研究発表会・1
夏休みが終わった。
なんだか、案外短かったというか……。まあ、半分以上を例の実験に注ぎ込んだせいだろう。それについては後悔していない……していない。
……まあ、ちょっともったいなかったかなとは思う。まあしかし、それも全て金のため。
弟? そんなの知らないね!
そして、休み明けのこの時期。日本の高校では文化祭だなんだのとリア充どもがウキウキしている時期であるが──
我が術科学院では、文化祭などない。もっとお堅い真面目な行事、研究発表会があるのだ。それぞれの研究会が、今年の研究の中間発表をする会である。
うーん、真面目。
しかし、俺にとってはまた違う意味を持った会となる。
それはズバリ──ビジネスチャァーンス!!
我々(1人)魔法陣研究会は、研究発表という名の宣伝をするのだ。この半年、トマスと注力してきた着火器の宣伝である。
ついでに出来立てほやほやの美白結界も売り出そうかと思ったのだが、もう夏も終わりに近づいたこの時期では需要も少ないだろうということで、また来年の初夏に回すことにした。
まあ、今回の商品はどちらかというと平民向けであるし、自前の術で火をつけられる術師の卵たちには全く必要のないものであるが、そこは気にしないことにする。
とりあえず、予算がつけばいいのだ、予算が。
だけども、今更になって思ったのだが、俺の研究は術科学院で評価されるものなのだろうか。俺のは元々の術師を強化するというものではなく、術を使えない連中に術の恩恵を与えるものだ。既存の術師のメリットはほとんどない。
……まあ、それについても今回の発表の評価次第だろう。評価されたのならばこのままいけばいいし、されなかったらそれはそれでまた方針を考えればいい。
今回はそう構えて臨む必要もあるまい。
と、いうわけで。
始業式の放課後に早速、活動場所たる空き教室で準備を始めている次第である。
「どうしよう……」
正直言って、かなりヤバめ。本来ならば夏休みをたっぷりと使って準備をするのがセオリーなのだが、俺は夏休み中に全く準備をしていない。
だって、まさか休み明け1週間後に本番だなんて全く知らなかったのだ。今日、顧問のゲオルグに『発表の準備は順調かね?』と聞かれるまで、10月くらいにやるのかなと思っていた。
それがあと1週間。時間が足りない。発表時の原稿も書かなければいけないし、配布する資料の準備もせねば。他にも必要なことはいろいろある。デモンストレーション用の巨大魔法陣も作りたいし……。
ああ、やることが多すぎる!!
◇◆◇
あっという間に1週間が過ぎ、研究発表会当日がやって来た。
何だか、思ったよりも随分と人が多い。普段は無駄に広い敷地を完全に持て余している学院であるが、この時ばかりはその土地を有効活用できるようだ。敷地中に人がごった返している。貴族っぽい人や、軍人っぽい人、それに術師っぽい人など、いろいろな客が見受けられる。
まさに大盛況。
……まあ、窓の外は、だが。
半ば現実逃避気味に窓の外に向けていた視線を、いつもの活動場所の空き教室に戻す。
見事にガラッガラ。
チャチい飾り付けと展示がなされた空き教室には、客など1人もいない。外の盛況ぶりが嘘のよう。まあ、立地が悪いっていうのが大きい。そう、立地が悪いのだ。決して展示内容がショボい訳ではない。
この学院の研究発表会というのは、その名前から想像されるような、講堂で1つ1つの団体が研究成果を発表するというものではなく──もちろんそういう時間もあるのだが──それぞれの団体が、発表ブースを作って発表するという形のものなのだ。
ちょうど、車や何かの展示会のような感じ。
で、その都合上、やはり客が入る立地と入らない立地があるのだが──我が弱小の魔法陣研究会は見事に校舎の端のあたり(めっちゃ過疎ってる)に追いやられてしまったのだ。
そして、知名度がある訳でもないので、客が1人も入っていない。
たぶん存在さえ知られていない。
憎い、大きな研究会が憎い……ッ! 超極高速詠唱研究会とかいうふざけた名前の研究会が1等地を確保してるのが憎い!!
まあ、しょうがないっちゃあしょうがない。別に、ここでの宣伝効果なんてさほど期待してなかったしね、うん。別に俺の見込みが甘かったわけじゃあない。
これが終わってから、冒険者ギルドにカチコミかまして冒険者どもに売りつけてやれば良いのだ。
それで投資は回収、黒字回復! 完璧カンペキ、アハハハハ…………、ハァ……。
…………ヤベェ。トマスにあれだけ売れる売れるって言っといて、欠片も売れなかったらマジでやばい。俺の責任もやばいが店の経営もヤヴァい。割とガチで倒産しちゃうレヴェル。
…………あああ神様仏様! どうかこのおバカな転生者めに遣いを!! 遣いをッ!!
そんな俺のやけっぱちな願いが通じたのかどうか。
──むむっ、気配を感知!
ガバッと顔を上げる。
ガララっと戸を開けて入ってきたのは。




