8.スライムパック
「つかれた……」
ビリーが帰ってきたのは日暮れ前のことだった。
てっきりおやつ前には帰ってくると思って、お茶まで済ませていた。
だがなかなか帰ってこないから、アンに頼んで髪を切ってもらったほど。
お尻を隠すほどに伸びていた髪は顎のあたりで切りそろえてもらった。
切った髪はやはりかなり痛んでいた。
だが錬金術に使う際の効果は変わらない。
魔力が多い人の髪は魔石の代わりになるのである。
いざという時に使うため、紐で縛ってからマジックバッグに保管しておいた。
「遅かったね」
帰ってきたビリーを家族全員で出迎える。
私のさっぱりとした頭に一瞬目を丸くしていたビリーだが、すぐに「似合っているね」と褒めてくれた。
「それにしてもこの量は多いって」
ビリーはへろへろで、背負ってきた袋をどさっと落とす。
そんなビリーにお祖母様は辛辣な言葉を投げかけた。
「スライム狩りくらいで情けないわねぇ」
「狩るのは簡単だけど、群れを探すのが大変だったんだよ。全滅させるとその狩場にいなくなっちゃうし。あと一応多めに持ってきた」
スライムといえば駆け出し冒険者の獲物である。なのである程度は残して、自分は走ったのだと。気遣いのできる弟である。
「さすがビリー。じゃあ早速作り始めるね。夕食までにはできると思うから」
「早いね」
「膜とくっついてる魔石を全部突っ込んで混ぜればすぐなの。浮かんでくる分を引き上げて乾かして引き上げて乾かしての繰り返し」
揚げ物みたいな感覚だ。
時間を考えてもミリーシアと王妃様の分を包んで渡さないと。
使用人に持って行ってもらおう。そうなると作り始める前に使い方メモを書かないと。
スライムパックの使い方は簡単。
まずパックに化粧水を浸透させる。ピチピチにハリが良くなるからそれを顔に乗せて放置。ピッタリと張り付くので、パックをしたまま作業も可能。
だが出来るだけ顔は上を向いた状態にした方がいい。
終わった後のしっとり感が変わる。
大体十分ほどでパックが乾いてくる。
そうしたら顔から剥がし、水で軽くゆすぐ。あとはタオルで挟んでポンポンと水気を拭き取るだけ。
拭かないと溶け、干すとカラカラになってしまう。
ほどよい湿気がいい。『タオル』の部分を強調するため、文字の下に二重線を引いた。
一度使用してしまうと保存魔法が切れるので、使わない日があれば霧吹きをかけておく必要がある。
だがこの方法もずっと状態を保てる訳でもない。
可能な限り継続して使って欲しいものだ。
繰り返しで10回使用可能で、カラカラになったら交換。
一ヶ月くらい使い続けると効果があると思う。
私はガサガサすぎてあまり参考にならないので、帰ってきた時にどのくらい効果があったか聞かせて欲しいとも書いた。
袋はアンに用意してもらう。
その間に私は錬金釜を火にかける。机の上にタオルを広げるのも忘れない。
家の錬金釜を使うのは久しぶりだが、お父様が整備しておいてくれたらしい。
たまに何かを作らないと錬金釜にある魔力が切れてしまうのだ。
錬金釜に入れた水がふつふつとしてきたら、ビリーに取ってきてもらったスライムの膜と魔石をざらざらと入れる。魔力を込めながらぐるぐるとかき混ぜ続ける。
浮き上がってきたパックをすくい上げ、タオルでポンポンと叩いて乾かす。
全部終わったら保存魔法をかけてから袋に入れていく。
そのうち二つは先ほど作ったメモを添え、使用人に託す。
あとはお祖母様とお母様の分。
それからビリーが多めに取ってきてくれたおかげで三枚余分に出来た。
一枚は私がもらうとして、残り二枚はお礼としてビリーにあげよう。
恋人へのプレゼントとして贈るか、自分で使うか。
好きなように使って欲しい。
袋を持って、部屋を出る。
ビリーの部屋をノックして、中へと入る。
ベッドにごろりと寝転んでいる。
頑張ってくれたので、入浴剤も持ってきた。こちらも渡すつもりだ。
「あ、ビリー。スライムパックあげる。好きに使って。それから入浴剤もあげる。疲れが取れるから」
「ありがとう。パックはリンにあげてもいい?」
「いいよ。感想聞いといて」
恋人に贈るようだ。リンさんというのか。私が旅に出る少し前に出来た恋人なので、まだよく知らないのだ。
手を振って、ビリーの部屋から出る。
それからお祖母様とお母様に渡したのだが……。
「あなたも作れないの?」
「すでに美容液が配合されているものがあればいいと思うわ」
「スライムの膜なんて大量に取れるでしょう?」
「ビリーに相談して儲かるようなら商品にしてもいいわね」
二人してお父様に詰め寄っていた。
だがお父様もあまり美容アイテム作りは得意ではない。
以前、化粧水を作れないかと聞かれていたが、無理だと断っていた。
今回も似たような相談だが、以前よりも圧が強いので困っているようだ。