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13.銀狼

「確認をお願いします」

 切り取った耳が詰まった袋と一緒に、スピカの冒険者カードを渡す。先ほどとは違う女性だ。遅れて二枚の受注依頼書を出すと、目を丸くした。


 冒険者に成り立てでの同時受注は初めてのようだ。狩人の多い地域なんかではよくある光景である。登録金を貯める前から狩りを行っている者が多く、簡単な依頼くらいでは手こずることはない。


 この辺りの地域はわりと平和で、馬車に乗っていても魔物に襲われるようなことはなかった。スピカのような狩りに慣れた駆け出し冒険者と出会う機会はなかったのかもしれない。


 それにスピカはあの場にいたゴブリンとコボルトを全て倒した。なので袋の中にはかなりの量が入っているのである。


「これは本当にお一人で?」

「スピカが頑張った!」

「お手伝いなどは」

「してませんよ」

「このくらいスピカ一人で十分! ちゃんと耳の採取も一人でした! えらい!」


 ふんっと鼻を鳴らして胸を張るスピカ。

 実際、討伐から証拠である耳の刈り取りまで全部スピカ一人で行った。私が戻ってくると、死骸は火魔法で焼いており、その後の火消しまでバッチリだった。


 ちなみに耳の切り口はとても綺麗で、討伐だけではなく解体も手伝っていたことはすぐに分かった。


 ビリーは一体どれだけスピカに手伝わせていたのだろうか。少し不安になった。けれどすぐに、ビリーはここまで合わせて教育だと思っているのではないかと気づいた。


 なにせ私達がそうだった。

 三歳くらいから剣術と一緒に食べられる薬草や果実を覚え始めた。一年とせずに狩りに出て、ある程度上達したら解体を覚える。早くからそれらに慣れることで、食うに困ることはなくなるのだと。


 まぁ我が家が食うに困るくらい困窮するようなことはないと思うが。

 スピカもこの先、独り立ちをすることがなければ別だが、うちにいればしっかりと食事が出る。


 お金の使い方がしっかりと出来るようになったらお給料だって……。旅の間、ちょっと持たせてみるのもいいかもしれない。


 そう思って達成報告に来たのだが、受付の女性からは疑わしげな目を向けられている。信じていないようだ。スピカを値踏みするようにジロジロと見る。


 とはいえ袋がいっぱいになるほど討伐しても、スピカのご飯に置き換えれば二、三回分で終わってしまう。大した額ではないのだ。


 実際にスピカの実力を見てもらえれば早いのだが、そんなわけにもいかない。彼女には他にも仕事がある。


 ただ私もスピカの戦闘姿を見ていた訳ではないので、口頭で上手く説明することが出来ない。どうしたものかと悩んでいると、スピカの機嫌が悪くなる。


「こんなの雑魚だもん」


 自分が弱いと言われているようで面白くないようだ。頬を膨らませてしまう。可愛らしい。

 だがあらぬ疑いをかけられたままでは可哀想だ。スピカの名誉のため、そして今後のためにも時間をかけることにしよう。


「では今日はこのまま帰ります。明日、私がここに残った状態で彼女が同じ依頼を受けてくるというのはどうでしょうか」


 早く先に進みたい気持ちはある。スピカだって面倒臭いと思う。私の横で微妙そうな顔をしている。「明日もやるの?」とでも言いたげだ。


 だがここで誤解を解かなければ、次のギルドで同じようなやりとりをするだけ。受付の相手が変わってもギルド全体に記録は残る。また同じことをして依頼報告を拒まれたらたまらない。面倒でもこれが最善なのだ。


「それなら……」


 私の提案に、受付の女性も頷いてくれた。明日の分をかさましされたと思われては敵わないので、ひとまず耳は預かってもらおう。


 これは……と相手に袋を押し出そうとした時だった。受付の奥からこちらに向かって、小太りの男性がズンズンとやってきた。


「それには及びません!」

「ギルドマスター!?」

「そちらは銀狼殿だ」

「え、あの有名な? でも駆け出しって……嘘でしょ」


 ギルドマスターの言葉に、受付の女性は目をパチクリとさせている。


 でも銀狼ってなんのことだろうか。

 はてと首を傾げれば、スピカはギルドに帰ってきた時よりも自慢気だった。鼻を膨らませて胸を張っている。張り過ぎて今にも転んでしまいそうだ。背中を軽く支える。


 どうやら銀狼とはスピカを指す言葉、通り名のようなものなのだろう。強い冒険者や目立つ冒険者には度々このような名前がつけられる。冒険者ではないスピカの名前が知られているとは、私が思っている以上に強かったらしい。


「申し訳ありませんでした。こちらの依頼は処理させていただきます」


 ギルドマスター直々に達成処理してもらい、達成報酬を受け取る。またすでにスピカの実力が知られているからか、その場で昇級処理もしてくれた。



 しかも三段階アップ。駆け出し冒険者から一気に中堅レベルになった。今回の依頼では一段階アップも出来なかったのだが、ギルドマスター権限だそうだ。


「お連れ様が持ち込んだ素材記録を見ればこのくらいは妥当。いえ、まだまだ足りないくらいです」


 ギルドマスターは両手をモミモミと動かしながら「今後とも冒険者ギルドをご贔屓に」と入り口まで送ってくれた。


 そのまま屋台が並ぶエリアへと歩き、先ほどの報酬が入った袋を開く。その中から銀貨を三枚取り出し、スピカに渡す。


「これは今日の夕飯代。これがあれば朝と同じく、好きなのが三つ買えるの。宿でもご飯を頼むけど、今日頑張ったからこれで好きなものを買っていいよ」

「本当に!?」

「うん。でも食べ過ぎはダメだからね」

「ありがとう!」


 スピカはお金を握りしめて屋台へと走る。

 私は少し離れた場所からスピカの様子を眺める。


 そしてしばらく待っていると、スピカは一つの店で山盛りのご飯を買った。そしてこちらへと走ってきて二人でベンチへと向かう。スピカはご機嫌で食べてから、途中で自分の失態に気付いたらしい。


「一つでなくなった……」


 スピカはしょんぼりと耳を垂らす。だがこれも教育だ。計算が苦手だからといってずっとこちらが管理し続けては成長しない。これもスピカのためだと心を鬼にする。


「そうだね」

「お嬢……あと二つ……」

「三つ分のお金は先に渡したでしょ?」

「……むぅ」


 スピカは羨ましそうに屋台とご飯を持つ人々を見つめる。ビリーはこれに耐えられなかったのだろう。三つと約束させるまでにも色々とあったのかもしれない。私も少しくらいはスピカの成長のために嫌な役を買わなければ。


「明日の朝、また同じ分だけお金をあげるから今度は満足できるように選ぼうね」

「三つ以上でもいい?」

「渡したお金で足りるなら四つでも五つでも六つでも。好きなものを食べていいよ」


 それはつまり、今日みたいに後で気づいても追加であげることはないということでもあるのだが、スピカは大きな数字に目を輝かせている。


「六つも……!! ビリーはダメって言ってたのに」

「特別だよ」

「特別……いい言葉……」


 金額の上限を決めれば食べ過ぎるということもないだろう。今朝の購入金額を基準に決めたのだ。選ぶものにもよるが大幅に足りないということもないはず。もし足りなければ今朝買った保存食を出すなり、次回から金額を増やせばいい。


「じゃあ帰ろうか」

「うん!」


 元気よく頷くスピカと手を繋いで宿に帰る。


 まずはマジックバッグから先程ゲットしたスライムの魔石と皮を取り出す。それを同じく取り出した外用の小さな錬金釜に入れる。あとは自宅でしたのと同じように魔力を込めてかき混ぜるだけ。


 小さな錬金釜は通常の釜に比べて性能はやや落ちるが、手順は変わらない。今回は四枚出来た。手持ちと合わせてしばらくは安泰だ。


「お嬢、終わった?」

「待たせてごめんね。終わったからお風呂入ろうか」

「おっふろ〜」


 スピカと一緒にお風呂に入り、出たら速攻で保湿する。スピカもやりたいとのことで、今はパックを顔に乗せた状態で一緒に上を向いている。


「冷たくて気持ちいいね」

「そうね〜」


 ちなみにスピカのお肌はモチモチすべすべ。

 パックが不要なほど。


 これが若さ。

 羨ましくもあり、同時にスピカのお肌は守らなければという使命感に駆られたのだった。

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