第10話 『ゲーセン』
コンビニ店員に怒鳴っていた男性の真隣にいきなり割り込むように入り、買い物カゴを台に置いた事に、見ていた周囲の人も驚きと疑問で注視している。
「まだ時間が掛かりそうですよ。でしたら、その払込伝票を持って他のコンビニに行けばいいんじゃないですか?お忙しいんですよね?その方が早いんじゃないですか?」
「シンッ?!?!?!」
シンの予期せぬ行動にキツネは驚いた。
女性の店員には食ってかかってたものの、ただの男子高校生が勢いよく言っただけなのに言い返してこない。人を選んで文句を言う人間なのだろう。
「ッチ!!!」
舌打ちだけして払込伝票を掴みそのまま店から出ていった。
「あ・・・ありがとうございますっ・・!!」
安心したのか涙目になりながら女性店員がシンにお礼を言った。女子大学生はそのままシンの買い物かごを受け取ってバーコードスキャンをし始めた。
「358円のお返しです・・・あの!本当にありがとうございましたっ!!あの、私、お礼をっ・・・!」
会計が終わって改めてお礼を言われて、シンも言葉を返す。
「こんな朝早くからお疲れ様です。コンビニって覚えること多いんですよね。俺はやったことないですけど、友達がすごく大変だって言ってたので」
「・・・!はいっ!そうなんですっ!それで、あの貴方はっ」
まだ泣きそうだったのと何か面倒な事になりそうな気がしたので、シンは『では』と一言掛けて店を出た。先に店を出たキツネがその辺を飛んでいる。
「シン!!びっくりしたよ!!さっきの男の人はもうどっか行っちゃったから待ち伏せとかされてないよ?!いきなりあんな事して次はシンが目標にされちゃったらどうするの!!その制服目立つんだし!」
「お前・・・心配してくれたのか?」
「す・る・で・しょー!!ぼくは他の人から見えないんだからそれを存分に使わない手がありますかっ?!」
「優しいんだか抜けてるんだか・・・あぁ、優しいけど抜けてるのか」
「どうして悪口っ?!」
周囲に人がいないことを良いことに喋りながら学校へと向かい始めようと歩き出したその時だった。
「いたっ!!ッハァ!!ッハァーーー!!」
少し遠くから軽快な足音が聞こえてきたと思ったらシンの方へと向かってくる。ただの早朝ランニングではなさそうな雰囲気にシンは嫌な気配を感じた。
「走るぞっ」
「ぅうううえっ?!シン?!」
コンビニの袋を手で握りしめてシンが突然全速力で走り出した。
「あっ!ちょっと待って!!!なんでわかったの?!」
後ろから走ってくる・・・女性。そう、みーたんだ。
「ゲェーーー!!みーたんだよ?!こんな朝早くに?!」
「コンビニでもたもたしなかったら会わなかったのに・・・!!」
シンが全速力で走る。キツネは飛びながらついていく。みーたんも足は速いらしいがシンの全速力には届かない。そのままみーたんを振り切って学校まで走り切った。
「っシン・・・足・・・速いんだね・・・」
疲れたキツネがシンの肩に項垂れたまま喋る。そして学校の門を通った。
「そもそもシンの肩にいればこんなに大変な思いしないで済んだのに・・・次からはシンに掴まろう・・・」
周囲には生徒がいるため、シンはキツネの話を無視している。
「よう!シン!おはよう!」
後ろからオミの声が聞こえた。シンは振り返って挨拶を返そうとした。が、ここ最近見慣れたオミとは違うことに驚き一瞬息をのんだ。言葉が出てこない。
「・・・っ?!」
「あれ?!南京錠が無くなってる?!?!」
オミの体の前後に見えていた、シンが術をかけた者に現れる施錠の証である”南京錠”が見えなくなっていたのだった。
・・・ーーー
「なんか朝、学校来る途中で気が楽になってな!まぁ、元々そんな具合が悪かったわけじゃねぇんだけどさ。なんかこう、なんかイマイチ気が乗らなかったってのが無くなった感じ?まぁ、より元気になったってわけだ!と言うことで、今日放課後出かけねぇか?」
「・・・あぁ、良いけど・・・」
「良くないでしょ?!なんで南京錠見えなくなっちゃったの?!なんで?!え?!開錠?!解錠?!どっちも意味変わらない!!でも誰が?!何時?!」
中休み。オミだけが別のクラスなのだが、今はシンとスズの教室にきている。クラスメイトはちょっと冷ややかな目線を向けている。オミとスズが一緒にいるのだ。何時喧嘩が始まるか分かったもんじゃないからだ。そして、そのオミの周りをキツネがぐるぐると飛び回っている。
オミの体の前後に見えるはずの南京錠が消えた。通常、施錠したら消えることはない、そのままである。そう、”解除”つまり”解錠”されない限りだ。
つまり、オミは”解錠の力の持ち主によって”先日シンが制御した感情を”解除”されたのだ。
「・・・気分が良いのは良いことだ。なんかいつもと違うことがあったんじゃないか?」
「そんな簡単な話しじゃないでしょっ?!気分るんるんで施錠が解錠されちゃ困るんですよっ?!もしこの間の放課後の疑いがもう一回かけられたらまた怒っちゃうでしょ?!」
「なんだろうなー、強いて言えば、近所のお嬢様学校の女子中学生を見れた事くらいか?珍しくショートカットの女の子が居てな?!めっちゃ可愛かったんだよ」
近所のお嬢様学校の女子中学生。そしてショートカット。シンには覚えがある。ここ最近二回程見た。
一回目は電車の騒動の時。二回目はみーたんがやってきた時だ。
「あ!その女子中学生ってぼくと目が合った子だよ!!ショートカットの!!・・・そうだよ、目が合った・・?」
シンはキツネを見た。
キツネも何か思いついた。
キツネの姿は力を持っている人間にしか見えない。もしかしたら彼女は・・・そう思った先の言葉はキツネがシン以外は誰にも聞こえない事を良い事に大きい声で叫んだ。
「あの女子中学生が解錠の力の持ち主ってコトーーーーー?!?!」
・・・ーーー
「いや、それはない。だってぼく何も感じなかっ・・・いや別にシンに対しても何も感じないけど・・・いやでも・・・?」
後ろでくるくるふわふわと回り、悩みながらついてくるキツネ。そんなキツネを少し気にしながらもシンはオミと街を歩く。ちなみに今日は遊びに行く事とみーたん避けもあり、裏門から街を抜けて駅近辺へ遊びに行く。
シンは今日オミに誘われたことを良いことに、なぜ解錠されたのか、他にも変わったことがなかったか、またオミの周囲で危ないことはないかを確認しようとしていた。
キツネの憶測と自分の勘が同じだったことになぜか少し腹が立ったシン。
「(しかし、本当にあの女子中学生が関係あるのだろうか?確かに周りの中学生とは少し雰囲気が違った。しかしそれだけで決めつけるのは早すぎるだろう。目が合ったのだってキツネがそう思い込んだだけかもしれないし)」
「おっ!ゲーセンの景品新しいの出てんじゃん!シンっ!入ろうぜ!」
「オミ・・・この間5,000円使っても一個も取れなかったのにまだやるの?」
「今日は取れるかもしれねぇだろっ?!」
ゲームセンターというと、昭和や平成初期では学校帰りのヤンキーが集まっているイメージだった。格闘ゲームなんかは学生服を着たヤンチャたちが集まっている・・・という少しばかりイメージがしばらくついている人もいるという。しかし、今は明るく小綺麗で誰もが入りやすい・・・一人で入るのは気が引ける方もいるかも知れないが、まぁ昔よりは良い雰囲気である。
とは言え人間とはなぜ同じような事を繰り返す生き物なのだろうか。そして、ここは遊び場なのになぜ罵声が聞こえるのか。しばらく物色してどのゲームをやろうかどうかと放課後を楽しんでいたシンとオミの視界に入ってきたのはあまり遭遇したくない場面だった。
「全っ然取れねぇじゃねぇか?!いくら何でもこのアーム弱すぎるだろうよ?!どんだけ金使ったと思ってんだよ?!本当に力の強さこれであってんのか?!」
「お客さまっ!こちらは単純に掴んで持ち上げるものではなくてですね・・」
「わぁってるよ!!引っ掛けても押しても何しても取れねぇっつーんだよ!!流石にやり過ぎだろうよ?!」
その光景を少し離れたところからシンとオミが見ている。
「あれ、先々週俺がやったやつ・・・わかる、マッジで取れねぇのっ!!」
「肩入れすんなって、早々に見切りをつければ良かったんだから」
「お前冷めてるよな、あんなの絶対欲しいだろう?!」
「要らない」
赤の他人の事だ。放っておけばよいと思っていたシンだが、そうもいかなくなってきた。文句を言ってた男性が、次第にヒートアップしてきてクレーンゲームの窓を叩き始めたのである。
他の店員も向かってきたり、店内の雰囲気が悪くなり始めた。軽快な店内のBGMがその場の空気にそぐわなくてとてつもなく間抜けに聞こえる。
「でもあの女子中学生なんか目つき鋭かっ・・・あれ?シン?なんかあの人めっちゃ怒ってない?!」
朝からずっと女子中学生の事を考えていたキツネがようやく目の前の事態に気づいた。
「あぁ。今施錠しようか悩んでるところ」
「え、する一択でしょ?もうあの人捕まっちゃうよ?」
「・・・じゃぁ、するか」
そう言って、オミにトイレに行くと言い、その最中で人目に触れない場所から施錠をする。
「《表印》」
もう、輪郭だけ見えて手印しか見えない透けている自分の手のひらにも、両目に映し出される瞳印にも慣れてきた。二つの印を重ね合わせて、対象を収める。
「《強制制御》」
【ガシャン!!】
煌々と明るいはずのゲームセンターの店内が真っ暗になり、天井を無視して蒼白い雷が落ちた。
今日も今日とて、重苦しい施錠の音をシンは聞いた。




