第11話 『ヤンキー』
男はそれ以上は騒がずに、店を今後出入り禁止となるだけで事が済んだ。人には暴力も振るっていない。一応備品も壊れてはいない。誰も怪我をしていない。一応、丸く、穏便に収まったのだ。気持ちが治まってないのはキツネだ。
「シン、このまま帰っちゃダメだよ!オミにちゃんと聞き込みしないとっ!!」
シンはあれからオミとゲームセンターで遊びながら、話しかけて解錠されたであろうヒントを探そうとしたのだが全然得られない。時間も夕方で暗くなってきた。流石に帰らないといけない。
「あの男の人、急に怒りが収まったみたいで良かったな!あのままだったらもう警察呼ばれてたぜ」
「そうだな。なぁ、オミ、今朝のその女子中学生って・・・」
そんな時、向かいから歩いてきた3人組の高校生がオミにぶつかった。相手の体格はよく、控えめに言っても強面だ。
「・・・山の金持ち学校の制服じゃねぇか。あの品の良い学校にこんな金髪ヤンキーがいるんだな。いきがってんじゃねぇぞ」
「・・・あぁ?」
オミはぶつかったくらいならそこまで怒らないが、運悪くとでも言うのか相手が文句言ってきた。シンは、意気消沈した。またここでも騒ぎが起こるのかもしれないと感じたからだ。
「オミ、行こう」
面倒ごとを避けたいシンはオミの腕を取った。オミも、シンが言うならと怒りを鎮めて帰路へつこうとした。しかし
「おいおい、俺が喋ってんのにまさか大人しそうなそっちのお友達が無視してくるとはなぁ・・・なぁっ?!」
シンがとった行動がまさかの相手の琴線に触れたらしい。激怒だ。
「えぇぇええぇぇ?!シンが悪いの?!嘘でしょ?!」
キツネが相手の高校生が激怒をしている頭の上で激怒し返している。聞こえないのにだ。相手の高校生は距離を詰めてくる。非常に面倒だ。施錠するにもオミもそばにいる。この距離なら確実に聞こえてしまうだろう。さて、どうするか・・そう考えた時だった。
「ねぇ!!この人に乱暴するのは辞めてっ!!」
「あぁ?なんだテメェ?コイツの女・・・みーたん?!?!」
割り込んできたのは走ってきたみーたんだった。
「シンくんやっと見つけた!!学校の門で待ってたのに出てこないんだもん!門が他にもあるってわかったのさっきなんだよ?!でもそのままお家に帰ってなくて良かったぁ!なんとなくこの辺にいる気がしたの!」
そう言ってみーたんはシンがオミを掴んでいる腕を更に掴んだ。
「なっ!お前みーたんの知り合いかっ?!」
「ヤベェめっちゃカワイイ!!」
「・・本物のみーたん・・・」
流石は人気の現役アイドル。イチャモンをつけてきた強面の男子高校生でさえ知っておりこの通りだ。場の雰囲気が一瞬にして変わってしまった。
「”なんとなくこの辺にいる気がしたの!”って勘が良いにも程があるでしょ?!記憶消された事にそんな副作用あったっけ・・?あったような、なかったような・・・?」
シンは自分の近くでボソボソと大事そうなことをつぶやくキツネを睨んだ。
「だっていっぱいあるんだもん!ごめんて!!」
キツネだけでも騒がしいのに、目の前の高校生たちはもっと騒がしい。
「別に、俺たち喧嘩してたわけじゃないんです、ちょっと、ちょっと肩がぶつかったから話し合いしてただけで!」
「そっす!乱暴とかしてないっす!指一本触れてないっすから!」
「そんなヤンチャしないですって!」
揃いも揃って同じような事を言う男子高校生。しかし、みーたんはそんな事お構いなしで3人を上目遣いで睨みつける。
「ヤッベぇ!!カワイイ!!」
「バカカワイイ!!」
「そいつと友達なんすか?!俺らとも友達になってください!!」
そして、あまりの騒がしさに周囲も気付き始めた。
「あれ、みーたんじゃない?」
「嘘でしょ?療養中だしこんな田舎に?」
「そっくりさんとかファンじゃないの?」
「あれ?でも似てるってレベルじゃないかも・・・」
街中のざわつきが変わった。ただの揉め事を見てるざわつきから、”芸能人がいる”というふわふわと気持ちがうわついたソレに変わったのだ。
「おい!!シン!!お前みーたんといつの間にそんなに親しくなったんだよ・・?!あの事件以来かっ?!」
オミの大きい声に周囲が反応した。
「え?!じゃぁあのみーたんが腕掴んでる子がこの間の騒動で助けた人っ?!」
「向かってくる犯人を素手一本で倒したって言う?!」
「若くて細いのにすごいー!!」
噂には尾ヒレがつくものだが、尾ヒレどころではない。周囲も遠巻きだが丸く取り囲むように人だかりができてしまった。そして、携帯電話を取り出し始める人も出てきた。動画や写真を撮るつもりだ。シンはいち早く気づ気、逆にみーたんの腕を取った。
「おいっ!シン!!」
「オミ!悪い!またなっ!」
「オミ、バイバーイ!!」
キツネは手を振り、シンはオミすら置き去りにして走り出した。
・・・ーーー
「だからっ・・・!!シンくんっ・・・!!!足っ・・速過ぎなんだって・・・!!!」
「・・・だからゆっくり走ったでしょう?」
「これでっ?!?!」
「シンの足の速さ異常だよね・・・」
今回こそはシンの制服にかろうじて掴まることができたキツネ。しかし振り回されながらだった為に目を回している。そして、みーたんは息が切れている。可愛い顔も流石に全力疾走の前では台無しだ。
「ここまで来ればもう人もいない。タクシーにでも乗って帰ってください」
シンが冷たくみーたんに言った。
「えっ?!ここまで来て?!待ってなんで?!シンくん一緒に居ようよ?!」
「一緒にいる理由がないです」
「私の心の療養だって!」
「それは人と接しない時間を長く作った方がいいですよ。S N Sも見ないで人にも会わないで運動してリフレッシュすることをお勧めします」
「シンくんも一緒じゃなくちゃヤダっ!!」
みーたんがシンから離された腕を自ら掴みに行ったその時だった。
「・・・執着のされ方が異常ですね」
周囲には誰もいなかったはずなのに、少し離れた所・・・梅雨時期に久々にみた夕日の逆光で顔ははっきり見えないが誰かがいた。そして、ゆっくりとシンとみーたんの方へと歩いてくる。しかし、大人ではない。
「誰っ?!もう邪魔しないでっ?!」
「・・・君は」
威嚇するみーたんとは対照的に、シンはみーたんを気にせずその人物に少し寄っていく。
「ああーー!!」
キツネがその人物の顔を見て驚いた。例の女子中学生だった。
シンと女子中学生の間に不思議な空気が流れる。
シンは今しがた女子中学生が言った『執着のされ方が異常ですね』の言葉を考えた。確かに周囲から見ても、みーたんがただただシンにすがっているように見える。しかし、なんでこれほどまでに執着するのかを知っているようにも感じた。知っていてなお、執着の度合いがすごいなと感心している気がしたのだ。
そんな二人の普通じゃない空気感を察したみーたんは気分が良くない。
イベントの時に自分を助けてくれた男の子と認識している。そして自分が唯一今現在心を許せる存在と思っているみーたんからしたらライバルが登場したと思うほどのピンチである。
「うっかり人を救うからこう言う面倒な事になるんです。説明不足にも程がありますよ」
女子中学生は続けて話した。
「やっぱりわかってる!!この子!”解錠の力”の持ち主だよ!解除できるから僕のこと見えてる!!現れてから三回も目が合ったもん!!てか説明不足って僕のこと?!絶対わかってるじゃん!!」
キツネは確信してシンに伝える。しかしみーたんにはキツネの声が聞こえない。みーたんは自分に言われたと思って言い返した。
「うっかりって何よ!シンくんが助けてくれなかったら私は刺されてたんだから!私が刺されても良いって言う事?!」
「私ともっとお話ししたくないですか?」
にっこりと女子中学生が笑って言った。キツネの事も見えているし、キツネが事いろんなことに関して説明不足なのも何故かわかっている。彼女は確実に何か”力”を持っている存在だと言うことに間違いない。これは話したいに決まっているシンはそのまま女子中学生の方に更に歩みを進めようとした。
「ねぇ!!貴方!シンくんのなんなの?!シンくんもこの子何っ?!」
みーたんが怒ってシンの腕を更に強く掴み、ライバルと認識した女子中学生へと近づけないようにした。




