つうこんのいちげき
遅くてごめんなさい。
今日は休日だ。
ここ1週間程、トマスとの打ち合わせのせいでかなり忙しかったので、今日くらいはゆっくり休みたいと思う。
…………そう、今頃部屋でゴロゴロしてる筈だったのに。
「ホントにやるの……?」
「うん!」
まじで勘弁してほしい。
ミーティアの手には木剣、俺の手にも木剣。
何を隠そう、久々にミーティアと模擬戦をするのだ。近頃は道場で扱かれていたせいか、帰ってきてすぐ寝ることが多かったのだが、今日は道場も休みらしい。休みなのに家で鍛錬とか、それは果たして休みと言えるのだろうか。
そんなことよりも、最近は全く剣術なんてやっていないので、確実にボコされてしまう。なるべく痛くない負け方をしたい。
ちょっと結界術でもかけておこうかな……?
「《此の身を護れ、優しき──っ、とわぁっ!?」
ミーティアが剣を振り上げてこちらに踏み込んでくるのを見て、詠唱を中断し慌ててバックステップを踏む。
ヒュンッ
風を切る鋭い音を立てて、木剣が俺の目と鼻の先の空を切り裂く。
「あっぶな……。ちょ、ミーティア、まだ始まって……」
「立った時から、もう始まってるんだよ?」
踏み込みの勢いを殺さずに、もう一歩。
横薙ぎ。
躱わせ──ない。剣を立てて、どうにか受け止める。カンッと乾いた音が響いた。
そのまま鍔迫り合い。
力はほぼ互角だろう。だが……!
あらかじめ魔導書から転写しておいた身体強化の術を発動させた。魔力回路が輝き、動作がブーストされる。そして、2倍近くなった筋力を利用して剣を一気に押し込んだ。
「ず、ずるいよ!」
俺が身体強化を使ったことに気がついたのか、ミーティアが抗弁する。
「別に、ずるく、ないっ!」
さっきはミーティアが不意打ちしてきたので、おあいこだ。と言うか、ミーティアの得意分野、俺の苦手分野で戦っているのだから、このくらいのハンデは許してほしい。
調子に乗って、ミーティアを押しつぶす勢いで剣を押し込む。
「こ、のぉっ!」
ミーティアの身体の周りに、うっすらと白い線が浮かび上がる。
魔力回路だ。
これは、まさか──
「あ」
同時に、俺の剣が弾かれた。体が浮き上がり隙が生まれる。不味い。
幸いにして、ミーティアの剣はさっきの一合で振り切られている。まだ攻撃はできないだろう。
しかし、サッカーボールでも蹴るように、その足は大きく振り上げられていて。
「えいっ」
その白い脚が鞭のようにしなり──
「ンッッノォォオーーっ!?」
◇◆◇
「いたい……」
一番の急所にダイレクトアタックされた俺は、数分間の悶絶の後、ようやく復活した。どうもこの痛みに治癒術は効かないらしい。治癒術自体傷を癒すものであって痛み止めでは無いのだから、順当な結果ではある。あと、一応身体強化術として身体強度強化もかかっていたはずだが、コイツは全く働いた様子がなかった。どういうことか説明しやがれクソ野郎。
と、今では冷静に分析しているが、マジでとても痛かった。前世も含めて、人生で一番痛かったと言っても過言では無いだろう。何せ、ミーティアは加減というものを知らない。力一杯、とにかく全力で蹴ってくれたものだから、マジで一瞬潰れたかと思った。その上、身体強化が乗っていた可能性もあるのだから、その痛みは察してほしい。
危うく、アル子ちゃんになってしまうところだった。割とガチで。
「ご、ごめんなさい……」
何も知らずに大事なところを蹴り上げてくれたミーティアさんは、俺が地面をのたうち回って悶絶しているのを見て、なんとも無邪気に笑ってくれやがりました。多分自分がしでかしたことのむごさを知らず、俺の断末魔の叫びも冗談だと思っていたのだろう。
もっとも、俺が全然立ち上がる様子を見せなかったので流石にやばいと思ったらしく、オロオロしたり泣きそうになったり、しまいには母さんを呼んでこようとしたので流石にそれは止めた。
幼馴染に金的されて悶絶とかあまりにもダサすぎる。
今後このようなことがないように、そしてこれ以上の被害が出ないように、ミーティアにはお説教をせねば。
「……正座」
俺が復活して一安心、ふぃー、みたいな表情のミーティアに、冷たく一言。
「ふぇ?」
「いいから、正座!」
「う、うん」
ミーティアは唐突な要求に少し面食らいながらも、素直に地べたに正座する。
「まず、言いたいことがひとつ」
「……」
叱られるとでも思っているのか、身を縮こませている。
「男の子の股間は、簡単に蹴っちゃいけません!」
「………………なんで?」
ミーティアは可愛らしく小首を傾げた。でもその表情が悪魔にしか見えないのはドウシテダロウネ。
「なんでかって訊かれると少し困るんだけども……」
どう説明すればいいだろうか。とりあえず勢いで言ったはいいものの、言葉が見つからない。
「『大事なところ』だからかな。あと蹴られるとめっちゃ痛いし」
「私は痛くないんだけどなぁ……」
ミーティアは納得行かないという表情をしながら、自分のお股を手でバシバシ叩く。
「はしたないからやめなさい。…………まあ、きみは女の子だからね」
「女の子は痛くないんだ……」
ふっしぎー。
「ま、まあそう言うわけだから、今後みだりに蹴らないようにね。本当に危ない時は別だけども」
これ以上訊かれるとどんどんドツボにはまっていく気がするので、話を強引に切り上げる。
「うん、分かった! ……先生にも教えてあげよっと」
なんだって?
「何で先生?」
多分、剣術を教えてくれてる人のことだ。
「だって、教えてくれたの先生だもん!」
剣術の先生が金的を教える? まあ護身術の一環というふうに考えればいいのかもしれないが、かなり奇妙だ。剣道で金的を教えるようなものではないか。
一体どういう経緯でそれを教えるに至ったのかが全く予想できない。
「ど、どうしてそんなことを教わったの?」
「うーん……。わかんない! でもなんか教えてくれたんだー」
能天気な表情で答えた。
ほ、ほう。話を聞く限りでは、その先生とやらが唐突にミーティアに金的を教えたと。
意味がわからない。
一体その先生って何者? 5歳女児に金的教えるってどういうこと?
クリスによろしく任された身として、うちのミーティアに悪い影響を与える人でないか、見極める必要がありそうだ。




