入学
ストック分これで最後です。
「……よし!」
いまだ慣れない俺の部屋で、姿見で服装を確認する。特に乱れは見えない。この制服に袖を通すのは、採寸の時も合わせて2回目だ。
採寸したとは言え、5歳児の体格にちょうどいいサイズはなかったものだからかなりブカブカだ。服に着られている感が半端ない。
まあ多少の不恰好は許容しよう。これでも金貨一枚の服なのだ。
まあ払った金額分の価値はあるようで、中々にセンスのいい制服だった。
服装確認も済んだことだし、行くか。
部屋を出ると、すでに準備を終えたレイチェルが俺を待っていた。マタニティウェアというのだったか、ゆったりとしたワンピース姿だ。
俺は体のこともあるし、来なくてもいいと言ったのだが、どうしても来ると言って聞かなかったのだ。
「お待たせ」
「じゃ、行きましょうか。アル、その制服似合ってるわよ」
「あ、うん」
多分きっとお世辞だろう。こんなブカブカなのに、似合ってるなんてありえない。母親補正がかかってるのかもしれないが。
ともかく、俺たちは家を出た。
◇◆◇
道中、レイチェルが執拗に手を繋ごうとしてきたりしたが、他は概ね問題なく学院に着いた。
「じゃあ、頑張るのよ」
「ん、じゃあね」
案内に従い、レイチェルは一足先に講堂へ、俺はクラス分けを確認してから自分のクラスへと向かう。
全6クラスある中で、俺は1組のようだ。クラス分けの基準は知らないが、天才くんがウチのクラスにいるようなので、単純に入試の順位で振り分けているのかもしれない。
◇◆◇
何人もの新入生に追い抜かされながらも、教室にたどり着いた。
「ふぅ……」
とりあえず、貴族に絡まれずにここまで来れた。変な目で見られることはあったが、それだけだ。ひとまずは安心。あとは同じクラスに面倒なヤツがいないといいが。
ま、碌なヤツがいない貴族だ。あまり期待しないでおこう。
引き戸を開けて、教室に入る。中には数人の生徒がいるくらいで、まだ全員は集まっていない。黒板に貼られた座席表を見るに、俺は一番前の席のようだ。
なぜだかとても視線を感じる。やはり平民が珍しいのだろうか。
俺が席についた後も、ワラワラと新入生が入ってくる。
やはり貴族同士の繋がりだか何だかがあるのだろう、顔見知り同士で喋っている連中もいる。
その間俺は、目立たないように席でずっと縮こまっていた。何だかとても場違いな気がする。みんなウフフだのオホホだのと笑っていて、上流階級感がパない。
やべぇ、マジで場違い……。
冷や汗が出てきた。俺はこの学院でうまくやっていけるのだろうか。勉学はともかく、それが1番心配だ。
ま、まぁ俺は別に貴族連中と馴れ合うためにここに来たわけではない。一に勉強、二に勉強だ。勉強こそ本意なれと思いて、友まではいらず! ここに入った目的を忘れるんじゃない!
俺がテンパって心の中で変なことを考えていると、がららっと音を立てて教室の引き戸が開いた。
中に入って来たのは、20代前半くらいの若い男だった。
少し長めの灰色の髪に琥珀色の瞳。顔立ちはクリスには及ばないが、整っている。あえて分類するならば、爽やか系イケメン、といったところだろうか。
そんな爽やか系は、スタスタと教卓のところまで歩き、教卓に手をついて言った。
「やぁみんな、はじめまして!」
キラン⭐︎!というようなSEが聞こえてきそうなほどに歯をきらめかせて言った。
「僕はマティアス・シュタイベルト。人位級火術師で、この1年1組の担任だ。みんな、これからよろしくな!」
再び、歯をきらりん!と輝かせる。
………………胡散臭っ!
身体中から胡散臭オーラが噴出している。
まず、イケメンという時点で胡散臭い。そして歯が無駄にキラキラ光ってるのも胡散臭い。爽やかな感じが出てるのも胡散臭い。自分の容姿が良いって分かってるのも胡散臭い。とにかく全部が胡散臭い。
きっと、内心では腹黒いことを考えているのだろう。それなのに、ちょっとばかし顔が左右対称に近いからとかいう意味不明な理由でモテるとかイライラする。そんなヤツイケメンじゃない。クズメンだ。
そもそもイケメンというのは世間で誤解されがちな『イケてる面』の略ではなく『イケてるメンズ』の略であって決して顔がいいということを指しているのではないつまり顔が良くても中身クズだったらそれはイケメンではないというわけでそもそもイケメンというのは外見ではなく中身を形容する言葉であるから多少顔が左右非対称だったとしても中身が素晴らしければそれはイケメンというわけであってだがしかしそのことがわからない人間が何と多いことかッッ!!
ハァッ、ハァッ、一気に喋りすぎたぜ……。
つまり何が言いたいのかというと、爽やか系改めマティアス氏はイケメンじゃないということだ。まぁそれも俺の独断と偏見と主観に満ちた結論であってさっき俺が言ったように人間中身だから多少外見と表情と喋り方が胡散臭かろうがもしかしたら中は素直ないいヤツなのかもしれないという可能性も万分の一くらいは残っているだろう、多分。
一目見ただけで腹黒だと決めつけるのは早計。じっくりと観察をして、ヤツの本性を暴いてやる……!
「じゃあみんな、講堂へ移動しよう⭐︎!」
……やっぱ胡散臭ぇわ、こいつ。
前述の通り、これでストックが尽きました。ここで毎日更新は終わりです。これからは、書け次第投稿する予定です。




