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15.野菜ダンジョンと野菜スライム

 

「広い!」

「こんなに広かったんだ……」


 朝起きてすぐ、スピカと一緒に野菜ダンジョンへとやってきた。

 そして二人で揃ってダンジョンの広さに目を丸くする。


 ダンジョン内部は外から見ただけでは分からない。入り口は大人一人が入るのがやっとなほどに小さくても中は広々としていたり、逆に入り口が王都の門ほどのサイズでも中は一本道しかなかったり。


 時空が歪んでいるのだという学説があるほど、広さには差があり、内部構造もまるで違う。


 昨晩聞いてみたところ、スピカも何度かダンジョンを訪れたことはあるそうだ。

 他人の獲物を捕らないことや階層ボス討伐の順番待ちの仕方など、基本的なマナーはすでに習得済み。だがここまで大規模なダンジョンは来たことがなかったようだ。


 いくつものダンジョンを訪れた私でさえ、ここまでの広さと天井の高さのあるダンジョンに出会うことはなかなかない。


 まさか街一つがすっぽりと入ったようなサイズのダンジョンが広がっているとは思わなかった。


 入り口を通ってすぐに広場のような場所があり、屋台がずらっと並んでいる。

 一番手前にあるテントで冒険者と一般人を区別しているらしい。私とスピカは冒険者列に並ぶ。


 こちらの作業は他のダンジョンと同じく、誰が潜ったかをチェックするためのもの。冒険者カードを提示しておいて、半年間帰ってこなければ死亡処理がされる。


 といっても野菜ダンジョンでは強い魔獣が出てくることはほとんどないので、こちらはほぼ形だけ。



 メインは隣にある一般人用のテント。

 こちらは入場が有料となっているようだ。結構良い値段がかかれている。ダンジョン内で使える食券もそこで売っている。


 第一階層はほぼ全て食事するためのエリアとなっているが、完全に魔物が出ない訳ではない。だから一般客を守るための冒険者が何人も立っている。彼らの賃金・屋台のメンテナンス・その他運営費なんかに当てられるようだ。


 冒険者は食券は不要で、お金もしくは素材を渡すことで店の利用が可能だそうだ。近くに残った素材の買い取りカウンターまである。


 これら全てを回しているのは近くの街の冒険者ギルドと商人ギルド。国からの運営承諾書までバッチリと張られている。雇われている冒険者も怪我などを理由に引退し、この街で暮らしている冒険者だと思われる。入り口付近で見かけた冒険者は右足をかばうように歩いていた。


 引退冒険者でも仕事があるというのは良いことである。

 現役冒険者を一つのところに留めておくことは難しいので、ギルド側も人員が確保出来てWin-Winなのだろう。


 ダンジョンの第一階層は潰れてしまうものの、儲かっているのは街を見れば分かる。



「お嬢、お腹空いた」

「先に腹ごしらえしようか」

「うん!」


 ぐるぐると回って軽く散策をしてから野菜のフライの店と、お野菜バーガーの店で朝食を買う。お野菜バーガーのバンズはダンジョン産の野菜と小麦を使ったもので、肉の部分はダンジョン産大豆である。


 大豆と言われないと分からないほどジューシーで、お肉が大好きのスピカも大満足だった。


「これはどこで取れるんですか?」

「冒険者から聞いた話だと全階層にいるみたいだ。豚の魔物を討伐するとドロップするから、多く取れたら持ち込んでくれよな」

「持ってきたらいっぱい食べられる?」

「それはもう!」

「頑張る!」

「おお、嬢ちゃん頑張れ!」

「うちの店にも頼んだよ」

「任せて!」


 周りの店の人達から応援される。スピカは彼らにぶんぶんと手を振りながら、第二階層に続く階段へと向かう。一般人が間違って進まないよう、こちらにも冒険者が立っており、冒険者カードを見せると次に進むことが出来る。


「嬢ちゃんも冒険者なのか」

「いっぱい取っていっぱい食べる!」

「頑張れよ」


 その調子で他の冒険者にもアピールして、第二階層に到達した。


「豚! お嬢、豚いる! あっちにはスライム」

「あんなカラフルなスライム初めて見たわ。あれも何か取れるのかな」


 ダンジョンではしばしば特殊個体が生まれる。

 この野菜ダンジョンなら野菜関連の魔物が出る、と噂では聞いていたが、見慣れたスライムでさえも姿を変えるとは……。


「狩れば分かるよ」

「そうだね。階段に向かうまでに何匹か狩っていこう」


 野菜も狩っておきたいが、私達は最下層を目指さなければならない。

 神様からのお言葉にあった『良い物』が何かは分からないので、探す時間も考慮して初めに探そうということになったのだ。


 スピカはスライムに向かって走り、ざくざくと倒していく。


「お嬢、なんか落ちた~」

「持ってきて~」

「ん~」


 スピカが持ってきたのは小さな小瓶。中には黄色い液体が入っている。


 鑑定してみると『野菜スライムの粘液(黄)』と表示された。


 料理に使うと美味しいらしい。品質ではなく、色が表記されるということは色によって味が変わってくるのだろうか。


 味に対しての詳しい説明は出てこないが、ダンジョンの外に持ち帰れるそう。使用期限も長めなので、何本か家に送ろう。マジックバッグに入れる。


「なんだった?」

「料理に使うと美味しいやつだって。外に持ち出しても大丈夫みたいだから、家に送ってあげよう」

「いっぱい取る!」


 スピカはナイフを持った手をぶんぶんと振りながら、野菜スライムの群れへと駆けていった。すると周りにいる冒険者達もこそこそと話し始めた。


「あそこのお嬢ちゃん、鑑定が使えるのか」

「いいな~」

「スライムのドロップ品が持ち出せるらしい」

「スライムか。いつも素通りしていたが、まさか使えるものを落とすとはな」

「前に倒した時は何も落とさなかったぞ?」

「ランダムなのかもな」

「母ちゃんへの土産に持って行くか」


 ダンジョン内にはドロップ品がある魔物とそうでない魔物がいる。ドロップ品の魔物は倒せば何らかを落とす、というのが一般的である。このダンジョンは落とすものが野菜関連に限定されるため、ルールもやや特殊なのかもしれない。周りの話に聞き耳を立てながらなるほどと頷く。


「お嬢、いっぱい取れた!」

「色違いもいっぱいだね」

「倒した時に色が変わってね、その色のが出るの」


 スピカから受け取った小瓶を端から鑑定していく。

 黄色の他に、赤・青・緑を持ってきたが、青だけは毒性を持つらしい。

 錬金術に使えそうなのでスピカのマジックバッグに入れてもらう。


「あ、青は食べられないみたい」


 周りの冒険者に聞こえるように、少し大きめの声で告げる。

 買い取りに出す際はギルド職員が鑑定してくれるだろうが、持ち帰るなら知っていた方がいいだろう。いつもはこんな親切しないのだが、情報を得られたお礼みたいなものだ。


 おかげで一体倒しただけでドロップがないと判断せずに済む。

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