないって事はわかってる。けど、そもそもこれはどういった事態だ?」
「どういったも何も女子が自分達で言ってただろう。冷静で同い年に見えないシンと接点を持ちたかったんだって事だ」
シンは少々納得いかなかった。オミとスズの喧嘩や少しの言い合いだって、必ず完全にヒートアップするわけではないが、周囲が危惧してシンを呼ぶ。そして、そんな二人のいざこざと言う問題、厄介事を処理する専門係だと思われている事にも腹が立つが、更にそれを”良い”と思う女子が複数存在していると言う事にだ。
「・・・喧嘩を止める姿が良いんじゃなく、その立ち向かえる精神力が大人として見られてるって事だろ。悪いことは一つも言ってないと思うが」
「僕もそう思う!」
「私も!!」
「・・・ん?」
キツネの天真爛漫な声に続き何か紛れてきた。シンは最初こそ頭の中の情報処が遅れたがハッとした。そして、振り返った所で同じく気づいたキツネが叫んだ。
「みーたん!?!?」
アイドルのみーたんが立っていた。




