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3.王都に帰ろう

「精々頑張ってください」

 三馬鹿が魔王討伐を成功させればラッキー。

 出来なかったら三人を捕縛した後で、私が倒しに行けばいいだけだ。


 生まれて十年も満たない魔王を倒すのは、勇者達を監視するよりもずっと楽なのだから。


 勇者に手をひらひらと振ってから思い出す。

 彼の口から出た『やつれている』というワードを。


「ああ、それから」


 指先に雷魔法を集中させ、彼の額へと落とす。魔力量は低いが、一点集中にした分、かなりの痛みが伴うはずだ。


 勇者はガタガタと身体を震わせ、その場に倒れ込む。


「女性にやつれているとか言ったらいけませんよ」


 乙女を馬鹿にした罪は重い。中途半端な場所にいる勇者を蹴り飛ばし、ドアを閉める。

 外からは息絶え絶えの勇者の弱々しい声が聞こえる。手加減はしてあげたので朝になったらどこかに行くことだろう。


「俺が国に戻ったら覚えてろよ!」


 国に戻っても居場所なんてないことを知らない勇者は翌日、宿を出た。

 魔界に向かったのだろう。


 ちなみに王家からの支給品であるマジックバッグを持っているのは私である。

 勇者パーティの荷物のほとんどが入っている。私物や金などは個人管理だが、ポーションや地図などのパーティで所有しているものはこの中に入っている。


 彼らはそこまで気が回らなかったのだろう。


 それに遊びほうけていた彼らは、ポーションなど諸々を買い揃えるだけのお金も持っていないはずだ。毎回食料品と薬品を買っているのも私なので、そもそも用意するという頭があるかどうか……。


 必要になってから困ることだろう。

 買ったとしてもかなりふっかけられそうだな……。


 クビ宣告をされた私の知ったことではないが。


 荷物の中身リストと、彼らが無駄使いした際につけた帳簿を手に城へと戻ることにした。




 +




 城に戻るとすぐに再従姉妹のミリーシアが出迎えてくれた。


 お姉様~と叫びながらダダダと走り寄ってくる。

 私はヒールのある靴なんてもう何年も履いていない。だが履いていた時期でもあそこまで早く駆け下りることは出来なかったはずだ。


 お姫様って凄いなと眺めていると、スッと両手を捕まれた。


「お姉様、聞いてください。あの馬鹿がお姉様を追放してやったと言い回っているのだとか! 私、許せませんの」

「まぁまぁ落ち着いて」


 ちなみにミリーシアこそ、勇者が魔王討伐を成功した暁には褒美として結婚を許してやろうと言われた姫である。


 彼女とは仲が良く、一歳だけ年上の私を姉と慕ってくれている。


 そう、私は王族の血を引いているのだ。

 祖父が先代勇者で、魔王討伐の褒美として姫様との結婚をもぎ取った。その姫様というのが私の祖母なのだが、相当な変わり者として知られている。


 自らの意思で勇者パーティの聖女になったほど。

 実力は折り紙付きで、当時の国王陛下も止めることは出来なかったらしい。その他の諸々の逸話があり『女帝』と呼ぶ者も多い。


 私が生まれた頃にはすっかりと大人しくなっていたので、凄さを目にする機会はない。だがかつてを知る者、特に現国王は未だに姉である、私の祖母に逆らえないようだ。


 そんな祖母たっての希望で、魔王討伐を成功した祖父は一代限りの爵位『英雄公爵』という特殊な地位を得た。その他にも屋敷だとかお金だとか色々もらったようだ。


 そこに貧乏貴族で錬金術師の父が功績を打ち立てたことで、ヴィリアーンドゥ家は今も『英雄公爵』として活躍している。


 そして私の代も英雄公爵の地位を継ぐため、用意されたのが勇者パーティの聖女兼監視役だったという訳だ。といってもあくまで何かしましたよ、という形を残すことが目的で、爵位の継続は旅に出る前から決まっていた。


 英雄公爵の娘が勇者パーティ入りしたことは公にはされていないが、八年も留守にしていれば気づくだろう。ヴィリアーンドゥ家の存続に反対する貴族もいない。なにせ私は若かりし頃の祖母とそっくりなのである。絵を見せてもらってビックリした。


 顔を見れば大抵の人が王族関係者であることに気づくほど。今ほど顔が知られていなかった頃はミリーシアと間違われることも多かった。


 だから魔王討伐の旅の最中はローブのフードを深く被り、顔を隠していた。


 とはいえ、私の顔を正面からしっかりと見たことのある勇者と騎士と魔法使いは全く気づいていなかったのだが。勇者はともかく、騎士と魔法使いは貴族。


 気づかれていなくとも支障はないと放置していたが、勇者の口から『やつれている』と飛び出したことは報告する予定。止められなかった二人にも何かしらの処罰を下されることだろう。そうでなくとも不敬にはなる。



 やや特殊な立ち位置の私が最も得意とするものは錬金術と戦闘。自他共に認めるほどの攻撃特化型である。


 勇者達が危険にさらされた場合はほどよく助け、死ぬ前に安全地帯に運ぶことが私の任務だった。聖女兼監視兼子守役とでも言うべきか。


 初めのうちはもちろん、最近も何度か回収していた。

 といっても最近の回収場所はもっぱら酒場だが。酔うと「俺たちは勇者パーティだぞ」と騒いで金を払わないので、会計も私の役目だった。


 勇者が指摘していた神聖魔法でも攻撃系の魔法は超がつくほど得意だ。だが彼が指す神聖魔法は結界と回復魔法--私が最も苦手とする分野であった。


 そもそも私の苦手分野をサポート出来るような魔法使いが選ばれたはずなのだが、彼はいつからか派手な攻撃魔法ばかり使うようになった。


 自分の活躍を女の子に見てもらうためである。しょうもない理由だ。


 騎士と魔法使いだけでも早めに取り替えるべきだったかと少し反省している。

 なにせ私とあの二人には、冒険の旅の途中でも支給金とは別にそこそこ良い給料が出ていたのだから。


 その金もあって、彼らは勇者と共に遊びほうけていたというわけだ。

 まぁ不敬罪だのなんだの理由をつけて没収するか、退職金代わりにでもしてもらうつもりだが。でないと酒代や旅先で払った迷惑料という名のチップが回収出来ない。


 遊び惚けて出来た負債は自ら払ってもらわなければ。

 やつれている発言を許すつもりはないが、彼らが馬鹿なのは今更始まったことではない。悲しいことに慣れてしまっているのだ。だから平静でいられる。

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