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6.お助けアイテム

「それにしても姉さん、遅かったね」

「ただいまビリー。それお祖母様にも言われたわ」

「明日採寸し直せば、三ヶ月の夜会には出られるかな」

「それなんだけど、私また旅に出るから」

「嘘だろ!?」

「お嬢、ずっと一緒じゃないの!?」


 驚きでスピカは人型に戻ってしまった。

 犬型になるのと違って人型になるのは一瞬のようだ。


 目を丸くする二人に事情を説明する。

 私の肌の状態がいかに大惨事かを重点的に。


 弟は私の性格を知っているので、止めても無駄だと早くも諦めている。


 その一方で、スピカは先ほどよりも顔色が悪い。

 今にも泣きそうだ。


 だが私の意志は固い。

 今のうちにどうにかしなければ、歳をとったときに大変なことになる。それはこの数年で痛いほど理解させられた。


「ごめんね、スピカ」

「ならスピカも行く!」

「え?」

「一緒に行く!」


 手を伸ばし「行く!」と繰り返す。

 意志は固いようだ。


 だが魔王討伐の時とは違い、否定する理由はない。

 冒険者登録をしているので、道中のご飯代くらいは稼ぐことが出来る。


 採取と簡単な討伐をメインにすれば危険もない。


「分かった。一緒に行こうか」

「やったぁ!」


 スライムパックは私の必需品なのでスライム討伐は避けられないが、スライムくらい問題ないだろう。


 パックは旅の途中で色々と試したが、スライムが一番効果が高かったのだ。


 勇者達の目をかいくぐってスライム討伐をし、中の水が抜けてカラカラになった膜を回収しておく。そして夜な夜な錬金鍋をぐるぐるとかき混ぜた日々が懐かしい。


 しかもスライムパックのいいところは繰り返し使える点である。

 密着性も高いので、化粧水の浸透率もぐっと上がる。一度手に入れたが最後、手放すことは出来ない素晴らしいアイテムである。


 今はちょうど手持ちがないので、旅に出たら即作らなければ。


「ちょっと待って。スピカがいない間、僕の護衛は!?」

「ビリー頑張れ」

「え、護衛してもらってるの?」

「僕が弱いんじゃない。お父様の欲しがる素材がおかしいだけだよ……」


 お父様は凄腕の錬金術師で、錬金術と採取の腕はピカイチ。

 だが運動神経が壊滅的で、最弱として知られているスライムにすら負ける。


 ちなみにお父様の家系はみんなそう。

 お父様の家が貧乏だった理由の一つが素材を買い込んでいたから。


 珍しい素材はなかなか出回らないため、ある時に借金してでも買ってしまうのだ。


 母は父のそんなところに惚れたらしい。

 結婚してからは母が魔物の素材を採取するようになり、私と弟がある程度大きくなってからは手伝うようになった。


 私が魔王討伐に参加するようになると、自然と母と弟の二人になる。

 だがビリーによると、私のいない八年で年々父の要求が厳しくなって来たらしい。


 多分ビリーを鍛えるように母から言われたのだろう。


 弟は戦闘向きのタイプではない。それは自他共に認めるほど。レベルが上がってもあまり強くならない。


 錬金術に至ってはからっきし。初歩中の初歩である低級ポーション作りすら失敗する。才能がないのである。


 代わりにかなり頭が良く、幼い頃から父が作ったアイテムの売買を取り仕切っている。

 特技は暗算。家の経営にも携わっており、まさに当主向きなのである。


 スピカの戦闘力がどれほどかは分からない。

 だが母も無意味に試練を課しているわけではないと思う。


 磨けばどうにかなると思ってのことだろう。

 スピカの腕を引いて「行かないで!」と頼むくらいだから全く強くなっていないのだろうが。


「これからは定期的に帰ってくるから。大物はその時に狩ってくるよ」

「約束だからね!?」


 そもそもビリーの負担が増えたのは、私がなかなか帰ってこなかったせいである。

 この先も色々と頑張ってもらうためにも、お助けアイテムを渡しておこう。アイテムバッグからとあるものを取り出す。


「あとこれあげる」

「なにこれ?」

「バッファーバッファローとデハブハブ」


 見た目は牛の置物とへびのおもちゃである。

 だがこれは立派な錬金アイテム。勇者達をサポートするために作ったもので、八年間ずっと最前線で活躍し続けた優秀なアイテムだ。それを余っている分、全部あげることにした。


「牛の方は強化アイテム。強化したい人の周りに円を描いてから、この牛を円の上に置いて。線をなぞるように三周ぐるぐると回ったら消えるから、それで強化完了」

「なるほど。へびの方は?」

「噛んだ相手を弱体化するの。尻尾を切ると起きるから、相手に投げつけてね」


 デバフハブは力を入れれば手でもちぎれる。

 バッファーバッファローは発動まで時間がかかるのが難点だが、急ぐ時は円を小さく描けばよい。


 頻繁にやられるとアイテム消費が増えるので、勇者達には『なかなか売っていないレアアイテム』と伝えていた。


 実際は私のオリジナル錬金アイテムなのでどこにも売っていないのだが、魔法使いも騎士もあっさりと騙されてくれた。


「便利だね。どのくらい効果あるの」

「二つ一緒に使うと、酔った状態の勇者達がダンジョンの階層ボスを倒せるくらい。入ってくる経験値に影響はないからかなり効率がよくレベル上げ出来る」

「それはかなり心強いかも。スピカがいないなら、僕も本格的にレベリング頑張んないと……。大切に使わせてもらうね」

「足りなくなったら言ってくれれば作るから」


 ビリーは幼い頃から錬金アイテムの値段とアイテム採取の大変さを理解しているので、無駄使いをするようなことはしない。同時にお母様に仕込まれているのでアイテムを使い渋るということもしない。


 血のつながりを抜きにしても、こういう相手に使ってもらえるなら私もアイテムの作りがいがある。

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