太陽の忌子
「へぇ……。じゃあその弟くんのために、わざわざ夏休みに学院に来てまで調べ物してるんだ」
俺の前の席に腰掛けたユリアーナが、感心したように言う。
なんだ、結局好きなんじゃん、と、小声で続ける。可愛いやつめ、とか言う声も聞こえた。
どうせ聞こえていないとタカを括っているのかもしれないが、ばっちり聞こえているぞ、ユリアーナよ。
5歳児のまだ訛っていない聴力を舐めるんじゃない。
「何か言いました?」
「いや? 何も言ってないよー」
嘘つけ。
しかし、ここを追及しても墓穴を掘るだけというのは分かっているので、話題を変えることにする。
「というか、ユリアーナさんは何でここに?」
ここ、というのは、学院の附属図書館のことだ。以前勝手について来た時は全く興味なさげだったのに、どういう心境の変化だろうか。
「え、ええとまぁ、色々と事情があってね……」
俺の質問に、ユリアーナは少し狼狽えた様子で、
「……ま、私のことはいいじゃない。で、何か分かったの?」
露骨に話題を逸らした。
……まぁ、お互い様かな、うん。
深堀りはしないでおこう。
「まぁ。《太陽の忌子》とやらの正体は」
そう、わざわざ夏休みに図書館に来たのは、産婆の言っていた《太陽の忌子》という言葉について調べるため。
カティに聞いてもはぐらかされるばかりで教えてくれなかったので、少し気になっていたのだ。
まあ、図書館に来てまで調べることでもないような気もするが、気になってしまったのだからしょうがない。
「《太陽の忌子》ねぇ……。でも、あれって迷信なんでしょう? ただ髪の毛が白いだけっていう」
「まあ、それはそうなんですけど。ただ、体質としては実在するんです。というのも──《太陽の忌子》って、どうもアルビノのことらしいんですよね」
調べていくと分かってきた、《太陽の忌子》の体質。
それには、アルビノによく見られる形質──色素の薄い体毛、肌、そして日焼けしやすい体質など──との共通点が、かなり多く見られたのだ。
「あるびの?」
「あぁ……。時々、白いヘビとかいるでしょう? ああいうやつのことです」
「そうなの? 私、ヘビ見たことないから分かんない」
そうだ、コイツ貴族令嬢だったわ。
「……まぁ、そういうのがいるんです、人間にもね。で、それが《太陽の忌子》なんじゃないかって」
「ふぅん……?」
ピンと来ない様子だ。まあ、別にこの人に理解してもらう必要はないし、この後やりたい事もある。
「じゃ、用事もあるので僕はこの辺で」
「……じゃーね」
◇◆◇
「おかえりなさい、アル」
「うん」
レイチェルへの返事もなおざりに、ベビーベッドへと近づく。
もちろんそこでは、そのベッドの主たる俺の弟がグースカと寝ている。
ルーカスと名付けられた弟だ。
やはり髪の毛は白く、肌は血の色が透けて、ほんのり紅に色づいている。まだ目は開いてないので瞳の色は分からないが、おそらく赤か、薄いブルーだろう。
「母さん。今日、ルーク外に出した?」
「出してないわよ。あと4日くらいはずっと室内にいようと思うのだけど」
「うん。多分、当分外には出さないほうがいいと思うよ。あと、室内でも日光は当てない方がいいかも。この天気じゃあ、すぐに日焼けしちゃう」
実のところ、怖いのは日焼けではなく日光そのもの。具体的には紫外線だ。
紫外線といえば、日焼けの原因になるものとして有名だが、アルビノにとっては日焼けだけでは済まない、危険なものだ。というのも、紫外線の防御機構たるメラニンの生成に問題があるアルビノは、紫外線をブロックすることができない。すると、日焼けはもちろん、ひどければDNAを破壊され、皮膚がんの原因にもなってしまう。
普通の人でも起こりうることだが、アルビノは特に顕著だ。
そのため、外出するときは紫外線対策が必須。
日本なら全身に日焼け止めクリームでも塗りたくって、UVカットパーカー着て帽子かぶって日傘を差せば完璧なのだが、生憎とここは異世界。
日焼け止めクリームなど存在しないだろうし、あったとしても、十分な効果は期待できない。UVカットパーカーも勿論ない。
かといって、帽子と日傘だけでは不十分だ。
………………作るか、日焼け防止術を。
うん。まあ俺がそこまでする義理があるのかというと、全くない。ただ、このままではルークは一生外に出られないだろうし、外に出たとしても日焼けに悩まされるので、そもそも外に出たがらないだろう。
流石にそれは、可哀想だ。
何よりも、家族であるし、ルーク自身には罪はない。
理由としては十分だろう。
では、今年の夏休みの宿題は『日焼け防止術を作る』ということで。




