第12話 『ゼンセ』
「改めまして、甲斐 操と申します。一姫女学院中等部の3年生です」
「俺は瀬条 心 17歳。天王子学園の高校2年だ」
「しかも初対面っ?!なに?!シンくんのストーカー?!」
「ソレはみーたんのほうでしょうが!!」
キツネのツッコミにシンも、聞こえているであろう女子中学生も華麗に無視をする。もちろん、下手に返事をしてみーたんに不信がられない為だ。特にシンに関しては今、女子中学生の甲斐 操が言った通り、説明が不足している事が多い。シンは、この状況でキツネの質問に答えて不審や疑問を持たれる事をもうしたくないのである。
「ストーカーじゃありません。ただの近くの学校で顔見知りなだけです。私、彼氏いるので」
「・・・この人の事狙ったりしてない?本当に?!」
「はい、好みじゃありません」
「本当?じゃぁ良かったぁー!!」
彼氏がいるとわかると今までの険しい顔が一転。流石はアイドル。
「悪いけど、ちょっとこの後この人と話しがあるから。気をつけて帰ってください」
「じゃぁ今日は一旦帰るけど・・・また連絡しますからね?シンくん?」
通常の男性ならノックアウトするだろう晴れやかな笑顔だ。ファンなら失神ものだ。しかし、シンからすると全然嬉しくない。むしろゾッとした。シンとみーたんは顔見知りなだけである。付き合ってなどいない。みーたんの認識と距離感がおかしい。
良かったといいながらも若干疑いをまだ持っている目を向けながらもみーたんは今日は大人しくタクシーを捕まえて帰って行った。
「あれは純粋にお前に惚れてるだけじゃないな。術をかけるところを見られて自動で記憶消去された副作用だ。記憶を消去された辻褄合わせなどで生じる対象への”執着心”だ。またアイドルなんて面倒な奴に見られたもんだな」
「な?!・・・お嬢様学校に通ってるのに中身はとんだヤンキー娘だな」
いきなり甲斐 操の喋り方が変わった。お嬢様とはかけ離れた喋り方だ。
「いいかガキ、よく聞け」
「ガキって・・・君よりは年上だ」
「こっちは先に人生一周してんだ。大先輩だぞ」
「は?」
シンは自分の耳を疑った。
「そんなこともまだ聞いてないのか」
「ぼくがシンに聞かれたのにド忘れしちゃっただけだから!」
「ポンコツだな。お前も良いように遣われてる”裏切り者の自覚もない”可哀想なやつだ」
「ぼくはシンを裏切らないよ!」
「お前の意志は関係ないんだよ」
「なんか喋り方も違うし全然可愛くない!!」
「そりゃそうだ。さっきも言ったがこっちは先に人生一周してんだよ。いいか、もう大体わかってると思うが、俺は解錠の力の持ち主だ。で、そこのキツネが知ってても言えない状態にされてるっぽいから俺から説明してやる。解錠の力の持ち主っていうのはな、高確率で・・・前世が【バチ当て】なんだよ。勿論俺もバチ当てだ。更に言うと前世は・・・
・・・男だ」
シンの目の前に現れた女子中学生はとんでもない素性の持ち主だった。
・・・ーーー
ーー翌朝ーー
「なんか、知ってたはずなのに改めて言われてハッと思い出す気持ち悪い感じ・・・シン、ごめん」
「・・・いいよ、お前は悪くないって甲斐も言ってたし」
朝、シンは制服に着替えている。丈の長いジャケットは玄関にハンガーで吊るしてある。ワイシャツとネクタイを締めて鏡は見ないが丁寧に髪の毛も櫛でといた。
「それにしても、前世はバチ当て様で、今世が解錠の力も持ち主って・・・しかも記憶持ちで今は女なのに前世は男と来た!幼稚園とかどんな気持ちで通ってたのかな?」
「今度時間があれば聞いてみれば良い」
「シンだってちょっとは気になるでしょ?!大体、大人を経験したのに今また学生やってて、自分の意思ではどうにもできない事があって!!門限だからって途中で帰らなくちゃいけないとか言い出した時は本当にびっくりした!!ああいう人って夜中も結構自由に出歩いてるんだと思ってた!」
「ハハッ・・それは思った」
「あぁ!!シン笑った!」
なかなか見ないシンの笑顔を見たキツネが嬉しそうに飛び回った。
「さぁ、ご飯食べて学校行くぞ」
鞄を掴んでシンが自室の扉に向かった。
「シン!!携帯忘れてる・・・てか鳴ってる!!てか、この番号みーたん!!」
「無視しとけ」
「冷たい!でも賛成!!」
「おい、シン。お前みーたんとどういう関係なんだよ」
朝からシンの教室にオミがいた。そうだろう。昨日、シンはオミを置いて帰ったのだから。そして、アプリなどで連絡が来ていたが全て無視をしている。
「おはよう、オミ。昨日は置いて帰って悪かったね。はい、お詫び」
「おわっ!これ!新発売の激辛シリーズっ!!お前やっぱり俺のことわかって・・・るな。これで誤魔化されるところだった、危ねぇ。おい!シン!」
シンから手渡されたお菓子に見入って嬉しそうにしていたオミが、餌付けされたことに気付いて話題を戻そうとしたがそこには既にシンは居なかった。
「あの・・・瀬条くんなら・・・今日日直なので教員室に行きました」
近くの女子生徒が恐る恐るオミに教えてあげた。
「・・・そーかよっ」
「っヒィっ!!」
「そんなにびびんなって?!」
「ごめんなさい!!」
「・・・オミってなんか損な人」
教員室にはついていかなかったキツネがオミの挙動を見守っていた。
・・・ーーー
シンは昨日あった少女・・・甲斐 操の事を考えていた。少女と言っても、本人が言っていることが本当なら、彼女は自分とは反対の種類の力、”解錠の力”の持ち主であり、前世は”バチ当て様”、そんでもって人生一周している男性の先輩である。十分な情報過多だ。
「キャラ設定濃過ぎだろ・・・」
教員室に置いてある、日直が自分で取りに行く日誌を持ち教室へまた戻る。
また急に降り出した雨の音が、窓を越えて廊下まで響き渡る。雨脚が強く音も大きい。
「シン、おはよう」
だからこそ、シンは近づいてきたスズに気づかなかった。
「・・・スズっ!おはよう。教員室?珍しいな」
「試験期間が終わったら部活の合宿があるからその書類を提出しに・・・そうか、シンは日直だったか」
「そう。合宿・・・毎年同じ所でやるんだっけ?」
「あぁ、中等部も高等部も一緒にな。それで、毎日ひたすら他の学校と試合するんだ」
「暑いってのに殊勝だね」
「マネージャー足り」
「スズの頼みでも聞けないよ、俺は部活の手伝いなんて立派なこと出来やしな・・・」
シンはそこまで考えて一つ思いついた。
「・・・手伝いって、俺そういうの多分向いてないと思う」
「?あぁ、そうだろうな。でも簡単な事で良いんだ」
「気遣いとかできないから、痒いところにも手が届かない」
「そうか、無理強いはしないから大丈夫だ」
「それでも、それでも人手が欲しいなら」
「・・・?」
「俺、手伝いに行くよ」
・・・ーーー
「スズの合宿の手伝いに行く〜〜?!!?シンが?!お手伝い?!そういうキャラじゃないでしょ?!どゆことっ?!」
中休みに人の少ない自販機の前まで来たシンとキツネ。
そこで、朝スズから頼まれた部活の手伝いを引き受けたことをキツネに報告した。
「でも、いいみーたん避けになると思わないか?」
「みーたん・・・?ッハ?!そう言うこと?!この街にいなければみーたんに見つからないって事?!」
「そう言うこと。まだ半月以上あるけどな」
「アイドルにも容赦ないよね」
「別に本心で好かれてるわけじゃないからな。甲斐も言ってたけど、術を見たものが自動で記憶を消される代償なんだろ?だったらなんだっていい・・・それより」
「どしたの?」
「男に術を使うところを見られても同じように執着されるのか?」
「べったりになるのは変わらないと思う!執着っていうか、依存だね!だから気をつけようね!」
「・・・」
「だから!忘れてたんだってばごめんって!!」




