研究発表会・4
なんという、ことだ…………。
俺はそんなユリアーナの様子にも気づかず、1人で勝手に動揺していた。
まさか、1番邪険にしてたユリアーナが、1番の上客だったなんて!
やばい、干されちゃう! 経済的に!
ここは、やはり……媚を売らねば!
「ぐへへ、おぜうさん、ウチの商品買わんかい? 今なら、大量購入で10%引き! お得だよぅ?」
揉み手をしながら、精一杯の誠意をもって、ユリアーナに媚を売る。
「……いや、どうしたのアルベール君。控えめに言って──すごく、気持ち悪いよ?」
ドン引かれてしまった。解せぬ。
まあ、まだ確定的ではないとはいえ、一応買い手がついたことは喜ぶべきだろう。とはいえ、在庫はまだまだ大量にある。もっとしっかり、売り込まねば。
「オホン、少し動揺しました。まあ、ここで話をするのも何ですし、正式な話はまた後日、と言うことでどうですか?」
できれば、今度の交渉は店主たるトマスに丸投げをしたい。あの無口というか無愛想ぶりでは頼りにならないが、俺にかかる責任はなるべく小さくしておきたいのだ。
そもそも、俺に商談などできないし。
「そうね……そうしましょう。私も、念の為お父様にお伺いを立てないとだし……」
「お父様……って、公爵ってこと?」
ユリアーナとの取引じゃないの? そもそも、公爵って国王の次に偉い人じゃないか。そんな人と商談? 絶対にゴメンだ。やはり、どうにかしてトマスに丸投げをせねば……。
「まあ、そういうことになるわね。それはそうと、場所は? そっちの魔導具工房でいい?」
「いやいや! 公爵を呼びつけるなんて恐れ多い! こちらが出向きますとも、ハイ」
「別に、お父様が商談するわけじゃないわよ?」
なんだ、そうだったのか。
「……じゃあ、まあどこでも大丈夫です」
「じゃ、決まりね。……それはそうと、時間は大丈夫なの? 私たちは違うけれど、君はそろそろ講堂に行かなきゃならないんじゃない?」
「おおっと、そうでした」
これから講堂で、それぞれの研究会が成果を発表する時間があるのだ。この研究発表会のメインイベントと言ってもいい。とはいえ、見ていて面白いものでもないのだろうが。
大量の貴族連中の前で、たった1人で喋るだなんて、想像するだけで気が滅入ってくる。が、ここで頑張らねば碌な予算をもらえないのだ。やるしかあるまい。
◇◆◇
「──私の発表は以上となります。ご清聴、ありがとうございました」
ふぅ、と息を吐く。
ひとまず、発表はつつがなく終わった。貴族がたくさんいる手前、露骨な宣伝はできなかったが、魔法陣の有用性はそれなりに伝わったはずだ。
あとは質疑応答を済ませるだけ。とはいえ、元々研究されていない分野だ。深く突っ込んだ質問は来ないだろう。そもそも魔法陣の仕組みについて把握できるほどの説明をしていないし。
「どうぞ」
いくつか手が上がったうち、適当に選んで指す。
「魔導具ギルドの者だ。とても興味深い内容だった。ところで、君の発表した魔導具──着火器とやらは、どうしてそんなに小型化できたのかね? そこを詳しく教えて欲しい。あと、その製法を公開する予定は?」
一応、触りくらいは説明したはずだが、少しそれが足りなかったらしい。自分の仕事に直接関わりのあることだ。やはり気になるのだろう。
「今のところ、公開する予定はございません。仕入れ、お買い求めは提携先のトマス魔導具工房までお願いいたします。小型化に成功した理由と致しましては、その核となる物の複雑さに起因します。従来の魔導具は、ご存知の通り複雑で立体的な回路を必要とします。そのため、小型化するには職人の高度な技術が必要であり、限界がありました。それと比較すると、魔法陣はかなり単純でしかも平面的です。このような特徴を持つ魔法陣を利用することで、かなりの小型化をすることができました」
「よくわかった、ありがとう。となると、今後の魔導具は魔法陣を利用したものに変わっていくのかね? 君の考えを教えてほしい」
「そう、ですね……。すぐにそうなるということはないと思います。魔法陣の研究も始まったばかりですし、開発に成功した魔法陣もそれほど多いとはいえません。何よりも、現在の段階では魔法陣を使って複雑な動作を制御することはできません。そのような点では、既存の魔導具に一日の長があると思います」
「理解した。我々の仕事が無くならないようで安心したよ」
そう苦笑して魔導具ギルドの人は腰を下ろした。
「あ、あはは……」
やべぇ。ちょっと違う返答をしていたら、魔導具ギルドから干されていたかもしれない。
「では、次の方──」
その後もいくつかの質問に答え、俺の研究発表は終了した。
あとは、適当にブースを回ってから、自分の研究会のブースを片付けるだけ──だったはずなのだが。
「──きみきみ、ちょっと話があるのだが」




