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天然日サロ

 翌日──

 

「〜♪」


 長らくお預けだった趣味の時間を得ることができた俺は、とてもご機嫌だった。

 今にも小躍りをしそうな気分である。

 自分の好きなものを作るというわけではないが、それはそれ。どんなものにせよ、術を作るのは楽しいものなのだ。何よりも、名誉とか金とかに直結するところが良い。


 で、今回作るのは、ルークのための『日焼け防止術(仮)』。名前だけ聞くとただの美容法と勘違いしそうだが、仮題なので何も問題はない。


 ちなみに、一応の構想はできている。

 

 ベースとなるのは、結界術中級【耐火結界アンチ・ファイア】。炎と熱を防ぐ結界術だ。

 で、なぜ炎と熱を防ぐ結界が日焼け止めに転用できるのかというと、まあ、これは俺の文系ザコ理科知識が情報源(ソース)なので合っているのかどうかはわからないのだけど……。


 それを説明するには、そもそも、【耐火結界アンチ・ファイア】が防ぐ『炎と熱』とは、具体的にはいったい何なのかを説明する必要がある。

 

 炎はまあ、簡単だ。激しい酸化反応によって、光と熱を発しているもの。熱は炎の副産物。

 ここでさらに説明しないといけないのは、熱が伝わる方法について。

 それは大きく分けて3つ。

 1つは伝導。金属板の片方を熱すると、熱が伝わってきて反対側も熱くなるというアレ。

 2つ目は対流。暖かい空気や水は密度が減るので、移動して、他の場所が暖かくなるというアレ。

 そして、最後の3つ目、放射。焚き火や、石油ストーブに手をかざしていると、熱風が当たっていないのにあったかくなるというアレ。


 つまり、【耐火結界アンチ・ファイア】は、この3つのルートで伝わってくる全ての熱を防いでいるのだ。

 その中でも、今回注目するのは3つ目、放射。

 

 皆さんも、聞いたことがないだろうか。『遠赤外線で中までじっくりと焼けます』という趣旨の、マイナスイオンばりに胡散臭いフレーズ。

 これこそ、まさに放射で熱が伝わる一例だ。

 つまり、【耐火結界】は赤外線を防げるということになる。そうじゃないと、遠赤外線でじっくりと焼かれちゃうからね。

 

 赤外線とはつまり、電磁波の一種。そして、アルビノの天敵たる紫外線もまた、電磁波の一種。波長の長さは違えども、大体同じようなものだろう、多分。

 

 そういうわけで、【耐火結界】のどこかをいじれば紫外線も防げるんじゃね?という発想に至ったのだ。

 

 まあ、どこをどういじる必要があるのかは、割と虱潰しに探す必要があるし、それをするにあたっては、きちんと紫外線が防げているかを調べる方法が必須なのだが……。

 実は、その方法についても一つだけ案がある。


 あまりやりたくはないんだけどなぁ…………。





 ◇◆◇






「あぢぃ……」

 

 ジリジリと照りつける太陽光線を背中に感じながら、手元の水筒の中身を少し、グビリと飲む。

 

 庭のど真ん中に寝っ転がってから、はや3時間ほどが経過した。

 別に日光浴をしているわけではない。そもそも、こんな炎天下に日光浴をするバカもいないだろう。

 そして、肌を焼いてガングロギャルを目指そうとしているわけでもない。


 俺がしているのは、れっきとした検証だ。


 試作魔法陣325号、326号、327号(以下略)の、検証である。

 これは実験の第2段階で、じゃあ第1段階は何をしたのかと言うと、肉を焼いた。

 魔法陣のどの部分が赤外線──つまりは電磁波──を防ぐのかを調べるために、魔法陣を図形ごとにバラして、ひとつひとつ遠赤外線で肉が焼けるかどうかを調べていったのだ。で、肉が全く焼けなかったものが、晴れて赤外線を防ぐ部分というわけ。


 そしてこの第2段階が、その赤外線を防ぐ部分をどういじったものが紫外線を防ぐのか、と言う検証。


 その前段階として、明らかに可視光線を防いでいる結界を除外。残ったものが、何を防いでいるのかよく分からん結界というわけだ。


 で、そのよくわからん結界たちから紫外線を防ぐ結界を選別するというのが、今やっていること。

 検証の発想としては簡単。それぞれの場所に種類の異なる結界を張り、ずぅっと太陽に当たっていて、肌が全く日焼けしなかったのが紫外線を防ぐ結界である。

 極めて身体に悪そうな検証方法だが、これ以外に思いつかないのでしょうがない。紫外線(ブラックライト)で光るインクとかがあれば、こんなことをせずとも済んだのに。


 これら一連の検証には、多大な代償が必要だった。

 日焼けで肌がヒリヒリするのは勿論、無心でただひたすらに肉片を焼いている時などは、ミーティアに変人を見るような目を向けられた上、レイチェルには『構ってあげられなくてごめんね』と、ガチで謝られた。

 構ってくれないのは別にいいが、精神攻撃をしてくるのはやめてほしい。

 

 まあそれも、何日か経てば俺の奇行には慣れてきたようで、特に気に留められるようなことは無くなった。


 それはそうと、そろそろこんがり焼けたかな……?

 

 これだけ焼けば十分だろう。あとは、場所による日焼け具合の違いを確認して……。

 

 …………あ。



 背中だから、見えねぇわ。

 しょうがないので、人に確認してもらうことにする。この時間だとミーティアはいないから、レイチェルに確認してもらうことにしよう。




 ◇◆◇




「どこも同じくらいよ? それより、大丈夫? 真っ赤だし、お風呂とか大変じゃない?」

 俺が渡した、背中の結界の配置図を手にレイチェルが言う。いったい今度は何をやり始めたのだ、とでも言わんばかりの口調だ。


 うん、肌の回復はできても、もう俺のイメージ回復は不可能かもしれない。

 

 まあそんなことは置いといて。

 実験は失敗したようだ。今回試した結界の中に、紫外線を含むものはなかったらしい。仮にあったのならば、その部分だけ綺麗に日焼けしていないはずだし。


 しかし落胆するのはまだ早い。何せ、まだ試していない結界は無数にあるのだから……。


 




 まじ絶望。




 ◇◆◇




 

実験2日目



「アル、なんで寝っ転がってるの? 日向ぼっこ?」

 ゲルハルトのところから帰ってきたミーティアが、奇妙なものを見るような目をしながら訊く。

「違うけど……。ちょうどいいや、俺の背中、どこかそこだけ白いところない?」

「ないよー? 全部真っ赤」


 失敗。



実験3日目



「どう? 白いところある?」

「ないわねぇ……」

 レイチェルが苦笑して言う。


 失敗。



5日目


「どう? 白(以下略)




10日目



「ど(以下略)




15日目

20日目


30日目


「あるよ? 大銅貨ハゲみたい! あははっ!」

 

 ハゲとは失敬な。俺の頭髪はまだファッサファサなのだ。

 

 それにしても、ようやく成功か……。もう疲労がすごくて喜ぶ気力すら湧いて来ない。だって、この実験に夏休みの半分以上を注ぎ込んだのだ。果たしてここまで時間を使う必要があったのかどうか……。


 で、件の紫外線ブロック魔法陣(仮)は、試作1798号か……。まさか4ケタを突破するとは。この夏休みで一生分の魔法陣を描いたような気がしてくる。

 とにかく今日はもう休んで、明日から魔導具の作成に取り掛かろう。



 もう当分は、太陽の光を浴びたくないなぁ…………。

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