14.ビリーのお菓子
朝晩二回。スピカのお買い物チャレンジが習慣となった。
考えながら購入すれば多くの種類をゲット出来る。
スピカもそのこと自体はしっかりと理解しているらしい。ただ屋台を前にするとどうしても『これをいっぱい食べたい!』という欲が勝ってしまうそう。
一種類だけ買ってきて、後で悲しそうに屋台を眺めるようなことが何度もあった。とはいえ成功したときはそれはもう幸せそうで、離れたところで待つ私のところまで走ってくるのである。
屋台の売り子さん達からの拍手まで受け取って、誇らしげに食事を取っていた。
そんなスピカのチャレンジも十日目を迎えた日、ようやく野菜ダンジョン付近の街までたどり着いた。
ダンジョンが近くにある街はどこも活気に満ちている。
難易度が高いダンジョンが近い街ほど冒険者と商人が多く、比較的チャレンジしやすいダンジョンなら一般市民も多い。そして野菜ダンジョン付近の街には観光客や貴族が多い。さすがは野菜ダンジョン。以前訪れた時もそうだったが、野菜好きな人や美を追求する人たちが多く訪れているようだ。
また違うのは人だけではない。この街の宿はダンジョン野菜を取ってきて調理する人のために、キッチン付きの部屋も多いのだ。一部屋一部屋もかなり広いのだとか。
その分お値段が高いので、一般人や冒険者はなかなか手が出せない。
料理をしたい人はキッチンを貸し出している宿、もしくは貸し出し店を借りるのが一般的だ。
料理をしないのなら冒険者向けの店一択。魔王討伐の旅の道中で使っていたのも冒険者向けの宿だった。
こちらも他の街の宿と比べれば少し高いのだが、ベッドのクッション性がまるで違う。収入がダイレクトに反映されていた。
私もスピカも料理はしないので、今回もそちらの宿を取るつもりだ。
ちなみにダンジョン産の野菜は鮮度が命とはいえ、街まではかなり近いので、ダンジョン産野菜を出している店も多い。またダンジョン内でも店があるのだとか。
一階層には屋台だけではなく店まであるという話を聞いたことがある。その店に材料と調理代金を渡すと、とっても美味しい料理を作ってくれると。
料理しない・料理が得意ではない人でも好みの野菜を食べられるという訳だ。ありがたい。
宿へ歩いている道中、スピカが私の手を引いた。
「お嬢、あっちに神様のおうちあるよ!」
「寄っていこうか」
「うん!」
神様のおうちとは教会のことである。
どこの国でも教会があるのは活気に満ちた町のみ。運営にも経費がかかるので、収入が見込める土地のみ豪華な建物が建てられている。もちろん小さな町にもあることにはあるのだが、孤児院と併設していたり、個人でひっそりと経営していたりと旅人には開放されていないケースが多い。
今回の旅で教会を訪れるのは始めてだ。
宿を探すよりも先にご挨拶に行くことにした。
教会に着くや否や、スピカがマジックバッグからあるものを取り出した。見慣れぬ袋である。ほんのりと甘い香りがする。
「スピカ、何それ?」
「ビリーが作ってくれた神様にあげるお菓子。お嬢は持ってないの?」
「持っていない」
「じゃあこれはスピカとお嬢からのってことにするね!」
なんでお菓子? そもそもビリーにお菓子を作る趣味なんてあっただろうか。
少し考えてから、ああと納得した。
聖女は神に捧げ物をする習慣がある。
その『物』は神に認められた才である。歌や声が認められた聖女なら歌を捧げる。お祖母様の場合は剣舞だったし、私は錬金術で作ったものだった。
新作のアイテムが出来たら必ず捧げていたし、新しいものがなかなか出来なければ錬金術でお菓子を作った。スピカを拾ってからも何度か捧げ物をしていた。
それを覚えていて、スピカが私のまねっこをするためにお菓子を作ってもらったのだろう。
戦闘以外はまんべんなくこなすビリーだ。お菓子作りもなんなくこなして見せるのだろう。
スピカが袋を広げると、美味しそうな香りが強くなっていく。もしも神様への捧げ物でなければ「分けて」と言っていたかもしれない。
けれどお菓子を持っているスピカは食べたい衝動をぐっと抑えている。小さく「これは神様の。スピカのは帰ってから」とぼそぼそと繰り返している。
そのまま順番を待つ。自分達の順番が来たら、捧げ物を置く台にお菓子が入った袋を置く。
「スピカもお嬢も怪我しませんように」
「健康に旅を終わらせられるよう、見守っていてください」
手を合わせれば、すうっと袋が消えていった。神様が受け取ってくださったのだ。
挨拶はこれで終わり。宿を探すため、外へと出ようとした時だった。
「そこの娘さん達」
神官に声をかけられた。台の近くにいた神官の一人である。
「どうかなさいましたか?」
「ダンジョンの最下層に行くように、と神が仰せである。そこに良い物があると」
「野菜ダンジョンのことでしょうか」
「そこまでは分からぬ。だが見つかった暁には美味なるものを捧げよとのことだ」
美味なるもの……タイミング的にビリーのお菓子ということでいいのだろうか。
神様が捧げ物を気に入るのは珍しい。ましてや神託をくださるなど、めったにないことだ。
ビリーのお菓子はよほど美味しいのだろう。帰ったらついでに私の分も作ってもらおうと心に決める。だがそれよりも先に神が教えてくださった良い物を確かめなければ。
「ありがとうございます」
「あなたたちに神のご慈悲があらんことを」
ぺこりと頭を下げ、今度こそ教会を後にする。
宿を取る頃には日が傾き始めていた。ダンジョンに潜るのは明日になりそうだ。
「ご飯にしようか」
「うん!」
二人で仲良く屋台に向かう。
観光客が多いからか、パラソル付きのテーブルが開放されていた。そこに二人分の場所を確保してからスピカにお金を渡す。戻ってきたら私も何か買いに行こう。何がいいか。椅子に腰掛けながら屋台を眺めるのだった。




