暴露
短いので、19時にもう1話上げます。
「──だめっ!」
バンっと音を立てて応接間のドアが開かれ、そんな声と共に俺の言葉を遮った。
「だめだよ? アルベール君。そう簡単に頷いたりしちゃ」
ユリアーナだ。
俺を咎めるような声音でそう言いながら、ツカツカとこちらに歩み寄ってくる。
「あ、はい。ごめんなさい」
なんで怒られているのかさっぱりわからないが、とりあえず謝っておく。
「いろいろ言いたいことはあるけれど……。まずね、この守銭奴おじさんは誰?」
「誰って……。商人のユリアンさんでしょう?」
さっきそのように自己紹介していたはずだ。
「…………」
ユリアーナは唖然とした顔でこちらを見ている。「なんだコイツ……!」と、まるで未知の生物を見ているかのような表情だ。
「ま、まさかじゃないけれど、それをそのまま信じちゃったの? 調べもせずに?」
「…………不用心でしたかね?」
今更ながら、なんで急に出てきた自称・商人のおっさんを信じてしまったのだろう。知らない人について行ってはいけませんだなんて、幼稚園で教わるレベルの常識だというのに。
……あ、俺、5歳児だったわ。
「………………当っっったり前じゃない!! 不用心どころじゃ無いわよ。名前なんてなんとでも言えるし、自称商人の詐欺師がこの世界に何人いると思っているの!? 大体ね、相手の言葉をホイホイ鵜呑みにしていいのは5歳までよ。社会に出たら素直さなんて弱点なの!」
「いや僕5歳なんですけど」
「だまらっしゃい!!」
ものすごい剣幕だ。普段の少し抜けた感じのユリアーナとは大違い。
昔、詐欺に引っかかった経験でもあるのだろうか。
「いーい? この人は商人じゃないの。この際だからバラしちゃうけれど、この守銭奴はヒルデマン公爵っていう、名ばかり貴族なのよ!」
ふわぁ。
さっぱり何言ってんのかわかんねーぜ。
ええと、公爵? このユリアンとかいうおじさんが? 高貴さとは程遠いナニカを感じるこの人が? とてもそうは見えないが。
それにしても、ヒルデマンってどっかで聞いた気が……?
「ちょっとユリアーナさん? 酷く無いかい? 私は名ばかりではなくって普通に貴族で、それも最上位の公爵だよ? きみのお父様をもっと尊敬してくれてもいいんじゃ無いかなぁって、お父様思うのだけど」
終始ニヤニヤしながら俺とユリアーナのやり取りを見ていた、推定・公爵のユリアンが、ユリアーナのディスりに耐えかねて口を挟んでくる。
成程、この2人の関係性がようやく読めてきた。
「フン、権力持ってないのは事実じゃない」
ユリアーナは実の父親に辛辣な返しをする。
ああ、反抗期なんだなぁ、と思わせる会話だ。
「権力なんていらないさ。金があるんだからね」
「そんなんだから社交界から追放されるのよ!」
そうしてあっという間に、やいのやいのと父娘喧嘩が勃発する。
俺は全くの蚊帳の外だ。
ええと。
「あの、ここで父娘喧嘩しないで欲しいんですが……」
このままでは話が進まないので、なんとか仲裁を試みるも。
「──大体、アルベールくんに先に目をつけたのは私。お父様の出る幕なんてないの!」
「いや、しかしだね。現にきみは何も行動を起こしていないじゃあないか」
いやん、私のために争わないでっ!
……と、冗談はさておき。
完全に無視された。これ、もう帰って良いだろうか。全く話が進む気配もないし。
「じゃあ、帰りますねー……」
研究発表会の片付けもしなきゃだし。
はぁ、これで支援の話はおじゃんか。あぁ、俺の希少素材とお金……。
「アルベールくん、話はまた今度で!」
ユリアンが、噛み付いてくるユリアーナを片手でいなしながら俺の背中に言った。
「……あ、はーい。期待しないで待ってますー」
今度は騙されないように気をつけよ。
こうして、俺のパトロンの話はなぁなぁのまま終わったのであった。




