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試金石3

大変遅くなりまして申し訳ございません。



「三人で、トロルを牽制し合いましょう!」


 身体強化を改めて掛け直し、トロルの方へと駆けながら、ジョシュアとモルガンにそう呼びかける。


 それだけで2人は俺の言いたいことを理解したようで、軽く目線を交わしたあと、左右に散開していった。


 俺がこれからやろうとしているのは、三人でトロルのヘイトをコントロールし、近づけさせないようにするということだ。

 具体的には、三人がトロルを囲むように離れて立ち、トロルが自分以外の人の方に向かったら、その背を攻撃し、注意をこちらに向けさせる。それを繰り返し、とにかく被弾を互いに抑えようという考えだ。ずっと術で防御をしているよりは、こちらの方が精神的負担も減るし、何より魔力を節約できる。

 問題があるとすれば、トロルが攻撃を無視して突っ込んできたら対処できないということだが……。まあ、中途半端に賢いようなので気付かないだろ。


 そうこう考えている間に、トロルの棍棒が届く距離まで迫っていた。


 トロルが棍棒を大きく振りかぶる。


 しかし、そんな見え見えの攻撃が当たるはずもない。余裕を持って回避し、なんなら、挑発がてら頭の上を飛び越してトロルの背後に着地する。


 膝で衝撃を殺し、即座に地面を蹴って離脱。距離をそれなりに稼ぐと、振り返ってトロルに身体を向ける。


 挑発の効果はあったようだ。トロルは他の2人を無視し、俺に正対していた。


「お馬鹿さんで何より、っと……」


 トロルが一歩足を踏み出そうとした瞬間、その背に2発の術が突き刺さる。

 ジョシュアとモルガンだ。


 トロルは苦痛に身を捩り、悲鳴を一声あげると、肩をいからせて背後を見る。その黄色く濁った瞳に映ったのは、ジョシュアだった。


「──っ!」


 トロルにジィーっと見られていることに気がついたジョシュアは、『やってやったぜ』的な顔を一変、ポカンと口を開いたのち、無言で踵を返し、全力ダッシュで逃走を始めた。


 絶対に作戦のことが頭から吹っ飛んでやがる。あいつは普段えらぶってるくせに、ここぞというときに肝の小ささが露見するのだ。


 全く……。


 とりあえず、あいつが遠くまでいってしまう前に、トロルをこちらに誘引しなければならない。


 離れたところに立っているモルガンに目配せをし、その詠唱が終わるのと同時に魔法陣を展開、タイミングを合わせて撃ち放つ。

 俺は小さく圧縮した火球を、モルガンは不可視の旋風を。


 属性の相性が完璧なのも憎らしい。こっちがヤツの詠唱から、使う術を割り出してくると考えでもしたのだろう。

 どこか思考を誘導されているようでムカムカする。


 が、俺の感情を抜きにすればその判断は極めて正しいものだった。

 同時に、それも同じ場所に着弾した二つの術は、重なり合うことで相乗効果を発生させた。

 周囲の空気密度が急激に上昇したことにより、火球の吸気術式の効率も上昇、その差は火力とその範囲として如実に現れた。


 ゴォォっと轟音を立てて炎が広がり、眩しいほどの光と炎があっという間にトロルを覆い隠す。


「のわっ!」


 しかし、燃料たる魔力の量は変わらない。術に込められた魔力は一瞬で燃え尽き、炎はかき消えてしまった。

 とはいえ、その一瞬でも十分なダメージは与えられたようで、トロルの巨大な体躯のあちこちからは煙が燻り、特に背中には一部炭化したように黒ずんでいるところもある。手に握っていた棍棒は消し炭のようになり、端の方からボロボロと崩れていっている。


 しかし……。


「ちょっとやりすぎ、じゃね?」


 いや、絶対にやり過ぎた。


 だってほら、ガチギレしてらっしゃる様子のトロルさんがこちらをゆっくり振り返って────って、なんでこっちにくるんだよぅっっ!?


  全力ダッシュでトロルから逃げる。後ろから音がするので、モルガン達が術を撃ったのだろうと思う。しかし、ちらっと後ろを振り返ったところ、怒り心頭のトロルはそんなものに気を取られた様子はなく、依然として俺のことを追いかけている。


 クッソ、ヘイト買い過ぎた!!


 つか、やったの俺じゃないし! 大体モルガンのせいだし! 行くならモルガンの方行けし!!


 あまりモルガン達から離れるわけにも行かないので、森の中を横切りUターンして元来た方向へ向かう。








 と、まあそんなこんな、その後も色々あって結局最初の状態に戻った。いや、最初の状態というのは正しくないな。俺たちは魔力を消耗しているが、トロルは何も消耗していない。火傷もすっかり治り、炭化した部位は再生すらしていた。

 結局、俺たちが不利になっただけである。

 まあ、それなりに時間は稼げたが。

 

「そ、そろそろ来る、よな……?」

 ジョシュアは魔力がすでに枯渇気味でふらふらだ。かろうじて立ってはいるが、次に術を使ったら魔力切れで気絶するだろう。

 対する俺はまだ割と元気だ。魔力には余裕がある。というわけで、ジョシュアのカバーに入っているわけなのだが。

「残念ですが、まだかと。つか、話してる暇なんてありませんよッ……と!」


 誠に残念なことに、例の作戦の効きはいまいちだった。最初の方はうまくいっていたように見えたのだが、時間が経つにつれヤツが慣れてきたのか、省エネ重視の術では誘引できなくなってきたのだ。

 さらに悪いことに……。

「グルゥゥウ……!」


 さんざつつきまわされたトロルは、とっても機嫌が悪くなっていた。

 ちなみに、その背中には現在進行形でモルガンの術がチクチクと刺さっているが、全く気にした様子はない。

 俺たちを睨め付けながら、度重なる攻撃でボロボロになっていた棍棒を投げ捨てる。


「ガアアァァァァァァァアア──ッッ!!」

 そして、大きく息を吸い込んだかと思うと咆哮した。

「のわっ」

 その暴力的なまでの大音声に、思わず顔を背け耳を塞いだ。


 衝撃波とでもいうべきものが通り過ぎ、ようやく顔を上げる。


 トロルが両手を後ろに大きく振り被っていて、その手には。



 とてつもない密度の魔力回路が奔っていた。




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