美白結界
明けて翌日。
とりあえず必要な実験は全て終わったので、今日は予定していた魔導具作りに取り掛かる。
とはいえ、それほど大掛かりなものでもない、午前中いっぱい使えば終わるだろう。
用意するのは、ちょっとした金属板と魔石の粉。今回はいつもとは違う製法で作っていきたいと思う。
というのも、今まで俺が作ってきたのは魔導具というよりかは魔法陣。紙に描くというのもあり、正直耐久力は紙だった。
魔法陣自体使い捨てという側面もあったし、処分も楽だったからだ。
だが今回は普段使いするもの。それも、幼児が身につけるものだ。耐久力にも、安全性にも気を遣わねばならない。
そういう事情から、バイト先の店主・トマスに教えてもらった、一般的な魔導具の作り方を魔法陣に応用して作るのだ。
とはいえ、俺はそれほど手先が器用という訳ではない。ところどころ魔法陣の力も借りながら、やっていこうと思う。
まずは、金属板に紫外線ブロック魔法陣(仮)の形をした溝を掘る。普通の魔導具師はここで彫刻刀的なものを使って彫るらしいが、さっき言った通り俺は手先が器用ではない。
そこで出てきますのが事前に用意したこの魔法陣! なな、なんと!
土術の【掘削】を応用して、指定した通りの形を勝手に彫ってくれるのです!!
……といっても、それほど便利なものではない。彫るものの形が違えば、魔法陣も一から作り直しだからだ。完全オーダーメイド。これを作るのにもかなり時間が掛かったのだが、この作業が終わればすでに用済み。
例えるならば、シールドマシン。
……むしろ分かりにくくなったかもしれない。
っと、そんな無駄話をしているうちに彫り終わったようだ。板の上に置いた魔法陣をどかし、彫刻された魔法陣の形を確認する。
うーん、細かい。俺だったら間違いなく失敗していただろう。
で、次はこの板に魔石の粉をぶっかける。
そして、魔石の粉を手で軽く払うと、彫られた溝にだけ粉が残った。
一応、これでも魔導具として機能はするだろう。しかし、所詮は粉。すぐに吹き散らかされてしまい、使い物にならなくなる。
そこで重要なのが次の工程だ。
とある特殊な術を使い、魔石を硬化、接着する。
この術というのは、魔導具師なら全員が使えるものらしい。逆に言えば、魔導具師でないものは使えない。
いわば、魔導具師を魔導具師たらしめているのがこの術であると言ってもいい。
魔導具師は魔石を利用するが、紙に擦り付けるだけで線が描けることからも分かるように、本来とても脆いものなのだ。それを術で硬化させることで、実戦にも耐えうる杖を作ったり、何百年も動き続ける魔導具を作ったりするのだ。
つまり、魔導具を作る上でこの術は必要不可欠なのである。
そんなこの術は、魔導具師たちと魔導具ギルドによって独占されている。
本来ならば、俺のような魔導具屋でバイトしているだけの門外漢には知るよしもない。
しかし、なぜかトマスが教えてくれたのだ。もちろん、誰にも教えないという条件付きで。
そんなわけで、俺は【魔石硬化】を習得したのである。
術の仕組みはさっぱりだが、せっかくなのでありがたく使わせていただこう。
「《魔石よ集いてかたちを成せ》」
案外短い呪文だが、消費する魔力はさほど多いわけでもないので、こんなものなのかもしれない。
詠唱によって構築された魔力回路が霧散した後も、金属板と魔石の粉にはこれといった変化は見られなかった。が、板を逆さまにしても粉が落ちてこないのを見るに、術は問題なく成功したのだろう。
あとは、これを保護する筐体を作るだけ──
が、実はこれ、すでにトマスに作ってもらっていた。なので俺がするのは板を嵌め込むことだけ。
せっかく作った魔石回路を傷つけないよう、慎重に嵌め込む。
熟練の魔導具職人の作った筐体に狂いはなく、寸分のずれもなくピッタリとはまり込んだ。
とりあえずは、これで完成。
出来上がったのは、普通のお守りよりも一回りほど大きい長方形の板。
この大きさにまで縮めるのが大変だったのだ。
ちなみにこれ、材料費からトマスへの筐体の制作依頼費用まで、全部俺持ち。材料は全てトマスに融通してもらったので、全て俺のバイト代から天引きされることになる。
この金は、将来きっちりとルークに返してもらわねば。金利は10日で1割で良いだろうか。
……流石にそれは冗談だけども。
しかし、今回俺がそれだけの働きをしたというのは事実。少しくらいチヤホヤされても良いのではないか。
まぁとにかく、お披露目と行こう。
昼食の後、席を立とうとするみんなを呼び留める。
「どうしたの、急に」
レイチェルがルークにお乳をやりながら聞く。
生まれてから今まで、一度も陽の光を浴びたことがないルーク。こういうと可哀想な感じがしてくるが、要するにただの引きこもりである。0歳にして引きこもりだなんて、将来が思いやられるなぁ我が弟よ!
……ま、陽の光を浴びないようにさせたの俺なんだけどね。
「おほん! えー、この度、ようやく完成しました」
「……何がー?」
ミーティアが気のない返事をよこす。
この後にゲルハルトのところに行くという用事があるので、早く出たいのだろう。
まあ、とにかく──
「よくぞ聞いてくれました! 完成したのは、これ──【美白結界】です!」
後ろ手に持っていた魔導具──元・日焼け防止術(仮)、正式名称美白結界を掲げ持つ。
「……。へー」
反応が薄ぅい!!
……クソっ、こんなのやってられっか!
どうにか頑張ってアゲアゲにしていたテンションをかなぐり捨てる。
ああ、疲労がどっと押し寄せてきた……。
「……まあ、そういうわけで。これを使えば、ルークが外に出ても問題はないはず、多分」
「あら、そうなの? やっとお散歩ができるわね」
感動が薄ぅい!
もっとこう、『すごい、すごすぎるわアルちゃん! なんて素晴らしい子なの!? もう天さ(以下略)』とかなって欲しかった。
まあ、こうなるのは知ってたけど。うちの連中はみんな術なんてチンプンカンプンだから、この美白結界の凄さを理解していないのだ。
くそっ、これ一つで日焼けを完璧に防ぐ優れものなんだぞ……。貴族の金持ち連中に売りつけたら大儲け間違いなしなのに。
……まあ別にいいし。
近寄ってきたカールを抱き上げ、そのふわふわな毛皮を手で撫で付ける。
「よかったわねぇルーク? ほら、お兄ちゃんにありがとうって」
ごはんをあげ終えたレイチェルが、ルークをあやしながらこちらに向けてくる。
「だぁ」
へっ、間抜けそうな声出しやがって。
……ちょ、こっちに手ぇ伸ばしてくんなや。
そしてそのぷくぷくな手をにぎにぎ。
握手か? 握手がしたいのか? 握手をするなら金をくれ。最低でも、今回お前のために使った金、金貨2枚と少しを耳そろえてよこしやがれ。
その純粋無垢な淡青の瞳に向けて邪念を送り続ける。
金貨2枚トイチ、金貨2枚トイチ、金貨2枚トイチ………………。




