決着
ちょっと短いです。
避けられず、確実に、一発でトロルを倒すためには。
……まぁ、方策はある事にはある。
かなりの博打ではあるが。
だが、結局何もしなくてもこのままじゃ死ぬのだ。救援もまだ来ないだろうしね。
ここは、一か八かだ。どうせもう1回死んでいるし、2回目がなんだってんだ。
よし、やろう。
もう考えている時間は無い。トロルの位置を確認し、正対して身体強化を解除する。
身体がどっと重くなり、限界を超えて酷使された骨と筋肉がジンジンと熱を持ったように痛んだ。
無事な右手をトロルへと向け。
「──其を過ぐれば無音があり、其を過ぐれば未来があり、其を過ぐれば闇が在る 其は門 潜りし先は 何も無い》──【加速陣】」
身体から膨大な魔力が流れ出て行く脱力感と共に、眼前、突き出した掌の先に黄金の魔法陣が展開された。キンッと金属質な音を立てて展開されていくそれは、半径1メートルを超すような巨大なものだ。
同時に、周囲の空気がゴオォっと轟音をあげて砂を巻き上げながら魔法陣へと吸い込まれていく。
次第に魔法陣の色が薄らいでいく。大量の空気を加速しているので、込められた魔力が消費されているのだ。
「はぁっ、はぁっ……」
怪我した脚を引き摺りながら、一歩前へ。そして、そのまま扉を押し開けるように右手を魔法陣へと押し当てる。
刹那。
ぐぅんっ
強烈な加速感と共に、世界が後ろへ吹っ飛んだ。
凄まじい速さで引っ張られた右腕の関節という関節が、ちぎれたかと錯覚するほどに痛む。
トロルがその驚異的な動体視力で、吹っ飛んでくる俺を迎撃しようと、棍棒を振り上げるのが見える。
しかし。
その頃にはすでに、トロルの懐奥深くまで入り込んでいた。
トロルは動けない。その棍棒で打ちのめす目標を見失って、困惑している。
動かなくなった右腕を無理やり動かして、その掌をそっと、トロルの腹に添える。
トロルが眼球を下へ向けた。
目が合った。
笑う。
「…………俺の、勝ちだ────《噴炎よ 貫け》」
キンキンッ
黄金と、深紅。
二枚の魔法陣が真っ直ぐ、重なるように展開される。
加速術式が起動し、俺の髪を揺らしながら空気を吸入する。
発火術式が起動し、シュボッと小さな熾火を漏らす。
そして。
目が焼けるほどの閃光と、鼓膜が破れるような轟音と共に、巨大な火柱がトロルの土手っ腹を貫いた。
脂肪と筋肉を一瞬のうちに灰にして、背中へと貫通したそれは、少し離れたところで、圧縮されたガスを撒き散らして小規模な爆発を起こした。
……勝った。
術の衝撃で仰向けに倒れ込む中、そう確信した。
魔力欠乏と痛みで、意識が飛んでいく。目の前がぼやけていく。
そんなぼやけた視界の中、腹を吹き飛ばされて上半身だけになったトロルが、こちらに手を向けて、そして魔力を集中させるのが見えた。
あぁ、死んだな……。
そんな思考と、視界の端に映った、どこか懐かしい金色を最後に、俺の意識は途切れた。
あと一話、エピローグ的なのを書いたら2章は終わりです。




