第13話 『メクバセ』
試験期間。シンの学校では、この期間は午前中のみの登校となる。昼食を食べずに下校となる。七月の初旬から二週間ほどかけて行われる。例年、この時期はまだ梅雨明けをしていない。
「試験が近いってだけでなんか教室だけじゃなくて学校の雰囲気重いよね!梅雨でじめじめもあるからもっと余計に空気重いよね!人間もカビちゃいそう!!」
放課後。
試験期間後の身の安全の確保ができた。そして、スズから合宿の参加書類を受け取ったシンは家に帰って親にも承諾をもらう。人の世話なんて全くもってガラではない。しかし、地元を低コストで離れられるいい案件である。乗らない手はない。
そう考えながら昇降口へ着いたら門が騒がしい。試験前の重いと言われてた空気が変わっていた。
「なんかあっちで軽い空気を感じる・・・」
キツネも気づいた。そして、シンもなんとなく違和感に気づいて足速に門へ向かう。すると、門の近くで軽く人だかりができていた。
「もしかして・・!みーたん?!」
「いや、だとしたら静か過ぎる・・・」
近づくと会話が聞こえてきた。
「ねぇ?!だれ待ってんの?!兄弟とか?!」
「いえ、違います。知り合いに用事があって・・・」
「それって男?女?どっち?!」
「・・・男の人です。2年生なんですけど」
「俺らとタメじゃん!えー!どこで?!なんで知り合ったの?!近所とか?!」
「ちょっと、電車で助けてもらったりとか・・・色々・・・」
甲斐 操だ。歳上の男子高校生に囲まれてちょっと怖いとちょっと恥ずかしいを完璧に演じ、女子中学生になりきっている前世成人男性・・・おじさんを経験した甲斐 操が囲まれている。
「甲斐くんだ!!シン!向こうから来てくれたよ!」
「・・・俺、あの人だかりの中からあの人を連れ出して注目浴びたくないんだけど・・・」
「それは・・・仕方ないよ!!男、瀬条 心!やるしかない!」
「断る」
シンは自分の言葉通りにその人だかりを通り過ぎた。一瞬、甲斐と目が合った。しかし、甲斐は特に何も言わないし行動も起こさない。
「あれ、シンが目当てじゃなかったのかな・・・?だとしたらもしかしてスズに用事が?!」
周りに人が多いため、シンはキツネの言葉を無視する。相手は大人の男だ。シンは、きっと自分の意図を理解してくれると思ってその場を通り過ぎた。
「シン!いいの?!甲斐くん置いてきちゃって!絶対スズじゃなくてシンに用事だよ!!」
キツネがシンの周りを飛び回って言うが、シンはそのまま歩き続けた。
・・・ーーー
「流石年長者様。わかってもらえてよかったです」
「目配せしやがってガキが。舐めてんのか?生意気だな。そうやって女も誑かしてんのか。最近のガキは怖いな」
さっき、自分の同級生としおらしく話していた可愛らしい少女はどこに置いてきたのか、目の前で呆れたようにガサツに話す少女・・・の見た目をした人生の先輩にシンは辟易した。
二人が今いる場所は公園だ。この公園は前にみーたんを連れてきて話していた公園だ。そこで、甲斐を含む女子中学生たちに一度見つかった場所である。しかし、普段は人通りが多くない通りに面している公園だ。
あの場で声をかけたくないが、学校に甲斐が来た事を認識していると言う意味でシンは先ほど門を通りすがる時に目配せをした。ちゃんとわかっていると。しかし、声を掛けないで通り過ぎた。ここで声を掛けるつもりはないという意思表示だった。
「・・・だから、わかってもらえてよかったですって。ありがとうございます。俺、ああいう人だかりの中かから貴方を連れ出すような目立つことしたくないので」
「俺が気づくってわかっててやったんだろ。全く末恐ろしいガキだな。おい、瀬条。今日はとりあえず忠告をしにきた」
「忠告?」
突然雰囲気が変わった。そこでシンは一瞬頭をよぎったことがあった。そうだ。この甲斐 操は自分とは反対の力を持っている。つまり、敵対している関係なのではないかと。特殊な力を持つもの同士・・そして、本来は女子中学生ではないという事で少し親近感が湧き、仲良くなれるのではないかと考えていた時もあったが、以前キツネに言われた事を思い出した。
【まぁ、狙われることもあるだろうからね、施錠の力は!
さっきも言った、解錠の力の持ち主に!!】
学校から帰る時に、木が落ちてきたことがあった。その時にキツネに言われた事だった。今すぐ甲斐が自分に何か危害を加える事はないだろうと思っていたが、少しだけ身構える。
「”施錠をし過ぎるな”・・・お前が施錠の力を使って人の心を制御するのは、俺は本来は反対意見だ。だから、施錠された人間を見つけ次第、解錠していく。勿論他の解錠の力の持ち主も同じだ。
あと、そこの変なヤツ。そいつから力を授かったのか?そういう可愛らしい見た目の助手ポジションを信用するな。大体裏切り者だろうが」
「酷いーーー!!」
「・・・怒らない方が良いと思いませんか?怒るのって、自分の心にも体にも、他の人にも良くないじゃないですか」
「そりゃ世の中をまだ知らない子供の純粋の希望だ。実際そんな綺麗事だけでやっていければいいが、それじゃ世の中は回らないんだよ。だから、お前が施錠するのは勝手だが、俺は解錠していく。悪く思うなよ、お前にとっても俺にとっても世界にとってもその方がいいに決まってる」
「いやいや、それは貴方の考えでしょう?この間のアイドルのイベントの事件知ってますか?」
「あの”みーたん”の件だろ?」
「もしあの犯人の施錠を解錠して、今もみーたんに対する気持ちが全く変わっていなかったとしたら、またみーたんは危険な目に遭います。みーたんだけじゃない、腹いせに無関係な人だって巻き込む可能性があるんですよ?それでもあなたはそういった人の施錠も解錠するんですか?」
「そうだ」
「どうしてですか?この件に限らず、例えば・・・それが問題で大事件や大事故、巡りに巡って争い・・・戦争になるかも知れなくても?」
「そうだ」
公園で二人で話している。シンは立ったまま。甲斐はブランコの周りの柵に腰をかけて足を組んでいる。側から見たら少し変な光景だ。
「なんで、施錠しなければその後悲劇が起こるってわかってて、解錠するんだよっ」
あまり感情が昂らないシンが、少し怒りを表しながら甲斐に言う。キツネは、シンと甲斐の間を飛んでいたが、少しばかりシンに寄り、心配そうな顔をした。
「それが、自然現象だからだ。逆らってはいけない。
本来、施錠も解錠も存在してはいけない力だからだ」
その言葉にシンは納得がいかなかった。
・・・ーーー
「甲斐くん、今日はピアノのお稽古だってね・・!!忙しいんだね!お嬢様って!・・・お嬢様の甲斐くん・・???」
もうすぐ家に着くシンにキツネが気を遣って話しかけた。しかし、シンの機嫌は良くならない。仏頂面だ。
玄関を開けて家に入るが、家族は全員外出中らしい。靴が無かった。
「・・・お母さん、お買い物の時間かな・・・」
シンは返事を返さず、言葉を拾わないので、ずっと独り言を言っている状態に少し寂しさを感じたキツネ。周りに人がいる時は無視される理由はわかるが、今は誰もいない。喋れないんじゃなくて、シンの意志で喋らないのだ。虚しさが増す。
シンはスズからもらった合宿の参加書類を食卓テーブルへ置くと、冷蔵庫から飲み物と棚からお菓子を三袋も持って自室に向かった。
バリッーーー
ガザッーーー
ビリビリッーーー
「わーーー!!シン!!いっぺんにこんなに開けちゃって良いの?!美味しそうー!!」
先ほどまでの重い空気は何処へやら、お菓子を見たキツネは気分が上がって今にも食べたそうに開かれた袋近くで涎を垂らしそうになりながらもお菓子を見つめている。
「食べて良い」
「いっただっきまぁーーーすっ!!」
甘いお菓子にしょっぱいお菓子。キツネは物を食べなくても問題なく生きていけるが食べることが好きな模様。口の周りに食べかすを沢山つけて、目を輝かせながら食べている。
「めっちゃ美味しいっ!シンも早く食べっ・・・」
そう言ってシンの顔を見たキツネはしまったと思った。
「食べたな?今覚えてることだけで良いから洗いざらい話せ。全部だ」
冷酷さが顔に出ている。
「えええええーーー!!ずるいよそんなのーーー!!!」




