高校の時に陽キャラ男と、その彼女に嫌がらせを受けていた俺は、社会人になって生まれ変わり復讐を遂げる。
チャイムが鳴り昼休みになる。俺はお昼を食べようと机にお弁当箱を広げた。すると大悟が近づいて来て、俺に向かって「おい、豊。喉乾かねぇ? ジュース買ってきてくれよ」
「別に……いらない」
「良いから行けよ、俺のも買ってきてくれよ」
も、って何だよ、いらねって言ってんだろッ。
「キャハハ」と、話を聞いていたのか佳代が下品に笑いながら近づいて来て、大悟の肩に手を乗せる。
「大悟、なにパシリに使ってるのさ」
「パシリじゃねぇよ。俺はちゃんと買ってきてと、頼んだんだよ」
「そうなんだ。じゃあ私のも買って来てよ」
「だからッ──」
俺はそう言い掛けたが、くだらない話をダラダラと続けたくなかったので、言葉を飲み込む。
「金……」と俺が手を差し出すと──大悟と佳代はニヤニヤしながら金を渡してくる。俺は受け取ると、黙って廊下に出た。
──大悟のやろう……スクールカースト上位だからって調子に乗りやがってッ! それに佳代もそんな大悟の彼女だからって調子に乗り過ぎだろッ! あー……腹立つ!!!
※※※
ジュースを買って、教室に帰ろうと廊下を歩いていると正面から、黒髪ロングヘアを揺らして静香が近づいてくる。
「あれ、西園寺君。今日はジュースなの? 珍しいね」
「いや、ちょっとね……」
俺が歯切れの悪い言い方をしたせいか、静香は何かを察したようで眉を顰める。
「まさか買いに行かされたの?」
「そんなとこ……」
「なにそれ! 先生にチクッた方が良いよ」
俺と静香は中学が同じクラスだっただけ。それなのに俺の為を思って、怒ってくれて心配してくれているのが分かって嬉しい。
「大丈夫だよ。そんなやつ等、いずれは痛い目会うだろうし、相手にする価値すらないよ」
「そう? 何かあったら言ってね」
「ありがとう」
※※※
相手にする価値すらない……最初は本当にそう思っていた。でもあいつ等、特に佳代の嫌がらせはエスカレートしていく。さすがの俺も、いつか痛み目に合わせてやると不満を募らせていった──。
だが残念なことに、そんな機会が得られず俺は高校を卒業する。俺は専門学校を出た後、システムエンジニアになり、中小企業に就職した──。
そこで何年か勤めていたが、思った以上にシステムエンジニアは需要があると分かった俺は、退職して本格的にプログラミングを学んだ。
そして──自分で起業し20代後半にして社長となる。最初はつまづいたが、軌道に乗ると中小企業に勤めていた以上のお金を手に入れる事が出来た。
そんなある日、仕事をしていると一本の電話が掛かってくる。
「西園寺社長。買収の件、いかがでしょうか?」
「前向きに検討させて頂きますよ」
「おぉ……ありがとうございます!」
「ところで御社では青葉という営業マンは、いらっしゃいますか?」
「青葉ですか? はい、います」
「そうですか」
「青葉が何か?」
「いや、何でもないですよ」
──それからしばらくして俺は電子部品メーカーを買収する。それから数か月が流れたある日、飲み屋で酒を飲み終わった俺は、商店街を歩いていた。
すると正面から見た事がある女性が歩いてくる。相変わらず目つきは悪いが、容姿端麗の顔をしてやがるな。
俺はすれ違う瞬間「あれ、もしかして荒木さんですか?」と、女性に声を掛けた。女性は俺の事が分かっていない様で、黙って立ち止まり、俺をジッと見つめる。
「──あ! もしかして、豊……君?」
「うん、そうだよ。良かった、気付かれないかと思った」
「ひ、久しぶりだね……」
佳代は高校の時を思い出したのか、苦笑いを浮かべる。
「久しぶり。何か浮かない顔して歩いていたけど、何があったの?」
「いや、ちょっとね……大悟が突然、会社を首になってね。いま喧嘩して、別れて来ちゃった」
「それは……それは……」
「豊君は何をやっていたの?」
「酒を飲んでたんだ」
佳代は考え事を始めたのか、黙ったまま俯く──。
「ねぇ、豊君。ちょっと時間ある? 愚痴を聞いて欲しいんだ。そこで飲まない?」
「あぁ、いいよ」
「ありがとう」
──こうして俺達は昔話に花を咲かせ? 連絡先を交換する。この日を境に、佳代からよく連絡が来て、一緒に遊ぶまでの仲へと進展していった──。
そんなある日、俺達は喫茶店でコーヒーを飲んでいた。佳代はスプーンでコーヒーを混ぜながら「ねぇ、豊君は彼女いる?」
「いないよ」
「じゃあ好きな人は?」
「いないよ」
佳代はスプーンを皿の上に置くと、「じゃあ……私と付き合ってみる?」
「──うん、いいよ」
「ふふ、やった」
佳代は嬉しそうな笑顔を浮かべ、コーヒーを口につけた──こうして俺達は付き合いだし、佳代が好きな物を買いたいだけ買ってあげたり、誕生日でもないのに高級レストランで食事をして、全額出したりした。
だから「──ねぇ、豊。そろそろ私達、結婚しない?」と、佳代が言い出したのは、そう遠くなかった。
「ごめん。いま仕事が忙しいから、まだ待っていてくれないか?」
「そう……分かった。」
佳代は納得いかない様だったが、そう返事をした。それからも俺は同じ生活を繰り返し、佳代に貢いだ──その間、佳代は余程、俺と結婚したいのか、何度も結婚しないか? と聞いてくる。そのたび俺は、もう少し待ってくれと答えるのだった。
ある日の休日、今日は珍しく家デートをしていて、ソファでくつろいでいると、佳代は擦り寄ってきて肩に頭を預けてきた。
「ねぇ、仕事の方はどう?」
「落ち着いてきたかな?」
「じゃあ、結婚……しようよ」
佳代は自信がなくなってきたのか、躊躇いがちでそう言った。
「──いいよ」
「え! 良いの!?」
「うん」
佳代は嬉しかったようで、俺の手を取り、激しくブンブンと上下に振った。ふ……そうだろうな。俺はイケメンではないが、金ならいくらでもある。
※※※
更に月日は流れる。佳代は結婚してから直ぐに仕事を辞めた。俺は仕事が忙しいと言って、家に帰ることなく佳代の好きなようにさせた──。
そうすると佳代は次第にブクブクと太っていき、夜遊びに金を費やすようになっていった。ふふ……そろそろだな。
俺は久しぶりに家に帰り「ただいま」と声を掛けながらダイニングに入る。
「あ、お帰りなさい。帰ってくるなんて珍しいわね」
「あぁ……今日は佳代と大事な話をしようと思ってな」
「大事な話?」
佳代は思い当たる節があるのか、眉を顰める。俺はスーツのポケットから探偵に撮って貰った写真を取り出すと、「これだよ」と、テーブルに置いた。
佳代の顔が真っ青になっていく──そりゃそうだ。浮気相手とホテルに入る写真を見せられば正気でなんていられないだろう。
佳代は俺に向かって駆け寄り、腕をガシッと掴みながら「ちょっと待って。これは無理矢理だったの……ねぇ、もう一回。もう一回だけチャンスを頂戴よッ!」
必死だな……。
「残念だけど無理ッ! チャンスを頂戴? ハッ! 俺は最初からお前にチャンスなんて与えた覚えはないよ!」
「え……どういうこと?」
「俺は高校の事を許したことは無いッ! 青葉 大悟が首になった!? 違うッ、俺が首にしたんだッ。お前共々、不幸に陥れる為になッ!!!」
「そんな……」
佳代は力が抜けたようにズルズルと腕から手を離す。
「贅沢に慣れて、普通の生活以下に戻るのは、しんどいだろ? ざまぁみろッ!!!」
俺はそう吐き捨てると、背を向けて部屋を出た──。
※※※
俺は佳代と過ごした家を出て、もう一つの家に戻る。
「ただいま」と、俺は声を掛けながらダイニングに入った。すると洗い物をしていた静香は、手を止めて、わざわざ俺の方へと近づいて来てくれた。
「おかえりなさい」
「静香……ついに終わったよ」
静香はそれだけで意味が分かったようでニコッと微笑む。
「長い間、お疲れ様でした」
「うん。長い間、付き合ってくれて、ありがとう」
俺はそう言って静香をギュッと抱きしめた。
「うん」
こうして俺の復讐劇は幕を閉じ、静香と本当の愛を育んだ。