試金石4
トロルが両手を後ろに大きく振り被っていて、その手には。
とてつもない密度の魔力回路が奔っていた。
何かヤバい攻撃が来る。咄嗟に魔導書に掌を押し当て、俺とジョシュアを囲むように結界を張った。上級の複合結界、上級までの威力なら耐えられる。
モルガンは分からない。自分でどうにかやってくれることを信じる。
魔力が一つの棍棒を形造り、トロルがそれを振り下ろす。
それが地面に叩きつけられるまでの間、世界はやけにスローモーに見えた。
こんな感覚、なんか覚えがあるなぁと、どこか他人事のように思いながらそれを眺めていた。
インパクト。
衝撃は無かった。
音も、無かった。
ただ、魔力回路が地面を舐めて広がっていっただけだ。
瞬間。
辺り一帯の地面が爆散した。
いや、激しく隆起したのだ。あまりにも変化が激しかったものだから、あたかも爆発したかのように錯覚したのだ。
結界は、よく保ってくれた。
まず、地面から勢いよく生えてきた岩々を、軋みを上げながらも受け止め、さらに飛んで来る土塊を弾き、そして、倒れてきた石柱を受け止めたところで、とうとう限界を迎えた。
結界の術式が崩壊し、俺たちを守っていた不可視の盾がふっと消え去る。支えるものを無くした石柱は、そのまま俺たちへと倒れ込んで来る。結界に阻まれていた石柱が、勢いよく伸びてくる。
今から魔導書を開き、これらを迎撃する時間はない。短縮詠唱をしても間に合わない。
石柱が視界一杯になるまで迫り、死んだ、と思ったその時。
石柱が突如、サラサラの砂となって崩れ落ちた。
見れば、周囲の岩も全て同じように砂と化し、視界に入る一帯が砂に塗れている。木々は全て先ほどの術で倒れたのか見えず、まさに砂漠の様相をなしていた。
立っているのは、俺とトロル、そしてモルガン。ジョシュアはさっき気絶した。
「ハアッ、ハァッ、ハァッ……!」
しかし、モルガンは立っているとは言っても息は荒く、脚は震えている。戦闘の継続は厳しい。症状からすると、おそらく魔力切れだろう。トロルの攻撃を防ぐので魔力が枯渇したのだろうか。いや、しかし……?
「っ……ォェエっ!」
モルガンが大きくえずいて膝をつく。
「お、おいっ!」
その尋常でない様子に、たまらず声を上げた。
すると、モルガンがゆっくりとこちらを向き、ニッと。
笑った。
そして、バタンと地面に倒れ伏した。
まさか。
俺はあることに思い至り、驚愕していた。
まさか、トロルの術を抵抗したのはモルガンなのか!?
この規模の、おそらく人位級以上の術を? それに、岩を土に還すような効果の術は一つしか知らない。土属性中級【土崩】だ。
中級で人位級をレジストするなんて、そりゃあ魔力が切れるわけだ。しかも、トロルの術を結界で防ぎながら。
俺にはできない。まずもってレジストという考えが湧かなかった。仮に湧いたとしても、やはり何もできなかっただろう。
アイツはあの術が結界では防ぎきれないこと、俺たちもそうであろうことを知っていたから、魔力切れの危険を冒してでも無理にレジストを試みたのだ。
認めよう。モルガンは天才だ。さんざ対抗意識とか燃やしてきたが、俺では到底敵わない。
そう、敵わないのだ。
まあ、うん。そんなことは最初から分かっていたのだけれど。だけどまあ、アイツが俺を残して退場したってことは、ある意味では俺を信頼しているってことなのだと思う。めっちゃポジティブに捉えると、だが。俺が、モルガンとジョシュアを守れると、そういうわけだ。
うん、まあ俺ってば一応次席だもんね。凡人だけど。クソ凡人だけど!! というか、俺の最近の自尊心の支えが次席だってことしかない件。ショボすぎて泣きそう。
……まあ、頑張って、いきましょう。




