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先生

少し前に累計PVが一万超えてました。いつも読んでいただきありがとうございます。




 というわけで、俺はミーティアに案内されて、先生なる人物が営む剣術道場に来ていた。

 なんと言うかその……、思ってたのと違う。

 王都の外れの外れ、街壁のすぐ隣に建っている道場……だよな、これ──は、なんともオンボロな外観をしていた。全体的に廃墟一歩手前くらいの様相で、大事な看板も傾いている上に苔むしていて文字が判別できない。

 これでは道場破りも看板を欲しがらないだろう。

 金がないせいでこんなことになっているのか、それとも道場主がズボラなだけなのか。

 まあそれも道場主に会ってみればわかることだ。早速、中に入りたいと思う。


「たのもー」


 道場に入る時に言いたいセリフ第1位(自分調べ)のセリフを小声で呟きながら、立て付けの悪い扉を開く。ぎいぃぃいっと扉が軋み、オンボロ道場の内部が明らかになった。

 外観に反して、道場の中はそれなりに小綺麗だ。板の張られた床の上に埃は見当たらず、物が散乱しているということもない。体育館の半分ほどの大きさの道場には人っ子1人おらず、がらんとしている。


「いないなぁ……」


 道場主の姿は見当たらない。休みの日にも鍛錬をするようなバカ真面目な人間ではないらしい。

「多分、お家にいるんじゃないかな」

 俺の隣から顔を覗かせたミーティアが、薄暗い道場を見渡して言った。

「お家?」

 それはこことはまた別の場所にあるのだろうか。道場に来たのはとんだ無駄足だったかもしれない。

「うん。すぐそこだよ?」

「じゃあ、そっちに行ってみようか」

 例の如くミーティアの後ろについて道場主の家へと向かう。通りに出るのかと思ったら、道場の横を通ってその裏手に回った。少しジメジメとした小道の向こうに、こぢんまりとした家が見える。

 多分あれが目的の家だろう。ミーティアを信用していなかったわけではないが、本当にすぐそこだったらしい。


「ほら、ここ!」

 ミーティアが小走りで扉の前まで行き、ノックもせずに扉を開く。

「あ、ちょまっ」

 いくら知り合いとはいえ、勝手に家に乗り込むのはいかがなものだろう。

 まあ、ミーティアはすでに突入してしまったし、今更言ってももう遅い。ミーティアが開けっぱなしにしていた扉を潜って俺も家の中へと入る。


「のわぁっ!? なんで嬢ちゃんがっ?」

 部屋の中から、そんな声が聞こえてきた。この分だと、道場主が気づく間もなく部屋に凸ったのだろう。顔も知らぬ道場主よ、災難だったな。


 さて、部屋の中はどんな状況かな…………ってぇ!


 ミーティアが仰向けに寝転がっているオッサンに馬乗りになっていた。


「こらミーティア、人の上に乗らない」

「やだ」

 これでは、久々の休日を迎えた社畜父親と遊びたい盛りの娘のようだ。

「まったく……」

 ミーティアの脇を抱えて、オッサンの上から引き摺り下ろす。


「誰だか知らんが、助かったぜ……」

 ミーティアに乗っかられていたおっさんがよっこいせと体を起こす。

「どうも、騒がしくしてごめんなさい」

 俺は全く騒がしくしていないが、ミーティアの代わりに謝っておく。

「ああ、別に……って、ボウズ、どっかで会ったか?」

 そう言って、俺の顔をまじまじと眺めてくる。まさかナンパだろうか。異世界初のナンパがオッサンとか、やめていただきたい。どうせなら、美人なお姉さんが……って、確かにこの顔、どこかで見たような気が……?


「僕ら、どこかで会いませんでした?」

「ナンパならお断りだぜ」

 この言葉は異世界でもナンパの常套句だったらしい。クソどうでもいい事を知ってしまったぜ……。

 そもそも、誰がこんな死んだ魚の目をしたオッサンをナンパなんて……?


「あっ! まさか、守衛のオッサン?」

 だれかと思ったら、術科学院でゲオルグに圧迫面接を受けた時に、色々親切にしてくれた守衛のオッサンだった。

 この、そこらの路地裏でたむろってそうな雰囲気からして間違いない。

「あ? 確かに少し前に守衛はやってたが……」

 それがどうした? と言わんばかりの表情だ。1ヶ月も前に会った平民のガキのことなんざ、いちいち覚えてないか。

「僕ですよ、僕! ほら、術科学院でお世話になった……」

「ん……ああ、あん時のボウズか!」

 思い出して頂けたようでなにより。


「せんせーとアル、知り合いだったの?」

 部屋の中を物色していたミーティアが、俺たちのやりとりを聞いて少し驚いたように訊いてくる。

「そうだったみてぇだな、嬢ちゃん。……それよか、オレぁお前らの関係が気になるんだが」


「幼馴染だよっ! ねっ?」


 ミーティアが胸を張ってなぜだか誇らしげに即答した。

 良かった。これで「ただの知り合いだよ?」とか言われてたら、再起不可能だった。

 しかし、こうも誇らしげにその関係性を口にされると、少し気恥ずかしいものがある。


「ほぉ、幼馴染とな。──てことはだ。ボウズ、もしかして──」

「と、時にオッサン、ミーティアに金的教えたっていうのは、本当ですか?」

 照れ隠しから、オッサンの言葉を遮って本題に入る。知ってる人に会ったせいで少し忘れていたが、ここにきた理由は先生なる人物を見極めるためだ。さっさと用件を済ましてしまおう。

「ゲルハルトだ。……金的を教えたってのは本当だが、それがどうかしたか?」

「いや……。剣術教えてるのに、何で金的を教えるのかなぁって疑問に思いまして」

 まずは軽く。これでしっかり理に適った答えが出てこなければ、アウトだ。


「んにゃ、大した理由じゃねぇよ。『剣』術だからって、剣しか使っちゃダメな道理なんてないだろ?」

 なるほど正論だ。ルールの決まったスポーツではないのだから、使えるものは全て使うべきだろう。


「じゃあ、ゲルハルトさんは他にもそういう技を教えてるんですか?」

 ゲルハルトは少し考えてから答える。

「まあ、そうだな。例えば、目潰しだとか鼻を殴ったりだとか……ああ、不意打ちのやり方なんてのもやった気がするぜ。まぁ、色々だな」


 ゲスっ! 教えてることが完全に悪役のやる技なんだが。流石にそれは引く。まじで引く。

 

 確かに有用な技なのかもしれないが、果たしてそれは5歳児に教えるものなのだろうか。


「まだ非力だからこそ、だ」

 俺の考えを読んだかのようにゲルハルトが呟く。

「今の嬢ちゃんじゃあ、いくら剣が巧かろうと、正面から大人とやり合っちゃ確実に負ける。これは技術とかいう問題じゃない。力の問題だ」

 非力だからこそ、力の強弱が影響しない急所狙いを教える、と。

 考えてみれば確かにそうだ。俺はミーティアと互角にやり合っているが、それは同年代で体格が同じだからだ。なまじ俺の中身が大人だったせいで、ミーティアが大人にも勝てる天才児だと錯覚していたらしい。


「でも、力の問題なら『気』があるじゃないですか」

 つまりは【身体強化】だ。

「ボウズ。軽く言ってはいるがな、『気』の習得ってのは上級でやっとできるようになるもんだ。逆に、それができねぇんなら上級にはなれない。嬢ちゃんはまだ中級。『気』の操作なんてのは、当分無理な話だぜ?」

「そういうものですか……」

 俺はズルみたいな方法で【身体強化】を使っているが、本来はとても高度な技らしい。そういえば、ヴァルターもそんなことを言っていたような……。

 それならミーティアに身体強化の魔法陣を使わせればいいのだが、多分魔力量が足りない。まだ幼いので、絶対的な魔力量が少ないのだ。


「そういうもんだ」

「なんか……ごめんなさい」

 この人なりに、色々と考えた結果だったようだ。疑っていたのが申し訳ない。上手く言いくるめられた感もあるが、気にしないことにしよう。


「ハッ、ボウズに謝られる筋合いはないわな。オレぁクリスの野郎に頼まれたから教えてやってるだけだ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 これは照れ隠しだろうか。

 とりあえずは、ここに来た目的は達成された。部屋の様子を見る限り、これからゴロゴロしようという時にミーティアが襲撃してきたようなので、これ以上邪魔になる前にさっさと退散するとしよう。


「じゃあ、これからもミーティアをよろしくお願いします。今日は休日でしたね、押しかけてすみませんでした。ほらミーティア、帰るよ」

「うん」

 暇すぎてボーっとしていたミーティアに声をかけ、部屋を出ようとする。


「──あぁ、ちょいと待てや」

 が、ゲルハルトに呼び止められた。何だろうと思い、振り返る。

「なんですか?」


「あー、なんというか、だな。仕事を手伝ってくれないか?」

「仕事?」

 学院の守衛は辞めたようだし、他に掛け持ちでもしているのだろうか。しかし、最近はミーティアが道場に来ているからそんな時間はないはずだが。

「あぁ、言い方が悪かったな。ミーティアに剣術を教えるのを手伝ってほしいんだ」


「いや、僕剣術なんてミーティアより下手くそなんですが」


「そうじゃなくてだな……。まぁ、ぶっちゃけ言うとただの標的だな。ちょうど、術師との戦い方を教えようとしてたところだし」

 詰まるところ殴られ役になれと。

「僕殴られたくないのですが」

「治せるだろ?」


 ヴァルターといい、この人といい、なぜ剣士は治るなら殴ってもいい的思考をするのだろうか。それが不思議でならない。


「時間もないですし」

「ちょこっとでいいんだ。ちょこっとで」

「ちょこっととは?」

「週3くらいだな」

 全然ちょこっとじゃねえじゃん。ほぼ半分じゃん。まあバイトは週4もないから行けることは行けるのだが、休日がほぼ潰れることになる。


「僕そこらの術師とは随分変わってますし」

「弱いのか?」

「いや、ちょっと発動方法が特殊なだけです」

「なら問題ねぇな。ついでに、術師の立ち回りも教えてやる」

「ゲルハルトさん剣士でしょうが。それに、それは学院の授業で間に合ってます」

「学院のは突っ立って撃つだけだろ。オレが教えんのは冒険者の戦い方だ」


 むぅ。確かに、学院の授業の内容が突っ立って撃つだけなのは否めない。おそらく軍隊としての運用──つまり固定砲台としての運用だ──を前提としているのだろうが、俺は軍に入るつもりなんぞかけらもないので正直全く役に立たない。そうなると、ゲルハルトの提案はかなり魅力的なのだが……。


「……じゃあ、いいですよ。ただ、さっき言った通り僕の術はかなり特殊なので、それでも教えられるっていうなら、ですが」

 さんざん殴られた後で『ごめーん、やっぱ無理!』なんて言われた日にゃあ、確実にキレる自信がある。

 ミーティアのために何かするのはやぶさかではないのだが、タダで殴られるのは流石に嫌だ。しっかりと教えられるというのなら、殴られるくらいは我慢しよう。


「そのくらいなら問題ねぇよ。これでも、それなりに戦闘経験はある」

 いやだからそれ剣士としての経験だろうがと心の中でツッコミを入れていたら、ゲルハルトが「何なら今見せてくれても良いが」と続けた。


 今いくら『教えられる』と言っても、それはただの推測でしかなく、語尾には『かも』が付く。ならば、一度見てみて『できる』と断言してやろうという魂胆なのだろう。


「じゃあ、そうしましょうか」

 どうせ術を1発2発撃つだけだ。すぐに終わることだし、何も問題はない。


「そうだな。道場じゃ狭いし、どこでやるか……」

 

 ゲルハルトが壁に立てかけてあった木剣を手にとって立ち上がる。

 なぜに木剣?


「……ま、まさか模擬戦ですか?」

 まだミーティアとやった時の傷が癒えてないのだが。主に精神的に。

「当たり前だろ。ボウズの実力を見るんだから」


 俺の実力を見る……? なんだか話が変わっているような気がする。とりあえず俺の術を見てみて教えられるかどうか判断するって話じゃなかったけ。

 おっかしいなぁ……?


 

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