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説得







 相変わらず人が来ない。


 学院も終わり、バイト先の魔導具屋の店番に立ってから早30分。相変わらず客が来ない。


 とは言っても、別に暇なわけではない。昨日の火打石(仮)について色々と考えているのだ。今は紙に設計とかを書いてみているのだが、魔法陣はともかく筐体など作ったこともないので、かなり難航している。

 一応、客がいない時は好きにしていていいという許可は貰っているので、バイト的にも問題は無い。店的には問題大アリなのだろうが。


「……客は」

 工房から、店主のトマスがぬっと顔を出して問う。

「来てません」

 顔も上げずに答える。

 この問いも30分ごとにしてくるものだから、少し煩わしい。どうせ1日に1人来るか来ないかなのだ。そんな頻繁に聞く必要もないだろうに。

「……そうか。……それは?」

 トマスがこちらへ歩いてきて、俺の手元を覗き込む。

「ん? …………ああ、研究会の研究です」

「……学院のか。…………何を作っている?」

 今日は珍しく饒舌だ。とうとう暇に耐えきれなくなったのだろうか。

「魔法陣研究会で、今は魔法陣を応用した道具ですね」

「……そうか」


 会話が途切れる。


「んー……?」

 考えにつまり、唸り声が出る。

 魔法陣については問題ない。だが、魔法陣への魔力の供給方法をどうするかが問題だ。

 1番手っ取り早いのは、使用者に魔力を込めてもらうことだが、これでは術師以外が使えなくなってしまう。他に方法があるとすると、大気中から魔力を抽出するか──これは効率が悪すぎる──それとも、魔石から魔力を引き出すか。

 後者が1番妥当だろう。その場合、魔石を入れるスペースが増えるので全体的にサイズが大きくなるのと、部品が増えて高価になるのが問題だろうか。

 あとは、俺がそんなものの設計をしたことがないこと。


 魔石をセットする方法は?

 魔石は交換式にするのか?

 材質は?

 形状は?

 強度は?

 値段は?


 問題は山積みだ。とりあえずは一つずつ潰していくしかないだろう。


 とりあえず、材質は仮に鉄としておこう。形は後で決めるとして、まずは中身がどのくらいの量になるか。

 必要なのは、基盤の働きをする魔法陣と、電池の魔石。この2つだ。

 魔法陣のサイズは限界まで小さくして5センチ四方と言ったところだろう。

 魔石は……正直言って、まちまちだ。使用を想定しているのは、いわゆる雑魚魔石。大体親指の爪の2倍くらいのサイズだ。


 全部をギッチギチに詰めて、5センチプラス少し。手のひらサイズに収まるだろう。



 …………と、ここまでは考えられた。

 ここから先は俺では無理だ。

 魔石をセットする方法──知らん。

 値段──知らん。

 形状──知らん。

 作り方──知らん。


 無理。作れない。どうすりゃいいのかも分からない。


 形状? こんな感じの正方形でいいんじゃね?

 

 適当に紙に形を描いてみる。

「……こりゃ売れねぇわ」

 紙に描いた完成予定図(仮)を見て思わず呟く。

 何というか、ダサい。俺の絵心のなさを抜きにしてもコレはない。買いたいとは思えない。


「…………それは、違うだろう」

 横から伸びてきた無骨な手が、俺の持つ鉛筆を掻っ攫う。

「ちょ、ちょっと……」

 非難の意を込めてトマスを見る。が、トマスは気にする様子も見せず紙に何かを書き加えていく。

 

 サラサラと鉛筆が紙の上を走り、あっという間に1つの絵が完成した。

 全体的にシンプルで機能性重視といった感じの縦長のフォルム、無骨な鈍色のボディ、そしてその中心で妖艶と輝く紫の魔石。

 そこには、俺が想像していた通りの火打石(仮)があった。


「すっげぇ……」

 素直な賛辞が口をついて出る。

 一瞬でここまでのものを考え、形にするとは。さすが本業。

「……これで、いいか」

 その声は、先ほどの俺の賛辞を受けて、心なしか照れくさそうに聞こえた。

「……ええ、えぇ! もちろんです! いや、すごいですね。機能も完璧に理解したデザインですよコレは!」

「……いや、機能は理解してないが」

「………………へ? ……じゃ、じゃあこの突き出てる棒は? どことなくチャッ○マンを彷彿とさせるこの棒はっ!?」

「何となくだ」

 

 な ん と な く ! !


 …………そうだよな、この世界にチャッ○マンあるはずないもんな。


「……ところで、機能というのは」

「着火です。火術の【発火(イグニション)】を使った」

「…………そうか」

 トマスは少し考え込んだ様子でカウンターから出ると、棚に並べられている魔導具の中から1つ手に取り、ゴトリとカウンターの上に置いた。

「これは?」

 握り拳より一回りほど大きい台座のような形をしている。


「……【発火】の魔道具だ」

「…………これが?」


 少し大きすぎやしないだろうか。見た目からして携帯用ではなく置き型のようなので、そういうふうに作られているだけかもしれないが。


「…………これが、限界だ」

 その声音には、少し悔しさが含まれていた。

「はぁ」

 しっかりとした魔法陣を使ったなら、ここまで大きくはならないはずだが。それとも、何か別の方法を使っているのだろうか。

「あの、中見てみたいんですが」

「…………」

 トマスは無言でドライバーのような工具を取り出し、魔導具のカバーを外していく。


「う…………ん?」

 魔導具の中身は、魔法陣など比べ物にならないほどの複雑な構造をしていた。板に魔石の線が引かれ、その板が何枚も重なっている。どことなく、前世の集積回路を思い出す作りだ。


「……………………ははあ」


 分かった。この魔石回路、【発火(イグニション)】の魔力回路と同じだ。ところどころ直線的に変えられたりはしているが、大体の形は一致する。

 そりゃあ大きくなるわけだ。魔法陣とそれが展開する魔力回路では、後者の方が圧倒的に複雑になる。

 そして、材料費も手間もかかるので、高価になる。


「ふへっ」

 思わず緩んだ笑い声が出てしまった。

 もし全ての魔導具がこの仕組みでできているのならば、俺は大儲けできるかもしれない。

 なぜなら、魔法陣で作ると同じ機能を持つ魔導具を、小さく、そして安く作れてしまうからだ。


「トマスさん。この魔導具、売ってみませんか」

「…………無理だ。そんなものが作れるとは思えない」

「絶対に、作れます。もうほとんどは出来上がってるんです。あとは、体裁を整えるだけで」

「……」

 トマスは無反応だ。流石に、5歳児の言うことなんて信用できやしないか。

「……証拠を、お見せしましょう」

 証拠見せりゃあいいってもんでもない気もするが、まずは信じてもらわないとどうにもならない。

 昨日描いた魔法陣を取り出し、その紙の余白を少しだけ破り取って魔法陣の中心に置く。そして、魔力を込める。


「…………!」


 声はないが、トマスの驚きが伝わってきた。なまじ魔道具というものに関わってきただけあって、今までの常識やら何やらを簡単に覆されたショックは相当だろう。


「これが、魔法陣です。魔道具よりも、小さくて、軽くて、手軽。どうですか」

「……それは、魔導具では、ない」

「そりゃ……魔法陣ですから」

「……私は、魔導具師だ。魔導具を作るのが仕事だ。これまでも、これからも」

「……」


 トマスは、俺が想像していた以上に魔導具師というものに誇りを持っていたようだった。言葉は少ないが、その誇りはしっかりと伝わってくる。でも──


「でも、今はどうなんですか? 作っても売れない。売れないから作らない。今のあなたは、果たして『魔導具師』なんですか? 『魔導具師』だと、胸を張って言えるんですか?」


「…………それは」

 トマスが言葉に詰まる。そして、その先の言葉を発する前に、畳み掛けるようにして問いかける。

「あなたにとって『魔導具師』ってなんですか? ただ魔導具を作るだけ? それとも、その先にある『何か』をつくるもの? そして、その『何か』は魔導具にこだわらないとつくれないものなんですか?」


「…………私は……、私は」

 トマスは顔を歪め、唸るように声を絞り出した。そして、深く息を吐き、元の無表情に戻る。


「………………まず、実物を見てからだ。それから、売り物になるかを決める」

「あ、ありがとうございます! あと……ごめんなさい、好き勝手言っちゃって。事情も知らないのに」

 さっきまで色々と綺麗事を並べちゃあいたが、結局は『金儲け』という私利私欲のために言った方便だ。自分のためだけに、他人の信念まで歪めて。とんでもない自己中野郎だ。

 そんな自己嫌悪に襲われる。


「……いい、気にするな。私も、焦っていたのかもしれない。……今日はもう遅い。帰って、詳しい打合せは今度にしよう」

「……じゃあ、さようなら」

 全部自分の思い通りに行ったはずなのに、なぜか家への足取りは重く感じられた。









次回はお気楽回の予定です。

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