10.おでかけ
「行ってきます」
「気をつけてね」
「何かあったら手紙飛ばすから! あと、スピカ、食べ過ぎはだめだからね。拾い食いもだめ。おなか痛くなっちゃうんだから」
「分かってる。ビリー、心配性」
「姉さん、ちゃんと見ててよ」
「分かったわ」
私が離れている八年でビリーはすっかり立派になった。
小言を言いながらも、スピカのマジックバッグの中身を確認するところはお父様みたい。
お花の形のマジックバッグは二人で採取に行く時に使っていたもののようだ。見た目はかなり小さい。ポシェットのよう。
だがスピカのバッグに大物を入れることが多かったようで、かなりの容量がある。
私が魔王討伐に行く際に持って行ったものと同じくらい。
しかも魔物から採取したアイテムを直接入れるからと、細かい仕切りまで作ってある徹底っぷり。定期洗浄まで行っていたそうだ。
素材を使うのはお父様で、マジックバッグを作ったのもお父様。
他の魔物と一緒に入れて皮に傷がついたり、血などがついて錬金アイテムに変化が起きることを嫌ったからだろう。
普通はやろうと思っても出来ない。お父様だからこそ出来る技なのだ。私もそこまでの技術はない。
スピカのマジックバッグを洗浄するついでに私のマジックバッグも洗ってもらった。
ちなみに中に入っていた私の私物以外のもの、特に勇者達が使っていたものなんかは王様に渡してもらえるように頼んである。
主に勇者達の予備の武器や魔導書、スクロール、それから保存食と水である。
どれも国からの予算を使って購入したものなので、物だけでも返しておこうと思ったのだ。
一部、彼らの金で買った物も含まれているが、迷惑料みたいなものだ。
彼らは自分勝手な理由で私を追放したのだ。王様の意向に逆らう行為でもある。多分そこまで考えていないのだろうが。
彼らとて、マジックバッグの中のアイテムが今更帰ってくるとも思っていないことだろう。
もちろん武器と魔導書は彼らが帰ってくるまで保管しておいて、何かの交渉に使うというのも手だ。
使うも捨てるも王様の判断に任せる。
本来なら昨日渡すべきだったのだが、報告ばかりに気を取られてすっかりと忘れていた。
特に魔導書は魔法使いが買ったものとは別に、珍しいものが見つかったときには私も給料を使って買い集めていた。
私が買った魔導書もそこそこの数があり、全部で十四冊。
案外、小さな町の雑貨店で投げ売りされていたり、通常の本と混ざっておかれていたりするのだ。勇者達が遊びほうけている間に、所有者の村人や宿の人と交渉したこともある。
魔法使いが購入したものよりも多い。
彼が真面目に勉強していたのは初めのうちだけで、後は女の子を口説くためのポーズだったからだ。後で手放すことも多かった。
残ったのは四冊。うち一冊は彼が肌身離さず持っていた。
ダンジョンの宝箱から出てきた魔導書で、勇者と騎士はこれの存在を知らない。
ただの本だと思っており、おそらく魔法使いも彼らにこの本について説明はしていない。
だが見る者が見れば分かる。スクロールのような効果がある、非常に珍しい本だ。
本を所有する者が瀕死になった際、一度だけ全回復出来る。
ただし最後まで本を読んでいる必要があることから、何かを記憶に植え付けているのだろうと思われる。
魔法使いが自らの手で手に入れたものであり、他の二人はその価値を知らなかったことから、私も指摘することも回収することもしなかった。
なので何かあったとしても彼だけは生き残れるはずだ。
ちなみにその魔導書が最も価値のある品で、命の危険があるハイランクの冒険者や王族、貴族商人あたりは喉から手が出るほど欲しい品でもある。
だが私の集めてきたものもそれなりの価値はある。
魔法使いの育成に役立てて欲しいと国に寄付することにした。
顔と髪にダメージを受けたとはいえ、八年間きっちりと報酬をもらっていたのだ。
こういうところでしっかりと還元しないと。
家族と別れ、スピカと共に馬車乗り場に向かう。
手を繋いで歩くと、スピカはすっかりお出かけ気分だ。歌を歌いながら手をぶんぶんと動かし始めた。
好きな場所に行けて好きな時に帰ってこられるので、私からしてもお出かけみたいなものだ。
二人分の料金を払い、乗り合い馬車に乗る。
一番奥の椅子に腰掛けると、スピカがゆらゆらと揺れ始めた。
昨日、ビリーに確認したところ、スピカは何度か馬車に乗っているという話だった。好きなのかもしれない。
「お嬢、これ乗ったらダンジョン着く?」
「ううん。これが行くのは途中まで。夜になったら降りて、町の宿でお休みするの。それで起きたら狩りに行こうかなって思ってる」
「スライム!」
「そう、スライム狩り」
「スピカ、魔物探すの上手だよ」
「じゃあお手伝いしてもらおうかな」
「任せて」
ふんっと胸を張るスピカは可愛らしい。
今後のことをざっくりと話しているうちに、発車の時間になったようだ。
乗客は私とスピカを合わせて八人ほど。席の半分も埋まっていないが、途中で客を拾い上げていくタイプならこんなものだろう。
持たせてもらったサンドイッチをマジックバッグから取り出し、スピカに渡す。
ビリーから言われたように、膝の上に布を敷いてあげるのも忘れない。ちなみにスピカのサンドイッチはお肉たっぷりで、私のは野菜たっぷりだ。
「こぼさないようにね」
「うん!」
スピカは元気に返事をする。目をキラキラと輝かせながら包みを開く。
そして大きく口を開いてばくりとかぶりついた。私も真似をしてサンドイッチを食べる。
「美味しいね、お嬢」
「そうね」
口元にソースをつけるスピカは本当に美味しそうに食べる。
見ていてこちらも幸せになる。
今までとはまるで違う、楽しい旅になりそうだ。




