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9.得意なものと苦手なもの

 お父様が得意とするのは魔法道具作り。

 特にスクロール作りなら隣に出るものはいない。



 スクロールは魔法が苦手な者や貴族、それから冒険者が魔力切れに備えて買っておくのである。


 発動の早さが重要視されるのだが、お父様の作るスクロールは魔法の発動が早い。


 また通常のスクロールは専用の紙に魔法発動に必要な言葉を書き記し、最後に発動に必要となる魔力の倍以上を込めることで完成する。発動する魔法が強ければ強いほど、スクロールは大きくなっていく。


 一見すると便利なアイテムに思えるが、保管が面倒くさい。

 少しでも文字がかすれたり、紙が破けたら使えなくなってしまうのである。


 だがお父様の作るスクロールは、錬金術で作っているので文字がかすれたり、紙が破けるということがない。


 文字の部分が折れても発動出来るので、巻いておく必要もない。

 四つ折りにしてポケットに入れても大丈夫。非常にコンパクトなのである。


 代わりにお値段がそれなりどころではないのだが……。


 スクロール作りを専門としている人に考慮した結果、貴族やハイランクの冒険者くらいしか手が伸びない価格となっていった。


 それでも学園入学のタイミングや大規模の夜会が開催される時なんかによく売れる。


 基本的に注文されてから作るので、その時期が近づくと我が家は一気に忙しくなる。

 この八年で最もビリーに負担がかかった時期とも言える。今度の入学前には私も材料採取を手伝うつもりだ。



 そんなお父様は私以上に得意なものと苦手なものがぱっくりと分かれる。


 なんでも作れることには作れるのだが、機能が下がったり、予期せぬ異変が起こったり。

 ビリーが幼い頃におもちゃとして作ったボールは、爆弾として大人気のアイテムとなった。


 中途半端なものを渡したくないお父様としては不服らしいが。



「うーん、やり方自体は大体予想はつくけど、出来るかどうか……。あ、フィリス!」


 今回もあまり乗り気ではないようだ。

 私が部屋に入ってきたことに気づくと、一気に顔色が明るくなる。どうやって断ろうか迷っていたらしい。


「出来たから持ってきたのだけど」

「もらうわ」

「早速今日から使うつもりよ」

「次のパックも私がちゃんと持ってくるから。それに簡単に手に入るからこそ、あまり派手に売り出さない方が良いと思う。スライムの狩り場を荒らされたら困りますから」


 材料はすぐに手に入るものだし、錬金術さえ使えれば簡単に作れる。

 なので量産自体は可能だ。だが大量に集めるのは大変だ。


 ただ倒せばいいという話ではない。

 ビリーが討伐場所を分散させたように、気を遣う必要がある。


 それに我がヴィリアーンドゥ家がスライムの皮を集めていると知られれば、それを集めて売りに来る商人も出てくることだろう。


 パックを売り出した後なら特にそうだ。


 今まで捨てられていたものが売れるようになれば、スライムに見向きもしなかった冒険者だってそれらを集め始める。討伐が簡単だからなおのこと。


 だが多くの人がスライムを狩り始めれば、スライムの数が減る。生息地も減る。


 魔物が減るのは良いことではあるものの、駆け出し冒険者の仕事が減るのはよくない。

 スライム討伐が減れば、薬草採取などの他の仕事に集まる。そうなれば今度は薬草の数が減ってしまうのである。


 自然のものはほどほどに保たないと絶滅してしまう。

 後で困るのは人間だ。



 仕事の難易度が上がれば、冒険者を諦める者も出てくる。

 冒険者の全体数が減れば、有事の際に動いてくれる人が減る。


 それは国としてもよろしくない。


「それに紹介制にした方が特別感が出るかと」

「それもそうねぇ」

「使ってみて良ければ、私もお友達に分けてあげたいわ」

「旅の途中でいくつか作っておきますね」

「ええ、これからもビリーに取ってくるように頼んでおくわ」

「ほどほどにお願いします」


 何はともあれ、使い心地を確認してもらうのが先だ。

 お父様はあからさまにホッと胸をなで下ろしている。


 今度帰ってくる時は多めに作っておこう。

 使えるものがなくなった、なんてことになったらまたお父様が詰め寄られてしまう。


 お祖母様とお母様が満足して帰った後、お父様がスススとやってきた。


「フィリス。スクロールをいくつか作ったから好きなものを持って行きなさい。それからなんとかスライムの皮を減らせないか考えておく」

「いいんですか?」

「あの様子だとなくなったら大変だから……。それに前から素材の使用量を減らせないかビリーから相談されてたんだ。代わりにパック作りは任せた」

「分かりました」


 今は一枚につき五体なので、三体くらいに減ると嬉しい。

 この手のこともお父様の得意分野だ。私はあまり得意ではないので、任せてしまおう。

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