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研究発表会・3

 まあ、このパリピな空間を少し味わってもらったところで、本題に入ろう。

「ぅおっほん! 一応、この研究会の趣旨について説明をば。何せ、今年できたばかりだから知らないかと思うので」

「ああ、だから訊いたことなかったのか……。魔法陣なんてマイナー分野の研究会があったら知ってるハズだし」

 突撃槍! マイナー言うな!! お前の二つ名の方がマイナーなくせに。

「まあ、地域限定(マイナー)有名人さんは無視して」

「え、もしかして今バカにされた? バカにされたよね? え、それちょっと──」

「ジョシュ、静かに聴く」

「……ウン」

「……はい。ここ魔法陣研究会は、その名の通り魔法陣を研究してます。例えば、このミラーボールもその研究の成果の一つ。まあ、とはいえ今回のメインはこっち──」

 机の上に展示しておいた着火器イグナイターを手にとって、掲げてみせる。

「それは?」

 モルガンが1番に訊いてくる。

「まあ、ちょっとした魔導具です」

「魔導具……。この大きさで?」

 天才と呼ばれる彼にとっても、やはりこの大きさは非常識なようで、訝しげな顔をしている。

「まあ、手に取って見てみて」

 着火器自体はすでに量産済みなので、全員の手に渡る程度には準備してあった。

「ねえ、ここを押せばいいの?」

 ユリアーナが聞いてくる。

「うん、そう」

 カチッとレバーを引く。

「何も起きないけど。不良品なんじゃない、これ」

 不良品ではない。ただ、正しい使い方をしていないだけだ。

「ちょっと貸して」

 ユリアーナから着火器を受け取り、軽く説明をしながら実演の準備をする。


「これは、着火器(イグナイター)と言いまして、その名の通り火打石を便利にしたようなものです」

 ここで、一本の木の枝を取り出す。そこら辺で適当に拾ってきた、なんの変哲もない枝だ。

「こうやって、着火器から飛び出てる棒を押し付けて、このレバーを引くと……ほら」

 一瞬だけ魔力が迸り、木の枝の先にシュボッと火が着く。

 が、観衆の反応がやや薄い。


「その大きさにしたのはすごいと思うけれど……。でも、それだけなら普通の火打石でいいんじゃないの?」

 まるで期待外れだと言わんばかりの言い草だ。

 しかし、それは求めていた質問でもある。既存のもの(火打石)との違いを説明しなければ、この着火器が売れるはずがないからだ。

「よくぞ聞いてくれました。この枝をよく見て」

 火を消した枝をユリアーナの眼前に突き出す。

「よくって……ただの枝じゃない。少し焦げてるけど」

「ふふん、もっとよく見ないとわからないですよぅー?」

 まあ、どれだけ見ても分からないかもしれない。何せ、お嬢様だもの。

「うー……?」


「──湿ってんだろ?」

 ジョシュアが端的にそう言った。


「お、正解」

 意外なところから正解が出た。


 そう、この枝は湿っているのだ。とは言っても、ビシャビシャになっているわけではない。木から切り出した後に、まだ乾燥がされてないという生木の状態のものだ。

 普通、燃料に使われる薪は木を伐ってから1年ほど乾燥させてから使う。切り出した直後の木は水分を含んでおり、燃えにくいからだ。

 しかし、乾燥していたとしても火打石で薪に直接火をつけられるかというと、それは到底不可能だ。火打石は火花を使って火をおこすものなので、燃えやすいものに火をつけてから、ゆっくりと木に燃え移らせるのが普通。

 対してこれは、火をつけたいものに直接、一瞬で着火できる。仮に湿っていたとしてもだ。

 二者の差は歴然であろう。


「それにしても、よく分かりましたね。流石は伯爵家の突撃槍と言ったところですか」

 ちょっとヨイショしてみる。

「まあ、我が伯爵家は武門だからな。野営なんかも実家で一通りやった」

 と、ドヤ顔で言った。

「じゃ、武門な伯爵家にこの着火器(イグナイター)はいかが? ご注文は魔法陣研究会の提携工房、トマス魔導具工房まで! 今ならお安くしときますよ? 銀貨4枚くらいに」

「い、いや、いらない」

 即答されてしまった。

「……ちっ」

「し、舌打ちぃ!? それ、ちょ、酷くな」

 ぐちぐち言うジョシュアをユリアーナが押しのけ、こちらに身を乗り出して心配そうな声音で言う。 

「アルベール君、そんなにお金に困ってるの……?」

 やけに重そうな財布から、黄金の輝きがチラリ。

「や、大丈夫ですからその大金貨をしまってくださいつーか早よしまえ」

 久しぶりに見たこのブルジョワムーブ。入試の時が懐かしい。

 とはいえ、同級生の、それも少女に俺の尻拭いなんかをしてもらうわけにもいくまい。ここは丁重に遠慮させていただく。

「……ちょっとした冗談よ。そんな、真に受けなくても……」

 ちょっとした冗談で庶民が半年以上暮らせる額を出さないで頂きたい。まじで。

「ところで、さっきの話だと、この着火器(イグナイター)は商品として売っているってこと?」

 急に真面目なトーンに変わった。

「え、ええ、まぁ。売り始めたばかりなので、売り上げはあまり芳しくないですが」

 なぜそんなことを聞くのかと、若干訝しく思いながらも正直に答える。

「そう…………。じゃあ、私に売ってくれない? とりあえず……そうね、10個ほど」

「……………………へ?」

 なぜに? ユリアーナも術師なのだから、着火器なぞ使わずとも【着火(イグニション)】を使えば火をつけられるだろうに。

 ああいや、疑問に思う点がズレている。そもそも、個人で10個も買ってどうする? 使い捨てライターでもないのだから、交換する魔石さえあれば買うのは一つで十分だ。それとも、保存用、観賞用、使う用、布教用でそれぞれ2個ずつくらいだろうか。


 俺がユリアーナの唐突な言葉の意味を測りかねていると。


「──ああ、そうか。ユリアーナさんの実家──ヒルデマン公爵家は、商売が得意だったのだっけ」

 モルガンがあっさりとネタばらしをしてくれた。

「正確には、商家をたくさん抱えてる、ね」

 ユリアーナは何か含みを持たせた声音で、そう訂正する。

多分あと2回くらいでこのパートは終わります。

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