第14話 『ナライゴト』
「甲斐くん曰く僕は頭の中身が操作されてるって言うし、甲斐くんに会った時にちょっとずつで良いから聞いてった方がいい気がするんだけどなぁ・・・あれ?じゃぁ僕何の為にまだシンの近くにいるの?あれ?」
言いながらもポテトチップスを一枚、また一枚と食べることを止めずにキツネは話す。
「あの言い方だと記憶の内容の操作じゃないんだ。一時的に忘れさせられているとか、言えない状態にされているわけであって、内容に変更はないはずだ。だから、思い出しさえすればその情報は問題ないものだと思う」
「知ってる事は最初にある程度つらつらーって話したけどなぁ?どこから?バチ当て様からもう一回説明する?」
「バチ当て様の事で言ってない事を」
「・・・何言ったか覚えてないっ!!」
「操作なのか、個体のポテンシャルの問題か・・・」
「シン酷いっ!!」
涙目になりながらもお菓子を食べるのを辞めないキツネ。
「僕もバチ当て様の仕事に関する以外の事はあまり知らないんだけど、まず、神社の家系には時折、すごい力を持った人が生まれるんだって。その中の一つが”バチ当て様”。それでね、最初に言ったけど、バチ当て様って言うのが、世の中の負の感情の交通整理みたいな事してるの!」
「悪行をした後に自分に降りかかった災難を”バチが当たった”っていうヤツだろ?一見無関係な事に思えても」
「そうそう!人の携帯電話をわざと壊して、その後自分の自転車のタイヤがパンクしたら”バチが当たった!”って思う人が割といるんじゃない?」
「まぁ、全部じゃなくてもな」
「本当に因果応報の自然の力でバチが当たる事もあるんだけど、ここ最近では負の感情、悪意のある感情がもうwi-fiか?!って位に飛び交ってる訳!だから、バチ当て様が、飛び回ってる負の感情の落とし所として日々コツコツとバチ当てをしてその世の中に負の感情を謂わば浄化してるって訳!」
「その方法は?」
「パンクに関しては、釘とか画鋲を地面に置くの」
「悪質な悪戯にしか聞こえない」
「でも!それでちゃんと浄化できてるんだよ!もちろんバチ当て様が行わないと本当にただの悪質な悪戯だし!!」
シンはそこまで聞いて、初めて自分もお菓子に手を伸ばした。
「それでね?バチ当て様がそうやって世の中に飛んでふよふよ浮いてる負の感情の交通整理とか浄化とかしないと、人間が出した悪意、負の感情は、地球を脅かすものに変わるんだよ」
「なんで?」
「だって、そんな負の感情しか産まない人間が生きてる惑星なんて不要だもん」
ーーードクンッ・・・ーーー
心臓が嫌な音を立てた。
しれっと何でもない顔してとんでもない事を言ってのけた。
一瞬、やっぱりこのキツネは精霊と呼ばれるもので自分とは相容れないものなのだとシンは思った。自分達が生きていく惑星自体を”不要”だと言った。この地球でしか生きていけないシン達人間からしたらそんな言葉は絶対に出ないからである。
「あぁー?んと?惑星が要らないっていうのは宇宙規模の話の視点ね!!銀河系の視点!!地球視点だと、そんな負の感情ばっかり産む人間を”要らない”って思うよね!温暖化してるのは人間のせいじゃん!!人間以外の生き物はほとんどが惑星とか自然環境に悪影響を与えないんだ!影響あったとて、どこかで相殺出来るレベルだし!!本当、人間だけが地球に悪いことばっかりしてるの!負の感情の溜まった行き先がさ!排気ガス排出とかオゾン層破壊にも繋がってるわけ!結局負の感情の行き先は地球に向かって最終的に人間に返ってくるの!この異常気象!もう夏場は生きていくの大変だよ?!人間住めなくなっちゃうよ!」
「そこはこじつけだろう」
「巡り巡って負の感情が溜まり過ぎるから起きてることだよ!争いは他者への怒りで起こるでしょ?!シンもさっき甲斐くんに言ってたじゃん!感情が昂って争い事が起こる・・それが戦争になってもか?って!戦争ってすごく怖い武器いっぱい使うんでしょ?!変な物質だって出すんだ!地球に良い訳ないから!」
思ったより規模が大きい話しをしてきた。
ところどころに納得出来そうなことを言われるから、シンはキツネの話しに飲まれそうになる。しかし、シンとしてはそこまで大きい話しをしたい訳じゃない。
「俺は、今はそんな銀河系視点の話しはまだいい。バチ当て様って言うのと、施錠と解錠の力の事だけで良い。俺の周りで争いごとが起こらなければ良いんだ。自分の周りを良くすることが、結果もっと広範囲にも繋がるだろう。初手から宇宙のことまでは気が回らない。自分のやってる周りの、身近への行為がそのうち大きく影響して最終的にそこまで知らぬ間にたどり着いてた・・位で良いから」
「もっと狭範囲の話しってことだね・・・じゃぁ!!」
「一旦いい、休憩だ。お菓子食べ切って良いから」
「やったー!このチーズの入ったサクサクの美味しいー!全部頂きます!!」
つまり、”バチ当て様”と言う人間が居て、見えない負の感情を、その辺に彷徨っていう負の感情を、適当にどうにかするのではなく、ちゃんとバチとして悪行を働いた張本人に”当てる”と言う業をやってのけると言う事をシンは理解した。神の業を代わりに行う・・・神業の代行だ。
「(しかし、赤の他人が見えもしないところで働いた悪行をどうやって知り得るのか・・・。それが、バチ当て様の力の一つなのだろうか)」
不明瞭な点が多過ぎる”バチ当て様”。キツネにもっと聞きたい事は山ほどあるが、シン自身も先ほどの説明で宇宙規模の情報を入れられて、今日はもう話したくはない。一旦頭の中を自分なりに整理することにした。
ーーー・・・
「・・・前に言わなかったか?バチ当ての数が足りねぇんだよ。何十年も前から増えているが、情報社会になったこの今、SNSで気に入らないコメントでイラッとしたのですら負の感情としてこの世に生まれてるからな。だから、毎秒生まれてるんだよ」
「ねっ!ねっ!足りてないの!本当でしょ?!」
数日後の学校の帰り道だった。
シンはいつもと違う道で下校していた。スズの部活の合宿に行く為の事前の買い出しである。街へ寄り、ドラッグストアでばったり彼女・・・いや、彼と言うべきなのだろうか、甲斐 操と会った。
店を出て二人と見えない浮いている一匹で歩きながら話す。
梅雨明けが近いのか、晴れの日が多くなってきた。湿度がかなり残り直射日光も当たるとなるととても暑い。太陽光は肌を刺すように暑い。先日衣替えがあり、丈の長い鬱陶しいジャケットを着なくなったシン。隣の甲斐も半袖のセーラー服を着ている。
「それ、生まれてる負の感情が相当な数じゃん。全部捌くなんてまず無理だろう・・・」
「無理だ。そしてな、バチ当ては神に相当好かれてる。神のお気に入りの存在なんだ。だから、そんな神のお気に入りが疲弊して大変そうなのを助けたいと・・・一人・・・いや、人間じゃなくて神だから一神か。とある一神様が要らんことを始めたんだ」
「・・・要らんこと?」
「要らんこと言うなっ!それが手っ取り早いんだよ!確か!!」
シンは疑問を隠さず問い、キツネは神に対して悪口と取れることを言ったと思った甲斐に噛み付いた。
「バチ当ての捌く仕事量が尋常でない!なら助けてあげなければ!どうする?!生まれた負の感情が捌けない!じゃぁ負の感情を生まれさせなければ良いではないか!・・・・・そう。要らない事とは我々の事だ。”施錠の力”と”解錠の力”を作ったんだ」
「別に悪い事じゃないじゃないか」
「・・・お前はそっち派か。まぁ、だから力も受け取ったんだろうな。バチ当ての仕事を減らすために負の感情を生まれなくする。その為に作ったのが”施錠の力”だ。しかし、陰陽の考えで反対の力を作らないと成立しないんだ。だから俺の持つ”解錠の力”が存在する」
「施錠だけ使って、解錠は人に与えなければ良いんじゃ」
「物事は全部陰陽のように、表があれば裏がある。施錠の力を人に与えるなら、解錠の力も人に与えなければ均衡が取れないんだ。そういうものだ」
「そもそも、バチ当て様の人数を増やすことはできないか?その方がいいだろう?」
「不可能だ。バチ当てを一人作るのに神は何十年もかかるんだ。だからこそのジェネリックバチ当てみたいなのが我々だ。バチ当て100人増えたところで捌き切れる程少ない負の感情じゃない。人の感情を抑えておいた方が得策だと考えたんだ」
「いいと思うけど」
「あのなぁ?!人間は自分の感情を押し殺して生きることは辛いんだ!しかもそれを他人が意図的に行う事は更に心にも身体にも障る!!お前はまだわからないだろうが・・・!!!」
ピピピッピピピッピピピッーーー
電子音が鳴った。
「・・・ッチ!!あーめんどくせぇ!!時間だよ!今日はこれからお茶の稽古だ全く怠りぃ!!」
「「・・・行ってらっしゃい」」




